第12話木に登る俺
人間あれだね。
芸が身を助けるって本当だね。
昔はさ。木登りしたよ。ええ。
結構な高さの木に登りましたよ。そして自慢しましたよ。
中学生ぐらいになるとなんで木に登るのが自慢になるのか分からなくなり自問自答しましたよ。
そして、人生木登りに意味はないと気付きましたよ。
でもね、それは間違いでした。
なぜなら……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やばいやばいやばい……っ! 」
弓矢を持って気が大きくなってしまっていたんでしょうな。
やっぱり男の子なのでそういったものを持つと打ちたくなるじゃないですか。
それで打つ。
徐々にうまくなって狙った木に命中しだすとね、さらに楽しくなって今度は動いているものに当てたくなるわけですよ。
ただ、鳥なんて小さいしめったに当たらないんですよ。
でね。
鹿とかは群生しているのかまあまあな頻度で見かけるわけですよ。
残念ながら素人な狩人なもんで、音や臭いで構える前に逃げちゃうんですけどね。
いたんですよ。
大物が。
丁度風下で、打ち下ろす感じの場所にいらっしゃるわけなんです。
構えて打っちゃうんだまた。
馬鹿だよね~。
冷静に考えりゃ危険だってわかるのに。
平和ボケ日本に産まれて、ジャングルってコンクリートのジャングルで揉まれてても、怖い上司に睨まれても平気の平左でしたよ。
別に殺されるわけでもあるめいにってな。
矢が丁度当たるわけなんですね。
下手クソなのにこんなときだけ当たるんですよ。
イノシシに。
「木っ!木に登れば!!」
モーレツな勢いで突進してくるイノシシに逃げるように手近な木に飛びつくと、どこにこんな力がって具合に登っちゃうんだね。
世界木登り選手権大会で準優勝できるぐらいのスピードで登っちゃうよね。
背を延ばしても届かないような場所にある枝もひょいっと飛び乗って危機を脱しちゃうよね。
でも、手負いのイノシシは怖い。手負いって言っても軽く刺さった感じ? イノシシが走り出したらポロッと矢がポロッと落ちたし。
俺が木に登って一息ついたらガツンガツン木にぶち当たって揺さぶりおとそうとするし、ウロウロ待ち構えてるし。
本当に怖いのはいなくなったな~と思って木から下りたとき。
アイツ近くの藪に隠れてこっち見てるの。
目が合っちゃったよ。
で、手近にある石をつかんでまた、必死に木に登ったさ。
また木に激突してくんだよ。
石を落してみたんだけど、まあ、あれだよね。効かないわな。
残ってる矢を打ち込んでみたけど、蚊が刺したぐらいのもんじゃないかな。
イノシシさんは諦めないのか木の周りをウロウロしてんだよね。
フーフー唸りながら。
カチカチ牙を鳴らしながら。
前足で地面を打ちつけながら。
落ち着きを取り戻してどっかいっても当分降りられなかったよ。
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