【第125話:こころ】

 その後、パーティーに加わったズックは【権能:導く者】を使いこなす訓練をし、今こうやってその力を遺憾無く発揮してくれていた。


「ぐぁぁ!やめろぉー!!この光を止めろぉ!!」


「「きゃー!!や、やめなさい!!」」


 ズックの『導きの光』を浴びて苦しむ魔人たち。

 オレとメイ、キントキは少し複雑な表情を浮かべながらも光を途切れさせないように頑張るズックをかばうように移動すると、静かにその光景を見守っていた。


「ズック、頑張れ」


 オレはそう小さく呟きながら、いざという時の為に油断せずに名も無きスティックをしっかり構え直す。


(頼む!このまま何も起こらず終わらせてくれ!)


 心の中で願っていると、魔人たちに何か変化がおき始める。


(なんだ?この違和感は……?導きの光の効果が薄れてきている??)


 先ほどまであれほど苦しんでいた魔人たちが、何故か今は少し落ち着きを取り戻し始めているのだ。


「ズック!大丈夫か!?」


 オレは光の効果が弱くなっているように思えズックにそう問いかけるのだが、返ってきた答えは


「ユウトさん!おかしいんです!『導きの光』は問題ないはずなんですがどういう事でしょう!?」


 というものだった。


「ユウト殿!おかしいでござる!なんだかあきらかに効き目が悪くなってきてるでござる!?(がぅうがううがう!?)」


 メイたちも何かを感じ取ったのかキントキが再度【権能:そびえ立つ山】を発動して臨戦態勢に戻っている。


「どうして!?えいっ!えいっ!」


 ズックは少しパニックになりそうになりながらも必死で導きの光を維持して頑張っているのだが、その効果は目に見えてどんどん薄くなっていく。


(これはいったい!?)


 そう思った時だった。

 とうとう光はただの優しい光に変わり、そして今まで蹲っていたゼクスたち魔人は静かに立ち上がってしまう。


「ズック!さがってろ!メイ!キントキ!クスクスとトストスの方を頼む!」


 オレはすぐさま指示をだして展開する。

 そしてオレはゼクスに向かって光の斬撃を飛ばそうと構えたのだが何かがおかしい。


「メイ!キントキ!ちょっとストップ!何か変だ!」


「え!?どうしたでごる!?まだ立ち直っていない今がチャンスでござるよ!?」


 確かにメイの言う通りなのだがどうしても何かひっかかる。

 そう思ってゼクスたちをよく見てみると


「……え?涙?……泣いてる!?」


 涙を流して泣いていたのだった。


「え!?そんなに痛かったでござるか!?」


(メイ……痛くて泣いてるんじゃないと思うぞ……)


 内心メイにツッコミを入れながらよく見ると、さっきまでとあきらかに顔つきまでもが変わっている。


「お、おい!ゼクス!いったい何なんだ?なんでそんな表情で泣いているんだ?」


 オレはどうしてもこのチャンスに攻撃する気になれなくて、直接ゼクスに思わず聞いてしまう。


「なんだ・と……?……俺様は泣いているのか?そうか……」


 そう呟くと今度はガクリと膝をついてしまう。


「いったいゼクスはどうなってしまったんだ?」


 するとオレの呟きに二つの声が重なり語りだす。


「私たちは思い出したのです」

「思い出してしまったんです」

「「だから……」」


「……いったい何を思い出したって言うんだ?」


 そしてクスクスとトストスがこたえようとした時、今度はゼクスが自嘲的じちょうてきな笑いを浮かべながら、


「オレ達がまだ人間だった頃の事をだよ。……そして……」


「「私たちが犯した過ちの数々を……」」


 そういった三人の魔人の目からは次々と大粒の涙が零れ落ちる。


「な!?元々魔人なんじゃなかったのか!?」


「あぁ。俺様たち3人はよ。元々普通の冒険者だったんだよ」


 衝撃的な発言にオレはどう反応したら良いかわからず混乱していた。


(オレ達と同じ冒険者だったのか!?しかし……、どうしたら良いんだ?人間の心を取り戻した感じだけど、だからって許して良いのか?でも……)


 オレは考えが纏まらず、どうしたら良いかわからず身動きが取れなくなってしまう。


「はは……はははは……。今更人の心とか取り戻せたってな……」


 そう言うとゼクスは黒い羽根のようなものに包まれた自分の手を眺めたあと、


「……ばけものだな……くっ!!」


 とてつもない魔力を放出しながら身動きが取れずにいたオレ達の隙をついて空に飛びあがってしまう。


「しまっ!?」


 そして気着いた時にはもう遅かった。


「「ゼクス様!!」」


 クスクスとトストスまでもが宙に逃れ、そのまま消え去ってしまったのだった。

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