【第124話:導きの光】

 セリミナ様の気の抜けた声が響き渡った後、我に返ったオレ達はようやくその言葉の意味を理解する。


「し、使徒でござるか!?ズック殿が!?」


≪そうだよ~。きっと君たちの助けになると思ったから、この子にも使徒になってもらったの~≫


 ちなみにオレ以外には最初は威厳を保った風で話していたセリミナ様だが、だんだんと無理ぼろが出てきて数日前から素の話し方になっている。


「せ、セリミナ様。でも、ズックちゃんは特に戦えるわけでもないのに使徒なんて危険では?」


「そうっちよ!こんな小さな子を巻き込むわけにはいかないっち!」


 リリルとグレスがまだメイよりも小さく戦うすべを持たないズックを使徒の仲間に加えたと聞いてセリミナ様に抗議する。

 セリミナ様の威厳はどこにいったのか……。


≪あ、あわてないのでしゅよ≫


≪あ、あわてないのですよ≫


 前言撤回……。最初から無かったのかもしれない……。

 凄い神様なのだが……。


≪数百年に一度あるかないかの異世界からの転生者だけにしか授けられないスキルがあるの≫


 そう言ってセリミナ様がズックを見つめると、ズックは わかりました と頷いて、


「これがその力です」


 と告げると、手のひらを壁に向けてその力を披露する。


≪導きの光≫


 ズックがそう言うと眩い光が手からあふれ出してくる。

 その優しい暖かさを含んだ光が部屋中を埋め尽くすと、まるでオレ達の心を浄化するかのように沁み込んで疲れをとっていく。


「おぉ〜。なんか凄いでござる!凄い暖かい光で癒されるでござる!」


 そしてズックが大きく深呼吸しながらゆっくり手を閉じると光は徐々に収まっていき、何事もなかったかのように部屋には静寂が広がるのだった。


 ~


「まだ使いこなせていないので弱いのしか出せないのですが、これがセリミナ様に頂いた【権能:導く者】の力の一つである≪導きの光≫です」


 ズックのその説明で静寂がとけると、オレは身を乗り出してセリミナ様に尋ねていた。


「え!?セリミナ様!?これって!?」


 オレはその力に見覚えがあった。


≪そうですよ。ユウトをこの世界に招いた時の力です。この力は異世界から来た者にしか扱えないのですが、まるで神様の導きのようにズックが現れたので思わず使徒にしちゃったの≫


 内心で だれそれの導き のくだりを突っ込んだら負けだとスルーして、オレはその後のセリミナ様の説明に耳を傾ける。


≪ズックのスキル【権能:導く者】は他者を導く光の力です≫


≪その力の中の導きの光はあらゆる者を正しき道へといざなう力。これによりよこしまな存在は存在そのものを否定し消滅させられるでしょうし、正しき者はこの力により大きな力を与えられるでしょう≫


 セリミナ様は少し得意げにそう説明すると、最後に私の光とはランクが違うけどね!と何故か念押しして同意を求めてきた。


「ま、まぁオレはあの光でこの世界に導かれたわけですし、それは十分理解していますからアピールしなくても大丈夫です……」


 オレは少し乾いた笑みをうかべながらそう答える事しかできなかったのはそっとしておいて欲しい。


「でも、これって普通の魔物とかにも効くんですか?あと、ズックも使徒って事はもしかして戦えるぐらいの力を持ったとか?」


 オレはもしかしてと思ってズックの方を振り返り聞いてみたのだが、


「え?僕は全然戦えないですよ?加護を頂いたみたいですが元々鍛えていないし戦い方も知らないので少し身体能力があがったぐらいでしょうか」


 と、やはり戦えないという返事が返ってきた。


「ただ、僕も使徒にして頂いたのでこの『導きの光』や『天運てんうん』でサポートはできると思います!なので、ここに来たのはパーティーに僕も加えてもらえないかとお願いに来ました!」


 突然ズックは深く頭を何度もさげてお願いしますと懇願してくる。

 オレが驚いているとリリルが


「ズックくん急にどうしたの?お姉さんに詳しく教えて貰えないかな?」


 と、ゆっくりとなだめてくれた。

 すると少し気持ちを落ち着けたズックは、


「す、すみません。今世界中で話題のプラチナ冒険者パーティーに加えてなんておこがましい事を言っているのはわかっているのですが、僕みたいな孤児をもう増やしたくないんです!」


 そう言うとズックは目に涙をためながら自身の想いを話してくれたのだった。


 ~


 ズックは元々日本で生まれ育ったのだが小学生の時にはある難病におかされ、幼くして亡くなってしまった。

 しかし、どのような偶然か それとも奇跡が起こったのか ズックの魂は地球ではなくこの世界『レムリアス』に転生する。


 転生後は貧しい家ながらも幸せに過ごしていたようだが、その時はまだ前世の記憶は戻っていなかった。

 そして物心がついた5歳のある日、いきなり前世の記憶がすべて蘇ったそうだ。


「その時はもう何が何だかわからずに混乱しました。でも、こっちのお父さんもお母さんも僕の話を気味悪がることもなく受け止めてくれたんです!そしてそれでもお前が息子の事には何も変わりはないと……」


 しかしその幸せな暮らしも長くは続かなかった。

 ズックがいた村が霧の魔物に襲われたのだ。


 両親は何とかズックだけでも助けようとしたそうだが、強力な魔物にただの農民が抗えるわけもなく、ズックを逃がしきる前に殺されてしまう。

 両親が霧の魔物に殺されて自分ももう終わりなんだと思ったその時、間一髪のところでこの街の冒険者パーティーに助けられたのだった。


 そしてその冒険者パーティーの一人がこの孤児院の出身だったことでその後はこの孤児院に引き取られた。


 しばらくの間は、ずっと両親の仇を討ちたい。

 ただそれだけを考えていたそうだ。


 しかし、自分を救ってくれたその冒険者が言うのだ。


「せっかく救われた命なんだからズックの好きにしたらいい。でもな。仇を討って両親が喜ぶか?どうせなら立派な冒険者になって俺達みたいな孤児をださないようにって頑張ってみないか?仇も討てて一石二鳥だし、そういう目的の方が両親もきっと喜ぶぞ?」


 それからズックは冒険者になるのを夢見るようになる。


 皆を救える冒険者になりたい。


 そして偶然だがオレ達に出会った。


 そして偶然だがその冒険者が自分と同じ転生者かもしれない。


 そして偶然だがその思いをセリミナ様に気付いてもらい、加護を与えてもらう事になった。


「だから……、僕も一緒にこの世界の為に戦いたいです……。ユウトさんみたいに戦う事はできないけど、この頂いた権能で色々サポートは出来ます!」


 涙ながらに語るズックの話に、オレ達は涙を堪えるのに必死だった。


「そうか……。ズックの想いはわかったよ。危ない場所には連れていけない事もあるかもしれないけど……歓迎するよ」


 オレはそう言ってニッコリほほ笑むと、こう言ったのだ。


「ようこそ『暁の刻』へ!」


 ちょっと恥ずかしいセリフだったが、こうしてズックはオレ達『暁の刻』の新たなメンバーとなったのだった。

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