【第126話:聖なる力?】

 オレはしばらく動くことが出来ず立ちつくしていた。


「ユウト殿……。そろそろ行こうでござる」


 そしてメイが話しかけてくれてようやく動くことができた。


「みんなすまない……。せっかくゼクス達を倒す絶好の機会だったのに……」


「問題ないでござる。僕も上位魔人にまさか元人間がいるなんて初めて聞いたでござる。しかも何だか人間だった時の心を取り戻したみたいで動揺して動けなかったでござる」


 オレがメイと話しているとキントキの背中に乗せられてズックがこちらにやってくる。

 そしてズック自身も思ってもみなかった結果に動揺しているようで


「あの……僕が何かやり方間違ってしまったんでしょうか?」


 と落ち込んでいた。


(!?オレは何をやっているんだ!今回一番頑張ってくれたズックに良くやったの一言もかけてやっていないじゃないか!)


 オレはあわててズックの元まで駆け寄ると、


「何言ってるんだ。ズックは本当に頑張ってくれたじゃないか!本当に良くやった!」


 と言って頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。


「あっ……」


 と言ってホッとしたのかわんわんと泣き出してしまった。

 オレはズックの両脇に手を添えてキントキの背中からおろしてあげると、


「本当に助かったぞ。オレ達も強くなったつもりだったが、ズックがいなかったら結構やばかったかもしれない。ありがとうな!」


 と言って今度はやさしく頭を撫でてあげるのだった。


 ~


 その頃、獣人の村に辿り着いたリリル達は、まだ目覚めぬサルジ皇子に焦りを募らせていた。


「リリルっち!何とかならないっちか!」


 グレスがリリルの治癒魔法が効かない事に焦りをみせ取り乱し始める。


「治癒魔法はあまり得意ではないですが詠唱付きでやってみます!」


 リリルは聖属性の魔法が扱えるのだが、治癒魔法は周りに怪我人がいないと中々使う機会がないので、あまり高位の治癒魔法は使ったことがなく、まして詠唱をつけてまで治癒魔法を行使した事は一度も経験がなかった。


≪わが身は力。そのみなもとは光。全ての影を消し去る癒しの光よ。命をはぐくかてとなれ!≫


豊穣ほうじょうの光!』


 リリルにとっては初めて行使する詠唱付きの高位の治癒魔法だったが、不安とは裏腹に完ぺきに行使される。

 どこか導きの光にも似た優しさの中に、力強さを感じる暖かい光がサルジ皇子を包み込んでいた。

 リリルが魔法の成功に少しホッとした後、数秒後に光が薄らいでいき魔法が消え去る。

 すぐにグレスが駆け寄り覗き込むのだが、


「どうだっちか!?サルジ皇子!」


 皇子に変化は見られなかった。

 無理やり体を支配しているゼクスを追い出す事に成功したのは良かったのだが、追い出して以降サルジ皇子の顔色はどんどん悪くなっている。


「く!?グレスさん!下がってください!もう一度!」


 リリルは崩れ落ちそうなグレスに喝を入れるように名前を呼んで、もう一度詠唱を開始する。


≪わが身は力。そのみなもとは光。全ての影を消し去る癒しの光よ。命をはぐくかてとなれ!≫


 そしてリリルは切り札を用いる。


≪この世界はうつわ。その器に定められし自然の摂理を奇跡の名のもとにくつがえす!≫

≪そして世界よひざまずけ!神に与えられしこの力を以って捻じ曲げ奇跡とする!≫


 リリルを中心にまるで聖なる力のような光の文様が現れる。


『神聖化:豊穣ほうじょうの光!』


 今度は先ほどの光をはるかに凌駕する眩く力強い光がサルジ皇子を大きく包み込む。


 しかし……結果は変わらなかった。


「どうして私の力じゃダメなの!?」


「……誰か……頼むっち……皇子を……皇子を助けくれっち……」


 リリルが自分の無力さに嘆き、グレスがとうとう崩れ落ちて祈るように助けを求めた時、


「ばぅっふ!」


 ちいさなちいさな影が変な鳴き声をあげながらゆっくり近づいてきたのだった。


 ~


「パズくん!」

「パズっち!何とかなるっちか!」


 グレスはパズに期待の目を向けるが、リリルはパズが水系統の治癒魔法しか使えないのを知っていたので少し疑問に思う。

 基本的に聖属性の治癒魔法の方が遥かに効果が高いからだ。

 しかしそれでもパズならばとリリルは思いなおして、


「パズくん。何とか出来るの?私の治癒魔法ではダメなの……お願い!」


 と望みを託す。

 パズは右手みぎまえあしをあげて 任せて と二人に返事をすると、即座に魔力炉を起動して莫大な魔力を放出する。


「ばぅぅぅん!!」


 そして一吠えしたあと


≪ばぅわぅぅわぅぅ!≫


 魔法ではなく聖なる力を行使する。

 すると光の文様が現れ、サルジ皇子の体に吸い込まれていき、すべてを白き光で包み込んでいく。


「な!?パズっち、それって『白日の息吹』みたいなものか!?」


 そして二人が驚いているうちにゆっくりと光は収束していき、そこには目を開けたサルジ皇子がこちらを見てほほ笑んでいたのだった。

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