【第121話:だめ?】
魔物の中でも最強クラスとされているケルベロス。
その体躯は5mほどあるにもかかわらず、その俊敏さはスピードが自慢とされているような小型の魔物、例えばウィンドウルフと呼ばれる風を纏う狼の魔物をも凌ぐ。
また炎の魔法を操る為に距離を取って戦う事も難しく、更に何とか近づくことに成功したとしても、今度は三つ首により死角はなく、見た目通りの力も相まって遠近共に隙が無い。
たった一体でとある国の騎士団を全滅させたという逸話まで残っている。
そんな最強最悪の魔物がケルベロスなのである。
お腹を見せて降参のポーズを取っている今の姿からは想像も出来ないのだが……。
~時は少し遡る~
パズの岩の槍に吹き飛ばされたケルベロスであったが、まるでダメージが無いのかすぐさま立ち上がって怒りの咆哮をあげる。
「「「グオォォーー!!」」」
その咆哮は近くにいる精神力の弱いものを行動不能にまで追い込む『
パーティー『暁の刻』のメンバーは勿論、獣人の三人もその咆哮に屈する者は一人もいなかったが、騎士団でも半数近いものがこの咆哮一つで行動不能においやられるという。
しかし、その『
「ばふぉおぉん!!」
こちらの咆哮の効果は聞いた者をただ「ほっこり」させるぐらいだろうか?
声もか細く、それに何というか……、遠吠えが下手すぎだった……。
パズの咆哮モドキを聞いて勝ち誇るケルベロスは、もう一度差を見せつけるように『
「「「グオォォー、アガッ!?」」」
しかし、咆哮をあげてすぐに口の中に氷のボールが突然現れて中断させられると、その氷のボールはどんどん大きくなっていく。
もちろんパズの仕業であった。
「「「アガァァ!?」」」
そしていつの間にか焦るケルベロスを見上げれる位置にまで近づいていたパズが、
「ばふぉぉぉん!!」
ともう一度、咆哮(?)をあげるのだった……。
「なに!?これいったい何の戦いっちか!?パズっちも遊んでないで早くしてくれっち!」
「ばぅぅ?」
遊んじゃダメなの?とパズは不思議そうにグレスの方を振り返ると、そこには鬼の形相のグレスがサルジ皇子を抱きかかえてこちらを見ていた。
パズにはグレスの後ろに燃え盛る炎が見えたようだ……。
「ばぅ!?」
鬼気迫るグレスの表情に焦ったパズはそこで一瞬ケルベロスから目を離してしまう。
すると、ケルベロスはガギリと氷を噛み砕き、チャンスとばかりにケルベロスがこちらにブレス攻撃をしかけてきたのだった。
「「「カァァァーーー!!」」」
三つの口からパズに向かって放たれる炎のブレスが油断しまくっていたパズを直撃し、業火が包み込む。
「いやーー!?」
「パズっち!?」
リリルから悲鳴のような叫び声があがるり、負けるはずがないと思っていたグレスの目が見開かれる。
目の前の光景が信じられずグレスが呆然としたまま
「嘘っちよ……パズっちが負けるはずが……」
と呟き、リリルがパズに話しかけるように名を呟く。
「嘘だよね……?パズくん?」
しかし、業火が収まったそこには焼け焦げた地面が広がるだけで何も残ってはいなかった。
そしてようやく我に返ったシラーさんの絶叫が響き渡る。
「嘘ですよね……パズ様……パズさまーーー!返事をしてくださいーーー!!」
「ばぁう?」
「「「……え?……」」」
耳の良い獣人のシラーさんが声が聞こえた方を振り向き、それにつられるように他の皆も視線を向ける。
そこには勝ち誇った顔を三つ並べたケルベロスがいる。
しかし、そこにいたのはケルベロスだけではなかった。
そのケルベロスのお腹の辺りの地面に小さな穴が見えており、そこから小さなチワワの顔がちょこんと見えていた。
たれ耳、チョコタンのスムースのチワワ。
チワワらしくない三白眼のふてぶてしい目。
頭の上に『?マーク』を浮かべ「返事したけど??」みたいな表情をしていた。
「……まぁパズっちだからな……」
「……えぇ……心配して少し損した気がします……」
先ほど三つの首によりケルベロスには死角は無いと言ったのは撤回しておこう……。
「ばぅわぅ!!」
パズがそう吠えた瞬間ケルベロスの4つの足は地面に氷で固定される。
「「「ガゥ!?」」」
何が起こったかわからないケルベロスだったが、自分の背中の上にちょこんと何かが乗ったのを感じ、恐る恐る振り返る。
「ぶっふっふっふ♪」
そこには小さな小さなパズの姿と共に、約50個ほどの大きな氷のボールが浮かんでいた。
そしてその氷はケルベロスをぐるりと囲むようにゆっくり展開していくと、四方八方から襲い掛かってくるのだった。
~10分後~
ボロボロになった三つ首の魔物がひっくり返っていた。
パズに絶対服従を誓う為、お腹を見せて大きな尻尾をブンブンと振る大きな魔物が……。
「「「クゥゥゥン♪」」」
見た目に似合わない可愛い声を上げて……。
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