【第122話:名演技?】

 パズがケルベロスと死闘を繰り広げて遊んでいたころ、オレは決めていた作戦を実行に移そうとしていた。


「クソーヤバイゾー!イッタイドウシタライインダ」


 オレがそう言うと更に満足そうな表情を浮かべるゼクスだったのだが……、


「ユウト兄ちゃん、芝居下手すぎるよ……まぁそれに気づかないあっちの魔人もどうかしているけど……」


 遠くから隠れて見守っていたズックが呆れたように呟いていたのには気付いていないようだった。


「ふん!所詮女神の使徒と言ってもこの程度か!」


「モウコレマデナノカー!?ニ、ニゲロー!」


 オレはそう言うと、さっき張っておいた障壁に向かって走り出す。


「な!?ここまで歯向かっておきながら逃がすか!!」


 ゼクスはそう叫び、オレを猛追してくる。

 しかし、それを見て焦る二つの影がいた。


「えー!?ゼクス様!?どう考えても怪しいですよ!?」

「えー!?どう考えても罠ですね!?」


 クスクスとトストスが叫び止めようと飛び込んでくるが、


「ユウト兄ちゃんの演技下手すぎて焦ったけど、も、もう遅いです!!」


 ズックが飛び出してきてゼクス達に向けて手をかざす。

 そしてズックは覚悟を決めたような表情を見せるとこう叫ぶのだ。


≪導きの光!≫


 その叫ぶ声と同時に眩い光が辺りを埋め尽くす。

 それはもう何もかもが真っ白で、たぶん今サングラスかけていても眩しくて目を閉じるほどだったろう。


「ぐはっ!目が!?」


(眩しいって聞いてたけどここまでとは!)


 はい。すみません。オレも眩しいとは聞いていたけどちょっと目を細めておけば大丈夫だと思っていました……。


 しかしオレは単に目をやられてチカチカしてるだけだが、導きの光を受けたゼクスとクスクス、トストスの三人はそれどころではなかった。


「「きゃー!!何!?何かが私の中の何かが溢れてくる!?」」


「ぐぉ!?やめろ!?なんだ!?このわき上がるものはいったい何なんだ!?」


 三人は絶叫をあげながらうずくまり、とうとう耐えれなくなったのか地面を転げまわりはじめる。

 ズックはその姿を見てようやくホッとしたのか、


「な、何とか上手くできたかな?」


 そう呟くと身体がゆっくり傾いていく。


「ズック!?」


 オレは≪神光しんこう武威ぶい≫の力で一瞬でズックに駆け寄ると支えてあげる。

 そして


「よくやってくれた。ありがとうな」


 そう言って頭をクシャっとしてあげると、ズックは嬉しそうにしながらゆっくりと目を閉じていくのだった。


 ~時は遡って数日前~


 孤児院の借りているオレの部屋には『暁の刻』のメンバーが集まっていた。

 オレ達はこれからダンジョンに潜る事になりそうだという事で、お互いに掴んだ情報に対して意見を交わしていた。


「じゃぁ、やっぱりダンジョンしか考えられないよな~」


 オレがそう結論付けると、メイも


「そうでござるな。もう封印破って乗り込んだら良いでござる!」


 と物騒な事を言い出す。

 オレもまぁそれもありかなぁとか考えていると、リリルが、


「もう!メイちゃんは女の子なんだからすぐそうやって力づくで物事解決しようとするのは良くないよ!」


 と注意をする。


(うん。何でも力ずくはよくないよね!)


 そもそも男の子は良いのかという所は置いておいて、


「でも、どうするかなぁ?獣人の村に……」


 とオレが話し始めた時だった。


 コンコン!


 扉をノックする音が聞こえる。


(今日は誰も他にお客さんいないって言ってたし、誰だろう?)


 オレがそう思っていると、グレスが


「はーい。だれっちか?」


 と言って警戒もせずにサクッとドアを開けてしまう。

 まぁ第三の目で先に確認していたので良いのだが、もう少し緊張感持って警戒した方が良いと思うんだ……。

 そしてドアの向こうにはオレ達をこの孤児院に招いた男の子『ズック』が立っていた。


「夜分にすみません!ズックです。どうしてもお話したいことがあって……」


 そう言うと、更に頭をさげてお願いしますと頼んでくる。


「ズックくん。どうしたの?今皆集まってるから少し窮屈だけど入って」


 その姿を見てすぐにリリルが微笑みながら部屋に招き入れる。

 久しぶりに少しドキッとして見惚れてしまったのは内緒です。


「それでどうしたっちか?何か困った事でも?」


「いえ。困ってるわけではないです。どうしてもユウトさんとお話ししたくて来ました」


 そう言ってオレをじっと見つめてくるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る