【第120話:遊ぼうよ】
その魔物の向かった方向に駆け出したオレだったが、一瞬で回り込んだゼクスに行く手を阻まれていた。
(くっ!?あのデカい魔物は!?)
そして思考がそちらを向いた瞬間を見逃してくれるほどゼクスは甘くなたった。
羽をこちらに突き出すと一瞬で伸びてオレの胴体にめり込んだ。
「かはっ!?」
オレは10mほど吹っ飛びながらも頑丈な体とローブを与えてくれたセリミナ様に感謝し、空中で体勢を立て直して何とか足から着地する。
すぐさまゼクスを視界に捉えるが、先ほど魔物を呼び出す対価に支払った羽は既に再生されているのに気づき、
「一瞬で治る対価とか反則じゃないのか……」
と愚痴るがゼクスは勿論待ってくれない。
ゼクスから放たれた漆黒の羽根の弾丸が雨あられのように降り注ぎ一瞬身構えるオレだったが、突然現れた半透明の仮初の手がそれらを纏めて薙ぎ払う。
【権能:鬼殺しの手】
「僕やキントキを忘れてもらっては困るでござる!」
メイは薙ぎ払った巨大な仮初の手で今度はゼクスに拳を打ち込もうとするが、
「あなた達こそ忘れてもらっては困りますね」
「忘れてしまった事を後悔させてあげますね」
クスクスとトストスから打ち込まれた漆黒の鎖のようなものがメイに迫る。
しかし、メイが焦る事は無かった。
「がぉぉ!!」
巨大化したスターベアのキントキは、メイの前に割り込むとその漆黒の鎖を腕で絡みとり、お返しとばかりにクスクスとトストスを引きずり倒す。
「「きゃぁ!?」」
見た目通りの可愛らしい声を出して前のめりに倒される二人。
いかに上級魔人と同等の力を有する二人でも、膂力で【権能:聳そびえ立つ山】を発動したキントキには敵わなかったようだ。
しかし、今度はそのキントキが数メートルも吹き飛ばされる。
「がぎゃぅぅ!」
「うぁ!?キントキーー!!」
メイが慌てて仮初の手で受け止めるがかなりのダメージを受けたようだった。
「ふん……意外としぶといな」
そしてキントキを吹き飛ばした張本人のゼクスは、興味なさげにそう呟く。
「ゼクスーー!!」
オレは元々纏っていた≪
ガギギン!!
しかし、その光の斬撃は闇の斬撃によって阻まれた。
「その程度の力で……」
そう言いかけたゼクスだったのだが、
≪
そう呟いたオレから放たれた5本の爪痕がゼクスの体に直接刻み込まれる。
「ぐ!?おれの!!」
そう言って一旦大きく距離を取って怒り狂うゼクスではあったが、その数秒後には既にその傷は回復してしまっていた。
「えぇぇ~……それはズルくないか……」
オレのその愚痴が今度は聞こえたのかゼクスの口に嘲笑が浮かぶ。
「ぐははは。使徒の力程度でオレを倒せると本気で思っているのか!」
「クソーヤバイゾー!イッタイドウシタライインダ」
オレがそう言うと更に満足そうな表情を浮かべるゼクスだったのだが……、
「ユウト兄ちゃん、芝居下手すぎるよ……まぁそれに気づかないあっちの魔人もどうかしているけど……」
遠くから隠れて見守っていたズックが呆れたように呟いていたのには気付いていないようだった。
~
ユウト達が戦闘を始めていたその頃、パズ達の
「ばぅわぅ!!」
パズがそれに警戒の声をあげると、リリルが気付きすぐさま魔法を撃ち放つ。
≪わが身は力。その
『
その詠唱によって紡ぎだされた大きな炎の刃は、薙ぎ払うようにその猛追してくる魔物に迫り確かに命中させた。
ドゴォン!
「やったか!」
獣人の護衛がそう声をあげるが、ユウトがいればそれはフラグだと注意した事だろう。
そしてそのフラグの通り、無傷の魔物が炎を『喰らいながら』飛び出してきた。
「なに!?あの魔物は!?」
炎に耐性のある魔物はそれなりには存在する。なので炎が効かないという事はありえると予想できた。
しかし、その魔物は効かないどころかリリルの放った炎を喰らいながらその速度を緩めることなく迫ってきていた。
「あれは!!ケルベロス!!あの三つの頭を持つ狼型の魔物は村の文献で見た事があります!!」
シラーさんが文献の挿絵で見たものとそっくりだと皆に伝える。
「ケルベロスっちか!?魔物の中でも国が騎士団総出で対応するような魔物っちよ!?」
サルジ皇子を診ていたグレスが驚きの声をあげてすぐさまスリングを取り出すと、
「アースーショットーー!!」
と巨大な土の槍が迫りくるケルベロスに撃ち放つ。
そして正確無比にケルベロスの真ん中の頭の鼻っ柱に命中したかと思った直前、その槍はケルベロスの強靭な顎で噛み砕かれるのだった。
「「そ、そんな……」」
プラチナ冒険者の一撃を軽くあしらったその姿に、護衛の獣人の二人が絶望の声をあげる。
そしてもっと速度をあげて逃げないとと思ったその時、ガクンとその速度が落ちたのを感じる。
「ばぅぅん!」
そしてまるで氷の上を滑走するように進んでいく
「パズ君!!」
そしてリリルが声をあげたその時、ケルベロスの体は地面から突き出た巨大な岩の槍によってその巨体を吹き飛ばされたのだった。
「ばふふふふっ♪」
遠く離れたユウトにはこう聞こえていただろう。
さぁ僕と遊ぼうよ♪
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