【第117話:ダンジョン その5】

「みんな避けろーーー!!」


 オレがそう叫ぶとほぼ同時に以前見た魔人の姿となったゼクスが拘束を破って飛び出してくる。


「皇子はどうなったっち!?」


 グレスが叫びながら高い身体能力を使って駆け寄るが、


「「よくもやってくれましたわね」」


 二人の少女の声が聞こえたかと思うと、無数の闇が礫となりグレスに襲い掛かる。


「舐めるなっち!」


 グレスは即座に反応して『アースショット』で応戦する。

 オレはグレスが無事な事を確認すると、そのまま『第三の目』を使ってサルジ皇子を探すのだが見当たらない。


「俺様と戦ってる最中にえらく余裕じゃないか」


(くっ!?最近『第三の目』で戦う事が多かったから使えないとなるときついぞ)


 何故かゼクス達だけが『第三の目』で捉える事が出来ないため、どうしても後手にまわりがちだった。

 オレは何とかゼクスが放った漆黒の闇の羽根の攻撃を間一髪でかわすと、ゼクスを実際の視界にとらえて反撃を試みる。


「魔力撃改改!」


 ボシュ!!


「ほう。魔力撃を飛ばせるのは面白いがその程度の威力では俺様の『漆黒の衣』はやぶれんぞ?」


 そう言って今度は剣のように伸びた漆黒の闇の剣で斬撃を放ってくる。

 オレは慌てて光の斬撃を飛ばして相殺するのだが、その時ゼクスの腰あたりにぶら下がる人形を見つけて一瞬隙を作ってしまう。


 ドゴーン!!


 相殺しきれなかった闇の斬撃をまともにくらったと身構えた瞬間、オレの前には氷の壁が出来ていた。


「ばぅーーん!」


「すまんパズ!! でも……あれだ!!ゼクスの腰にぶら下がっている人形だ!」


 パズのサポートで何とかゼクスと互角に持ち込みつつ、オレはその人形を取り返すべくリリルにアイコンタクトを送る。


≪わが身は力。そのみなもとは光。闇を打ち払う聖なる光よ。現世に彷徨う穢れを滅せよ!≫

けがれなき聖光せいこう!』


 リリルから放たれた聖なる光は一瞬だがゼクス達の纏っている闇を祓っていく。


「小娘が!」


 そう言ってゼクスの意識がリリルに向いた一瞬の隙をついて、


「ばぅぅん!!」


 パズがオレを上回る光を身に纏い、一本の光の矢のごとくゼクスに突っ込んでいく。


「く!?おのれ!」


 間一髪でパズを避けるゼクス。


「「ゼクス様ー!」」


 慌ててそう叫び駆け寄ろうとした『クスクス』と『トストス』だったが、


「がぉぉー!」


 キントキが【権能:聳そびえ立つ山】で巨大化してゆく手を阻む。


「従魔風情が邪魔ですわ!」

「身の程を知るといいですね!」


 無数の闇の礫がキントキに放たれる。


 ドゴゴゴゴゴゴ!!


 轟音に満足そうに冷たい微笑を浮かべた少女の顔は、しかし次の瞬間には驚きの表情に切り替わる。

 セリミナ様に頂いた素材で作成したキントキの鎧は生半可な攻撃では傷一つつかず、巨大化したキントキの肉体はその衝撃をも耐え抜いていた。


 そして皆が作ってくれたその隙をついてオレは再度聖なる力での浄化を試みる。


≪我は『残照ざんしょう優斗ユウト』の名において力を行使する≫

白日はくじつ息吹いぶき


「フハハハッ!俺様を拘束もせずに解呪など出来るものか!!」


 ゼクスはオレの≪白日はくじつ息吹いぶき≫の範囲外に出るために一旦距離を取る。


「皇子!!くそ!逃げられたっち!!」


 グレスがそれを見て歯嚙みして悔しがるのだが、


「とか言ってみるっち?」


 と今度はニヤリと笑みを浮かべる。

 そしてオレは視線を足元に向けると、ゼクスに向けようとしていた浄化の光をパズに集約させていく。


 いや。正確にはパズにではなくパズが『咥えている人形』に集約させていった。


「ばふふふふっ」


 パズが何かゼクスの不敵な笑いを真似しようとしているがこれはスルーする。


「何だと!?」


 その時初めて腰についているはずの人形が無い事に気付いて慌てた顔を見せたゼクスだったが、もう後の祭りだった。

 パズがそっと地面に置いた人形は解呪され闇となって消え去る。

 それと同時に光があふれ出したかと思うと人の形を形作り……。


 そして……、


「サルジ皇子ーーーーー!!!」


 そう叫びながら飛び込んできたグレスが抱きしめていたのは、紛れもなくゲルド皇国の皇子『サルジ・ゲルド』その人だった。

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