【第118話:ダンジョン その6】

 とうとうサルジ皇子の解呪に成功したオレ達は、喜び駆け寄ろうとするのだが、


「グレス!!油断するな!」


 そこには既に体勢を立て直したゼクスが、本来の姿、本来の力で反撃に転じていた。


「おのれーーー!俺様はその体を気に入ってるんだ!返してもらうぞ!」


 ゼクスはそう叫ぶと先ほどよりもはるかに禍々しい漆黒の闇を纏い直し、その闇を無数の鋭い槍に変えて連撃を放ってくる。

 そしておびただしい漆黒の槍がグレスに向かって行くのだが、しかしその槍がグレスに届く事は無かった。


「ばうぅ!」

「させるか!」


 闇に対抗するように作られた氷の壁がそのまま厚みを増すと、オレ達とゼクス達を分断したのだ。


 ドゴゴゴゴゴッ!!


 何とか凌いでいるが、氷の壁で凄まじい轟音が響いてくるので、念のためにオレは


≪我は『残照ざんしょう優斗ユウト』の名において力を行使する≫

安寧あんねいの境界≫


 氷の壁と合わさるように光の障壁を展開する。


「うはぁ!?凄い轟音でござる!!逃げるが勝ちでござるよ!」


「そうだな!サルジ皇子も取り返したし一旦遺跡の外まで退却するぞ!」


「わかりました!」


 オレ達は事前の打ち合わせ通り、ゼクスを倒す事よりもサルジ皇子の奪還を優先し、一旦広間を出て撤退を開始する事にする。


「ばうわぅ!!」


 パズがオレに向けてある事を伝えてくるのだが、オレは慌てて


「え?ちょ!?パズ待て!ストップ!!!」


 と必死に止めるのだが、パズは残像を残して書き消えるほどの速度でそれを実行に移してしまう。


「ばぅぅん!」


 そしてパズが10を超える氷柱を出現させると、氷柱を回転させながらある場所に撃ち込んでしまう。


 ドッッッッゴーーーン!


 そうやって新たにもう一つ轟音を作り出すと、そこには大きな骨のようなものが飛び散っていた。


「あ……。やっちまった……」


 そう。パズは獣人との約束通りこのダンジョンの本来の主である『不死王ゲルグランデ』を倒してしまったのだった。


「おぉぉ!さすがパズ殿……、パズ様!一撃でダンジョンの主を倒してしまったでござる!!」


 メイが興奮して褒めたてているが、


「えっと……、確かシラーっちの説明によれば……ダンジョンの主を倒してしまうと崩壊が始まるって言ってなかったっちか……?」


 とグレスが若干顔を蒼ざめながら聞いてくる。


「い、言ってましたね。これって凄く不味くないですか……?」


 そしてパズに注目が集まると、


「ぶぅっふっふっふぅ~」


 と吹けない口笛を吹きながらゆっくり目を逸らすパズ。


「入口まで全力疾走だぁぁぁ!!!」


 オレのその声を合図に命を懸けた全力疾走が始まるのだった。


 ~


「パズ様!ユウトさん!ご無事で!奪還作戦は成功したのですか?」


「ね!だから大丈夫だって言ったんだよ!」


 オレ達を出迎えてくれたシーラさんとズックだったのだが、直後に地鳴りのようなものを聞いて嫌な予感を感じ取ったように身を構える。


「えっと……とりあえず全力疾走で!!」


 オレがそう言うと一緒に走り始める。

 ただ、さすがに常人の能力しか持たないズックを自分で走らせるわけにはいかないので、追い抜きざまに小脇に抱え込んでいく。


「えぇぇ!!?あ!? ユウトさん上!上!天井が!?」


 その直後だった。ダンジョンの天井に大きな亀裂が走りだす。


「ばうわう!」


 しかし、その直後にパズが地殻変動魔法で修復し事なきを得る。


「パズよくやった!でも、説教は確定だから!!」


 一瞬得意げな顔になりそうになったパズだったが、さすがに反省しているようで小さく返事を返すのだった。


 ~


 そこから1階層あがったあたりでリリルがキントキの上から話しかけてくる。

 リリルは加護があるとはいえ普通に走る事しか出来ないので、最初からキントキが気を利かせて乗せて走ってくれていた。

 ちなみに獣人たちは身体能力がかなり高いので自分の足で走ってもらっている。

 まぁ着いてくるのにかなり必死のようだが……。


「ユウトさん!『草原の揺り籠』で一気に駆け抜けられないですか?」


 そんな時、余裕のないオレ達と違って冷静なリリルがそう提案してくる。


「それだ!さすがリリル!」


 オレはすかさず笛を取り出して『草原の揺り籠』を呼び出すと、キントキを除いたみんなを乗り込ませる。

 そして最後にキントキが馬車ソリの後ろにおぶさるように引っ付いたのを確認すると、


「パズ!遠隔で道順を伝えるから 危なくない程度に 全力疾走だ!危なくない程度にだぞ!」


 オレは大事なことなので2回念押しして言ったのだが、パズの「危なくない程度」は一般人からは尋常じゃない速度だったようで残像を残して馬車ソリを牽いて走り出す。

 そして出会う魔物は前方に展開した大きな氷のドリルのようなもので蹴散らし、ダンジョンの亀裂は地殻変動魔法で修復しながら疾駆すると、オレ達はこの15分後には無事?にダンジョンを脱出するのだった。


 ただ……、


「きゃーーー!!」

「「ぐぁぁーーー!」」

「うわぁぁぁ」


 初めて「パズが牽く」『草原の揺り籠』に乗るシラーさんと獣人の護衛二人、それとズックの4人の絶叫がずっとダンジョンに響き渡っていたのは出来れば内緒にしておいて欲しい。

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