【閑話:パズとキントキ…その2】

 ~はじまりの森での特訓中のお話~


 パズはこの3週間、パーティー『暁の刻』の皆とエルフの里から少し離れた開けた場所に来ていた。

 そこは直径300mほどの広さの広場になっており、毎日ここで特訓をしている。

 しかし、今日はユウト達はリリルのお母さんのミイルとゆっくり過ごすという事だったので、パズはキントキを誘って二匹ふたりだけで来ていた。


「がうぅ?」


 とキントキが今日は何の特訓をするの?と問いかけると、パズは


「ばぅ!」


 模擬戦をしようよ!とこたえた。

 キントキは一瞬そんなの勝負にならないと思ったが、ちょうど先日女神様に権能をもらったので、勝負になるのではないか?と思いなおす。

 こうして観客のいない森の中でひっそりとパズとキントキの模擬戦が行われることになったのだった。


 ~


「ばぅ!」


 いつものようにスピードで圧倒してキントキの熊の手の一撃を搔い潜ると、絶妙な力加減でキントキの鼻に噛みついてぶら下がる。


「がぅ!?」


 キントキは焦って手で叩き落そうとするが、パズとキントキの頭を覆うように現れた氷のボールに阻まれてしまう。

 そして勢い余ってその氷のボールを叩いてしまったキントキは、軽い脳震盪をおこし尻もちを着く。

 しかし、この時キントキは先日身に着けた権能を発動する。


「がおぉぉ!」


【権能:そびえ立つ山】

『籠めた魔力の量に応じて体を巨大化して能力を倍加する力』


 今回はあまり大きくなりすぎてもパズにスピードで圧倒されるだけだとわかっているので、3mほどで留める。


「ばふ!?」


 パズは噛みついていた鼻が巨大化とあわせて急に大きくなったので、一瞬顎がはずれそうになって驚いて口をはなしてしまう。

 パズの十八番の『絶妙な力加減による鼻への噛みつき&ぶら下がり攻撃』をキントキが破った瞬間だった。


「がうっがうっがうっ」


 キントキがどうですか!凄いでしょ!のような気持ちをパズに伝えてくる。

 パズは


「ばぅばぅ」


 やるじゃないかと答え、ここに人には理解できない何かの絆が結ばれるのだった……とかどうとか……。

 その後、キントキは善戦するも10戦全敗という結果に終わってしまう。

 しかし、キントキはこれほど凄い権能を使ってもまったく勝てそうにないパズに更に尊敬の念を抱くのだった。


 こうして更にパズをリスペクトしたキントキと、キントキが強くなったのが嬉しくて仕方ないパズはご機嫌な様子で帰路につくのだった。


 ~


 特訓を終えたパズとキントキは、エルフの里に向かって鼻歌を交じえながら歩ていた。

 パズはもちろんキントキの背中の上の定位置である。

 しかし、その時突然パズが


「ばぅ!」


 と一吠えして、少し先に魔物がいる!とキントキに伝えてくる。

 だからと言って、その魔物をさけて帰るような二匹ふたりでもなかった。

 ~

 しばらく歩くと先ほど気配を察知した魔物の群れが現れる。

 20頭からなるウォーハウンドの大きな群れだ。


 ウォーハウンドは別名フォレストハウンドとも呼ばれ、森に多く生息するハウンド系の普通の魔物だ。

 見た目は茶色い大きな狼のような姿をしていて、今目の前にいる群れのボスと思われる個体は体長2m近くある大きさだった。

 そして名前の通りその性格は好戦的でスターベアであるキントキを見ても逃げるどころか獲物とみて襲い掛かろうとしていた。


 しかし……パズがキントキの背中から顔をのぞかせて


「ばぅ!!」


 と一吠えすると、ウォーハウンドたちは全身の毛を逆立て驚いたのち、尻尾を丸めて地に伏せてお腹を見せる。

 キントキがあっけにとられて


「がぅ?」


 と、これは何?とパズに問いかける。

 するとパズは


「ばぅぅ~ばうわう」


 あぁ~ごめんね この子たちは僕の家来の群れだったよ と、何でもない事のように答える。

 そう。先日パズがエルフの里を抜け出して森を散歩しているときに襲われたのを返り討ちにしたのだ。

 そして家来にしてくれというので、それならエルフの里に近づく怪しい奴や危ない魔物がいたら駆逐しておくようにと指示をだしていたのだ。


 こうして更に更にパズをリスペクトしたキントキは、いつかパズのようになるんだと色々な意味で不可能な事を夢見てエルフの里に戻っていくのでした。

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