【第90話:始まりの終焉】

 ゼクスが消え去った後、オレ達は残りの魔人と魔物の討伐にあっさりと成功する。

 あまりにあっけなく終わったのでオレは少し拍子抜けしていたのだが、シトロンさんをはじめとした騎士団の人たちやゲルド皇国の兵士たちはその勝利に沸き返っていた。

 しかし、そんな歓声が起こる中、


「本当に終わったんだろうか……?」


 とオレは思わず呟いてしまう。

 何か腑に落ちないものがあり、周りの歓喜の声が遠くに感じるのだ。


(この胸騒ぎは何だ……?)


 オレは疑問を抱きながらも皆と合流するのだが、その時城壁の上が急に騒がしくなっているのに気づく。


「何でしょう?あそこだけ何か喜びに沸いているような感じではなさそうですが?」


 リリルのその言葉に不安に押されて『第三の目』を起動しようとするが、それよりも先にパズが凄い速度で駆けていく。


「ばぅわぅ!!」

「パズ!どうした!」


 一瞬で城壁に氷の足場を付けるとあっという間に上まで駆け上り、騒ぎの中心点に降り立つパズ。

 そしてそこでオレはパズから伝えられた情報により、プラチナ冒険者と聞いていたグレスが重傷を負い、この国の第一皇子サルジ・ゲルドが攫われたことを知るのだった。


 ~


「しっかりしてください!」


 その後オレ達もすぐに城壁の上に移動すると、パズとリリルが血まみれで倒れていたグレスの治療に取り掛かる。

 何とか一命は取り留めたようだが、パズやリリルのような超級の回復魔法の使い手がいなかったら危なかったかもしれない。

 それほどボロボロになるまで、グレスはサルジ皇子の誘拐を阻止しようと抵抗していたようだった。

 そしていつも飄々ひょうひょうとしているパズなのだが、今は心配そうな表情を浮かべ尻尾を垂れて必死に回復魔法をかけ続けている。

 パズがグレスという冒険者の事を気に入っていたのはオレにも伝わっていたので、この状況にかなりショックを受けているのがわかった。

 僕がこの場を離れなければ…という後悔の念が伝わってくるのだ。


「パズ……」


 オレはかける言葉が見つからず、そっと見守る事しかできなかった。


 ~


 グレスの治療が終わりシトロンさん達と合流すると、ゲルド皇国との情報交換の場がもたれた。

 オレ達はここにたどり着くまでにあった二つの街の事や、今回のこの戦いの事、崩れ去った遺跡に世界の裏側と繋ぐ何かがあることなどを報告。

 そしてサルジ皇子を攫った上位魔人ゼクスの存在と、その魔人がサルジ皇子の体を乗っ取ってしまっている事などを伝え、ようやくその日は解放されるのだった。


 ~


「せっかく勝利したっていうのに何かスッキリしない終わり方になってしまったな……」


 思わずそう呟いたオレだったが、


「ユウトさん。あなたがいなければもっと多くの人が亡くなり、そして不幸になっていたんです。この国の人だけではありません。ユウトさんは私も含め、数えきれない人を救ってきているんですよ」


 だからもっと胸を張ってくださいと、少し目に涙をためながらオレの事をそっと抱きしめてくれる。


(!? オレの方がほんとはずっと年上なのにな……もっとしっかりしなきゃダメだ)


 オレは少し恥ずかしかったが、


「ありがとう。リリル」


 そう言って抱きしめ返す。

 すると、オレの腰のあたりに誰かが後ろから同じように抱きついてくる。


「ユウト殿!ユウト殿とパズ殿はこの世界の希望でござる!でも……、その前にユウト殿とパズ殿は仲間でござる!辛いことは一人で抱え込まないで仲間みんなで頑張って乗り越えれば良いでござる!」


 そう言ってメイまでオレを励ましてくれる。


 (メイはたまに思わずグッとくることを真正面からぶつけてくるな……)


「メイもありがとうな」


 オレはそう言ってメイの頭を撫でてあげるのだった。


 ~


「あぁ~……ちょっと取り込み中のとこ良いっちか?」


 振り返るとそこにはプラチナ冒険者のグレスが気まずそうに頬を指でかきながら立っていた。


「ばぅ!」


 そしてその足元にはパズもおり、治療終わったよと伝えてきた。

 オレはすっかり顔色も良くなり回復したグレスをみて少しホッとすると、


「もう立って歩けるまで回復したんですね」


 と話しかける。

 するとグレスは深々と頭をさげて


「君たち『暁の刻』が救援に来てくれなかったら、オレの命はもちろん皇都ももう存在してなかったっちよ。ありがとう」


 と礼を言ってきた。

 そしてオレが返事をしようとするその前に今度は正座をして座り込んだかと思うと、


「頼むっち!オレからの指名依頼を受けて欲しいっち!そしてオレを『暁の刻』に入れてくれっち!」


 と土下座をして頼み込んできた。

 指名依頼とは特定の冒険者やパーティーを指名して発行する依頼である。


「……え?ちょ!?ちょっとどうしたんですか?土下座なんてやめて下さい」


 とオレが慌てて止めに入ると、


「悔しいけど俺一人では無理っち!サルジ皇子を助けるのを手伝って欲しいっち!」


 と何度も地面に額をこすりつけて頭をさげてお願いしてくるのだった。


 ~


 こうして長い長いゲルド皇国での戦いは幕を下ろし、そしてまた新たな旅が始まろうとしていた。

 オレ達は新しくグレスを仲間に加え、まずはゼクスの手がかりを求め遺跡に向かう事になる。

 そこには何が待ち受けているのか?

 サルジ皇子を救出するという目的を新たに加え、オレ達『あかつきとき』は激しい戦いの渦に自ら飛び込んでいくのだった。

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