【第67話:撤退戦】
ブレスのあまりの威力とその光景に絶句するオレ達だったが、敵は待ってくれる気はないようだった。
「キシャー!!」
地竜が奇声を発すると同時に大地が震え、
「みんなもっと下がれ!土系統の魔法まで使ってくるぞ!!」
とオレの叫びに我に返ったみんなが一斉に動き出す。
その直後、少し規模の小さな土石流がオレ達がさっきまでいた所を通り過ぎていく。
ゴゴゴゴゴォーーー!!
「無理!無理!無理!無理!!無理ですって!竜でしかもフェーズ5の変異種とか!ぜったい無理~!」
そう言いながらメアリがフラフラ駆け出すのを、後ろからキントキが追いついて咥えて背中に放り投げる。
「キャー!!いやー!」
地竜に何かされたのかと勘違いして絶叫するメアリ…。
キントキに乗ってるメイに空中でキャッチされてキントキの上に座らされるが既に放心状態だった。
(…メアリ…下手に頭が切れて常識人だから、どんどんキャラ壊されていってるな…)
ちょっとメアリが哀れに思うが、そんな事を考えている余裕はオレにもなかった。
≪我は『
≪
聖なる力を身に纏いなおし、名もなきスティックをもう一度引き抜くと光の斬撃を撃って撃って撃ちまくる。
「うぉぉー!!」
後ろ向きに下がりながら無数の光の斬撃を放つのだが、それでも地竜の足を完全に止めることはできなかった。
(く!?これだけの光の斬撃をくらっても歩くスピードが落ちた程度か!)
権能により結果(あまり効かない事)はわかっていたのだが、それでも自分の聖なる力を使った攻撃がまったく通用しない事に驚きを隠せなかった。
その時、オレの焦りを感じ取ったのかリリルが、
「ユウトさん!私も協力します!」
と詠唱を開始する。
≪わが身は力。その
『
セリミナ様の加護の力によって強化された強大な風の拘束魔法が発動する。
ゴォォォーー!
暴風となって地竜に襲い掛かり、その体を絡めとっていく。
しかし…、
「完全には無理だ!今のうちにリリルも下がるんだ!」
とオレは叫ぶと、リリルに駆け寄り手を掴んで走り出すのだった。
~
直接的な攻撃と違って風の拘束はある程度効果を発揮していた。
「しかし不味いな…全力で放った攻撃が足止めにもならないなんて…」
オレはセリミナ様にもらった力を使いこなせていない自分に少し腹立たしい気持ちになる。
「大丈夫ですよ。ユウトさんだけで抱え込まないでください。私もメイちゃんもキントキ君もいるんですから」
そう言ってリリルが手をギュッと握り返してくる。
「あ…」
今頃になって手を握っている事に気付いたオレだったが、今更手を離すタイミングがわからなくてぎこちなく手を繋いだまま走り続けるのだった。
(ありがと。リリル)
~
それから数分走り続けているが既に風の拘束を破った地竜がまた動き出し、オレ達は地竜との距離を稼げずにいた。
「ユウト殿!どうしたら良いでござるか!」
まったく振り切れそうにない地竜との距離にメイもどうすれば良いかと聞いてくる。
(もっと聖なる力を使う練習をしておけば…一か八かで使ってみるか)
オレは使徒であるのがバレるのが嫌で、まだ聖なる力の使い方すらマスターできていない自分が情けなかった。
そしてもう後悔しない為にも、これがひと段落ついたら絶対に聖なる力を使う練習をする事を誓う。
そして、まだ使ったことのない聖なる力を本当に使うのか心の中で葛藤していた時だった。
「キシャー!!」
と後ろで地竜が咆哮すると、周りに多数の黒い魔方陣が現れる。
「今度は何!?」
「な!?…あれは召喚魔法だ!!気を付けて!」
オレは権能で知りえた情報を皆に伝え注意を促す。
「えー!?あれ全部から敵が出てくるでござるか!?多すぎるでござるよ!?」
その数はどんどん増えていき、地竜の後ろに既に30を超える魔方陣が現れていた。
(く!?ほんとに多いな!)
この数は後々面倒になると思い、
「らぁーー!」
オレはリリルの手を離して立ち止まると光の斬撃を次々と魔方陣めがけて放っていく。
パリンッ!パリンッ!
さすがに本体と違ってオレの光の斬撃が当たると魔方陣は次々と音を立てて壊れていく。
しかし、それでも地竜本体に防がれてしまい全てを破壊する事はできなかった。
そして黒い魔方陣から次々と大きな影が現れる。
「ユ、ユウトさん!あれはまさか!?」
その影の形で気付いたのだろう。
リリルが信じられないといった表情で聞いてくるが、その嫌な想像は当たっていた。
「あぁ…。あれは霧の魔物…ワイバーンだ!」
それは霧の魔物の中ではもっとも危険とされているワイバーンという魔物だった。
見た目は翼の生えた小型の竜で、その大きさは体長3mに横は翼を広げると5mもの大きさがあった。
幸いなことにブレスは使えないのだが口からファイヤーボールを放つことができ、遠距離からの攻撃も可能としていた。
更に、攻撃特化の傾向にある霧の魔物の中では珍しく、硬い鱗による高い防御を誇っていた。
「本当に厄介だなぁ…もう色々悩んでいる暇は無さそうだ…」
オレはそう呟くとぶっつけ本番となる聖なる力の行使に踏み切るのだった。
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