【第66話:巨大な影】

 オレ達から50mほど離れた所に空間が裂けたかと思うと、そこに巨大な影が現れた。

 その大きさは高さで8mを超え、その体長は20mに迫る大きさだった。


「な!?なによあれ!?ユウト!気を付けて!」

「ユウト殿!下がるでござる!」


 オレが少しその影の大きさに圧倒されているように見えたのだろう。

 メアリとメイが叫び、注意を促してくる。

 心配してくれている二人に大きな声で返事をすると、飛びのき皆にこの巨影の正体を伝える。


「わかっている!こいつは地竜だ!油断せずに出来るだけ距離をとって!」


 そう。オレ達の目の前に現れたのは地竜。

 セリミナ様に頂いた知識かくかくしかじかによれば竜種の中では比較的弱いとされているが、それはあくまでも圧倒的な強さを誇る他の竜種と比べての事だった。

 その強さはたった一匹で小さな街なら滅ぼせるほどで、とても1パーティー数人で倒せるような強さではなかった。

 いや。それでもオレ達のパーティーならば難なく倒すことは出来ただろう。

 この地竜が普通の地竜ならば…。


 この竜は変異種であった。

 体に纏う禍々しい闇は体に溶け込み、体と同化して黒く変色している。

 第三の目を使うまでもなくわかるフェーズ5の特徴であった。


 オレは大きく飛びのき十分な距離をとると、


「こいつは変異種、しかも最終段階のフェーズ5だ!」


 と皆に改めて警告を発するのだった。


 しかしリリルは、それならば現れたばかりの今がチャンスと自身のもっとも得意とする魔法でいきなり決めにかかる。


≪わが身は力。そのみなもとは火。全てを焼き尽くす紅蓮の刃よ。我に仇なす敵を切り裂け!≫

贖罪しょくざいやいば!』


 リリルの髪色よりも更に赤い巨大な炎が刃となって大きな影と衝突する。


 ゴォォォォォッ!!


 加護の力によって大きく増大したその魔法により、辺り一面を焼き尽くし炭化させていく。

 十分な距離を取っていてもその熱量に思わず顔をそむけるほどで、さすがの地竜も一たまりもない威力だった。


「す、凄いでござる!?」

「なによそれ!?ユウトだけでなくリリルもやっぱりとんでもないじゃない!」


 メアリとメイがもう一度叫び、これで終わったのかとあっけにとられる。

 そしてリリルは少し疲れた様子で、


「…どう…かな?加護の力も使って全力で撃ってみたんですが…?」


 とオレの方に不安そうに視線を送ってくる。

 オレもそんなリリルの視線に答えて安心させてあげたかった。

 しかし……オレはすぐに祝詞をあげて全力で聖なる力を行使する。


≪我は暁の女神の使徒『残照ざんしょう優斗ユウト』この名において与えられし力を今行使する≫

澄清ちょうせい光波こうは


 竜がいた場所をすっぽり収めるほどの大きさの光の波があらわれ、黒ずんだ地竜を丸のみにしていく。

 そして、オレは更に距離をとると


「みんな!撤退戦だ!パズをこっちに向かわせているから合流してからこいつを叩く!」


 と指示をだすのだった。

 ~


「…ユウト殿?あれで倒せてないでござるか…?」


 メイが信じられない様子で尋ねてくる。

 キントキも


「がうがぅ~?がうぅ?」


 またまた~冗談でしょ?みたいに聞いてくる。 ※ユウトの勝手な想像です…

 他の二人も同じような心境だったようだが、オレの真剣な表情に気付くと思わず生唾を飲み込み距離を取るのだった。


 その時、地竜の目がこちらを『ギロリ』と見たかと思うと大きく口を開く。


「やばい!?ブレスが来るぞ!」

「きゃ!?ちょ、ちょっと待ってよ!?あんなの喰らったらひとたまりもないわよ!?」


 オレは叫んでみんなと地竜の間に滑り込む。

 大きく開かれたその口からは闇の光と呼べるような黒い光がチリチリと見え、引き攣った顔のメアリはもうダメかと頭を抱えてしゃがみ込む。


「大丈夫!みんなオレの後ろに隠れて!」


 オレはそう叫ぶと、すぐさま祝詞をあげる。


≪我は『残照ざんしょう優斗ユウト』の名において力を行使する≫


 そして両手を前に突き出し聖なる力を行使する。


安寧あんねいの境界≫


 突き出した手の平の前に大きな光の文様が現れ回転すると、そのまま光の障壁と化す。

 その光の障壁がオレの込める力によって10mほどの大きさに広がった時、瘴気のブレスが放たれた。


 ズゴゴゴゴゴゴーーー!!


 轟音と共に瘴気のブレスが地竜の変異種から放たれ、辺り一面が真っ暗になったかのようになる。


「「「「きゃー!!(がぅー!!)」」」」


 なんか一匹混じっている気がするが、女性陣から悲鳴があがる。

 オレは第三の目でみんなの無事を確認すると、ブレスがもたらした周りの惨状に絶句する。


「…おいおい…。森なくなってるやん…」


 思わず少し混ざったエセ関西弁は、誰にも突っ込みをいれてもらえず寂しく消えていくのだった。

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