【第42話:ギルドマスター】

 部屋の中に入ると、中央の執務机の奥に20代後半ぐらいの女性の姿が見えた。

 部屋は思ったよりもこじんまりとしており、机には大量の書類が積み上げられ、奥に1枚の絵が飾られているだけの質素な部屋だった。

 オレ達が執務机の前まで歩いて行って立ち止まると、


「よく来てくれたわ。あなたが噂のユウト君ね。私はこのテリトンの冒険者ギルドでギルドマスターをやっている『ルリ』よ」


 よろしくね と、話しかけてきた。


 その女性は黒く長い髪に少し露出の激しいチャイナドレス風の服を着ており、街を歩けば誰もが一瞬目を留めるような美貌に少し妖艶な雰囲気を纏っていた。


「はじめまして。ルリさん。よろしくお願いします。こいつは相棒の従魔のパズ。で、こっちは仲間のメイと言います」


 と、オレも自分とパズ、メイの自己紹介をして返す。


「ばぅ!」


 パズもよろしくな!と言っていたがオレが通訳しても話がややこしくなりそうなので、ルリさんには伝えずそっとしておいた。

 パズはちょっと不満そうだったが、あまり興味がないのか足元でオレの足先を枕にして寝てしまう…。


 ルリさんは、少し観察するようにオレの全身をゆっくり見ると、


「へ~。今まで色んな冒険者を見てきたけど、私の魔眼で力を見抜けないのは初めてだわ」


 と、面白そうに小さな笑みをこぼす。


「魔眼…ですか?」


 オレは知識かくかくしかじかでは魔眼を知っていたが、その種類や能力が千差万別らしいので聞き返してみた。

 すると、ギルドマスターではなくジーニスが


「こいつの二つ名は『予知魔眼のルリ』だが、ある程度相手の力量なども見抜けるそうだ」


 と答えてくれる。


「その二つ名はあまり好きじゃないのだけれど…。まぁだいたいその通りなんだけどね」


 と一瞬ジーニスを睨むが、説明に間違いはないと肯定する。

 そして本当の能力の方の話にうつり、


「そして今日、私はこの街がゴブリンに蹂躙される姿を見たの。私の予知はコントロールできないけど今まではずれた事は一度もなかったのよ。それが…」


 と、そこで言葉をとめてオレを見つめ、


「あなたはいったい何者なの?」


 と、ストレートに問いかけてきたのだった。

 ~

 オレはいきなりそんな質問をされるとは予想していなかった為、一瞬言葉に詰まってしまう。


「答えにくそうね。じゃぁ、質問を変えるわ」


 とフフフと、怪しげにほほ笑み別の質問をしてきた。


「あなたはどの神様の加護を受けているの?」


 と核心を突いてきたのだった。


(く!この人鋭いな!どうしよう?何て答える?)


 と、オレが必死に無難な回答を考えていると、


「それは秘密の使命なので秘密でござる!」


 とメイが答えてしまうのだった…。

 オレは思わず


「ぅおぃ!なんでやねん!」


 とエセ関西弁で突っ込みをいれるが時すでに遅し。

 ルリさんはクスクス笑いながら、


「あらぁ。メイちゃんみたいな素直な子はお姉さん大好きよ。もっと聞かせて欲しいわ」


 とメイの頭を撫でて質問を重ねるのだった。

 ~

 結局オレは使徒というのは何とか隠し通せたものの、セリミナ様の加護を受けている事、出会った闇の眷属を倒すように言われた事など主要な事は聞きだされてしまった。


(この人凄い綺麗だけど凄い頭がきれて恐ろしいな…)


 ただ、女神様からは人知れず事を成すように言われていると、嘘をついて協力を求めておいた。

 このオレの嘘が通じたのか、そういう事にしておいてくれたのかはわからなかったが…。

 小さな奴だと思われるかもしれないが、オレはゆっくりこの異世界を旅してまわってみたいのだ!

 と、自分に言い訳をするのだった。

 ~

 その後今回の闇の尖兵の報告も終えると、最後にルリさんが


「概ね了解したわ。ただ、今回の事は下手をすれば街が滅んでいたような出来事なの。だからギルド本部には詳細を全て報告し、他の街にも闇の眷属の動きに注意するように促してもらいます」


 そしてこう続ける。


「そしてあなた達の事は冒険者たちには伏せておきますが、ギルドの上層部には共有して全面的にバックアップさせてもらいます」


 使命頑張ってね☆とウインクしてくる。

 大事おおごとになりそうな話にオレは


(オレのまったり異世界旅計画が…)


 と、うな垂れるのだった。


 ~


 一通りの報告を終えたオレ達は街の通りを宿に向かって歩いていた。

 ジーニスに何度も念押しされたのでこの後酒場に顔を出すことにはなっているが、彼とはひとまず別れてまずはリリルが待つ宿に行くことにしたのだ。

 そしてその道すがら、


「メイ~。次からはもう少し発言気を付けてくれよな…」


 と、聞かれれば何でもすぐ話しそうになるメイにお願いするのだが、


「わかっているでござる!キントキにも言っておくでござる!」

「がうがぅ」


 とご機嫌な様子の二人からは、とても改善される未来は見えなかった。

 ~

 ようやく宿に帰り着いたオレ達が部屋に戻ると、オズバンさんが凄い勢いで突っ込んできてオレの手を握り締めてきた。


「うぁ!?な、何ですか!?」


 でかい筋骨隆々の強面こわもての男が突っ込んでくるのだ。

 思わず避けるか反撃しようと脳裏をよぎったのは許してほしい…。


「ユウト!ありがとうな!ありがとうな!」


 と目元に涙を浮かべながら感謝される。

 部屋を見渡すがそのリリルの姿がないのに一瞬心配になると、オレの視線に気付いたオズバンさんがリリルは今湯あみと着替えをしていると教えてくれた。


(そう言えばローブとか結構ボロボロだったものな。一人でよく耐えてくれたよな…)


 そんな事を考えていると、バッカムさんが


「ユウトさん。私からもお礼の言葉を述べさせてください。本当にありがとうございます」


 と感謝の意を伝えてくる。

 オレは少し照れくさくなって、


「オレ自身が闇の眷属を許せなかっただけですから。それに一番頑張ったのはリリルです」


 リリルを一番褒めてやってくださいと返すのだった。

 するとバッカムさん、オズバンさんの表情が真面目なものになりこう告げてくる。


「だいたいの話はあの子からお聞きしましたよ。それで改めてユウトさんにお願いがあります」


 そしてオレは、この後バッカムさんとオズバンさんから話された内容に驚く事になるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る