【第43話:託された想い、そして旅の始まり】

 いつもの優し気な表情を真剣なものに変えたバッカムさんが話し始める。


「ユウトさん。メイちゃん。今から話す内容は他言しないようにお願いします」


 何か大事な事を伝えようとしているとわかったオレは、


「わかりました。絶対に口外しないように気を付けます」

「わ、わかったでござる」


 若干メイが心配になったが、純朴なこの子は浮かれて話すような内容でなければ大丈夫だろうと思いなおす。

 そしてオズバンさんが、


「ユウト。今から話す内容はリリルも知らない事だから」


 とリリルに関する事だと付け加えてくる。

 そしてオレがゆっくり頷くとバッカムさんが続きを話し出すのだった。


 ~


「どこから話すべきでしょうか…。リリルの両親が魔物に殺されたという話は聞いたと思います」


 合っていますかと聞いてくるオズバンさんに、オレは


「はい。それは聞いています」


 と答える。しかしオズバンさんは、


「それは半分本当ではあるのですが、半分嘘でもあるのです」


 と言ってきたのだ。


「え??どういう事ですか?」


 オレは半分嘘の意味がわからず聞き返す。


「魔物に殺されたのはリリルにとっては育ての親であり、オズバン君の実の両親なんです」


 それは本当の兄妹だと思っていた二人が、実は義理の兄弟だったという事になるのだ。

 しかも魔物に殺されたと聞いていた両親が育ての親だとすると、リリルの本当の両親は他にいるという事になる。


「いったいどういう…。それならリリルの本当の両親は…?」

「彼女の本当の父親はこの国の公爵のご子息です。そしてその母親は森の民であるエルフの末裔の娘です」


 そう告げられるのだった。


 この世界『レムリアス』のエルフとは、よくファンタジーの物語に登場するエルフと似てはいるのだが、少し違う存在でもあった。

 自然を愛して森で暮らし、300年を超える長い寿命、容姿端麗で魔法にたけた存在ではあるのだが、特に気位が高いわけでもなく、長い耳も持っていなかった。

 今の時代では交流は少なくなっているが、人間とも交流を持ち対等に付き合う良き隣人であった。


「公爵家の父親にエルフの末裔の母親ですか…」


 言葉にして呟くと疑問がわきあがってきた。


「あ!もしかしてリリルのご両親は生きているのですか!?」


 魔物に殺されていないなら生きているのかと思い聞いてみたのだが、


「少なくとも父親のクロード・マイヤー様は亡くなられています。そして母親のミイル様は森の民の集落にてある治療を受けておられます」


 と返ってきた。

 お父さんは亡くなっていたようだが、お母さんが生きているという事で少し救われた気持ちになる。

 しかし、


「ただ、ミイル様はもう12年もの長い間、ずっと意識が戻らないまま深い眠りについているのです」


 と衝撃的な事実を伝えられる。


「そんな……」


 オレは何て答えれば良いのか言葉に詰まり、それ以上言葉が続かなくなる。


「その…なんだ。ユウト。お前がそんな責任感じるような重い顔するな」


 するとそれを察したオズバンさんが気を使って声をかけてくる。

 そしてバッカムさんとオズバンさんが補足しながら淡々と話を聞かせてくれたのだった。


 リリルの両親は愛し合ってはいたが、公爵家の子息と森の民エルフの末裔という事で、周囲には中々認めてもらえなかった。

 そこで半ば駆け落ち同然で家を飛び出し、エルフたちが住む森に近い小さな街『コルムス』で静かに暮らし始めた。

 二人は質素だが幸せな生活に満足していた。

 そしてその1年後、異種族間では生まれにくいとされる子供を授かる事になる。

 リリルである。

 幸せの絶頂だった。

 二人の幸せはこれからもずっと続くかに思えた。

 しかしその5年後…、街は闇の眷属の謀略にかかり魔物の大群に襲われる。

 それでも魔法の得意なミイルが二人を守り抜き、何とか街を脱出する。

 ようやく逃げ切ったと思ったその時、その存在は突然現れた。

 その存在は見えているのにうまく認識できず、闇を纏っていたそうだ。

 そう。オレを殺したあの二つの存在のように…。

 ミイルが魔法で抵抗するが太刀打ちできず、そしてここで父親が犠牲になる。

 クロードの死に泣きながらも子供だけでもとミイルは何とか魔法で逃げ出す事に成功するのだが、その時に何らかの呪いを受けてしまう。

 ボロボロになりながらも逃げ切ったミイルは、そこで偶然街道を行くバッカムさんのキャラバンと遭遇し助けられたそうだ。

 そしてバッカムさんは知り合いだったオズバンさんの両親にリリルをお願いしたのだった。


「そんな…。リリルは今回だけでなく両親も闇の眷属に…いったいどうして…」


 一通りの話を聞き終わったオレは思わず呟いていた。


「それはクロード様の家系が代々受け継いでいたユニコーンの加護をリリルが受け継いでしまったからでしょう」


 加護によってはその子孫にまで受け継がれる事は知っていたが、その加護が原因というのがわからず質問する。


「加護を受け継ぐ事が原因というのはなぜなんです?」

「加護の力は闇の眷属を倒すのに有効だからな。お互い天敵みたいなもんだ」


 と、オズバンさんが答えてくれた。

 オレもセリミナ様に闇の眷属見つけたら倒すように言われているし、その言葉に納得する。

 そしてオズバンさんは真っ直ぐこっちを見つめると、


「だから…ユウトにリリルを頼みたい。ユウトはどうもリリルより強い加護を受けているようだし、さっきリリルから聞いた話じゃメイまで何らかの加護を受けてるんだろう?どうかリリルを頼む。こんな事は同じ加護持ちにしか頼めねぇ」


 と頭をさげてくる。


「それにユウト。お前だからこそ頼みたい!」


 少し寂しそうな、でも真剣なその視線を向けられる。


「オズバンさん…頭をあげてください」


 そしてオレは覚悟を決めて


「オレ自身の気持ちとしてもリリルの力になりたいですし、それにリリルにも同じ加護を受けた者として一緒に道を歩んでもらえるなら嬉しいです」


 と、素直な気持ちを伝える。


「ユウト殿!僕も!僕もお二人と同じ道を歩ませて欲しいでござる!」


 と何故かもらい泣きしているメイが手を挙げてアピールしながらお願いしてきた。


「もちろんだよ。メイも一緒に行こう」


 と伝えるが、その姿が少しおかしくてその場は笑顔に包まれるのだった。

 ~

 その後、リリルがオレ達のいる宿の大部屋の方に来ると改めて真実を伝える。

 しかし、リリルは既にある程度気付いていたようで逆にオズバンさんを驚かせていた。

 全てを話終えると少ししんみりした雰囲気になるが、リリルはセリミナ様に会った時に既に覚悟を決めていたようで、


不束者ふつつかものですが、これからよろしくお願いします」


 と頭をさげてきた。

 その言葉がまるで結婚する時の言葉のようで、オレがテンパってオロオロしてしまったのは触れないでいて欲しい。


 一通り話し終えると、オレ達はジーニスに誘われた酒場に行くのだが、バカ騒ぎに巻き込まれて悪戦苦闘する事になるのだった。


 ~


 オレ達はバッカムさんがこのテリトンの街に滞在する残りの数日を、オズバンさんも一緒に冒険の依頼などを受けて過ごしていた。

 実の兄妹でない二人の姿は、しかし誰よりも兄妹に見えた。

 そうした貴重な時間はあっという間に過ぎ去っていき、出発の日を迎える。

 そしてオレ達は門の前で最後の別れを惜しんでいた。


「お兄ちゃん…。体に気を付けてね。あと次の街は近いし安全だとは思うけど、しっかりバッカムさんをお願いね」


 何とか泣くのを我慢しながら話すリリルに対して、


「馬鹿やろう。オレは一人でも大丈夫だっつうの!それよりユウトやメイと頑張って行くんだぞ!」


 と、空元気まるわかりの話し方でリリルと話すオズバンさん。

 バッカムさんのキャラバンは元々予定していた通り、ここからすぐ近くにある街ゼニスへ。

 オレ達はリリルが生まれた小さな街『コルムス』に向かう事になっていた。


 そして、


「バッカムさん。オズバンさん。色々お世話になりました!リリルの身はオレが絶対に守って見せます。そして絶対にまた会いに行きます!」


 という言葉を最後に、それぞれの道を歩んでいくのだった。


 ~


 街を出て誰もいなくなった馬車の中で、オズバンさんは一人物思いにふけっていた。


「闇の尖兵と言われる軍勢が現れ、襲われそうだったこの街にたまたま加護持ちのお方が3人もいてそれを撃退する。伝承に伝わる旅の始まりの一説を彷彿とさせますね・・・」


 ~~~


≪遠い世界から現れた一人の少年の物語≫


 その者、この世界の因果から解き放たれた唯一の存在。


 その者、繰り返されるはずだった戦いに終焉をもたらす。


 その者、加護を授かりし従者を率い、小さな友人と共に世界を救う戦いに挑む。


 永遠に繰り返される この世界にかけられた争いの呪い。


 その呪いから世界の全てを守る為。


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