【第36話:闇の尖兵 その6】

 1分ほどのスリープモードから復帰したオレは、とりあえず女神像をリュックに戻して背負い直し、体に変化が無いかを確かめる。


「えっと、、特に表面的には変化は無いみたいだけど…」


 とりあえずセリミナ様お得意の『かくかくしかじか』によってオレに知識を授けてくれていたので、内容を確認してみる。


≪使徒としてやって欲しい5つの事≫

(…なにこの某映画のタイトル風な表題は…)


 まぁとりあえずスルーしてだいたい大きく5つの事を伝えてきていた。


『就寝前の女神像への御祈り(報告を添えて)』

『ゴブでもわかる聖なる力の使い方』

『闇の眷属大図鑑』

『現代用語の基礎知識(千年差分版)』


(えっと…突っ込みどころが多すぎる…というか4つしか無い気…)

「いやいや。ここで突っ込んだら負けな気がする…」


 と、変な開き直りをして一通りの確認を終えるのだった。

 そして聖なる力というものが、どういったものなのかを確認し終えると、


「なるほど…。ちょっと中二病的で恥ずかしいけど、凄い力だな…。…かなり恥ずかしいですけど!」


 と、ぼやきつつもその力の凄さにセリミナ様にちゃんと感謝するのだった。

 ~

 その頃ドリスは、闇ゴブリンとキラーアントの変異種の大軍の進行を停止させていた。

 自分たちが触れてはいけない何かが前方に現れたと直感したからだ。


「いったい何なの!?さっきの変な従魔だけでも気に入らないのに!」


 と、予定を狂わされたことに腹を立てるが、すぐに光の柱も消えたのを確認すると、少しやけ気味に進軍を再開する。


「この不愉快な気分はテリトンの街で発散してあげるからね~」


 と口元に怪しい笑みを浮かべて呟くのだった。

 しかし、誰も聞くことのないはずのその呟きを聞いていた人物がいた。

 ~


「まいったなぁ。街に八つ当たりされても困るんだけど、さすがにこの体でも四千近くいる魔物相手にスティック2本は無理すぎるよな…」


 オレは気を取り直した後、【第三の目】の力を一時的に広げて様子を伺っていたのだ。


「でも、目なのに声まで情報として入ってくるんだから凄いよね~」


 と、まるで人ごとのように思っていた。

 オレは【権能:見極めし者】の力を使って『この状況全体』を見極めにかかる。

【第三の目】も駆使することで導き出したその答えは、


「聖なる力か…。ぶっつけ本番だし緊張するな」


 と、やはり聖なる力しかなかった。

 ~

 オレはゴブリンが進軍を再開したのを確認すると、その先頭に向かって走って先回りをする。

 そして200mほどの距離まで近づくと目立つ位置で立ち止まった。


「はーい。ドリスさーん。止まってくださーい!」


 と、飄々ひょうひょうと声を掛けてみる。


(返事がない。まるで…)


 とかちょっとふざけた事を考えてると、意外とすぐに返事がされた。


「あらー。有望な新人君じゃない。愛しい彼女を救うために駆け付けたって所かしら~?」


 どうしてもみんなリリルをオレの愛しい人にしたいらしい…。

 まぁそれは置いといてせっかく答えてくれたので一応話してみる。


「もうそういう事で良いですよ!それよりあなたは闇の眷属なんですか?」


 と、物凄くストレートに聞いてみた。


「へ~。さすが優秀な新人君。凄いわね。お姉さん驚いたわ。でも、知りすぎると早死にしちゃうわよ。まぁもう手遅れだけど~」


 と言って、話を打ち切りそのままゴブリンをけしかけてきた。


「いやぁ。闇の眷属は敵だからサクッと倒してこいってオレの恩神おんじんに言われたもので」


 と、軽く挑発する。

 すると偽受付お姉さんは沸点が低いようで、


「口の減らないガキね!闇の眷属の力を思い知るがいいわ!」


 と、あっさり認めるのだった。

 ~

 これだけいれば十分だと、百を超えるゴブリンがオレに迫ってきていた。

 他の魔物はオレを無視して街を目指すつもりのようだ。


(さて。覚悟を決めて聖なる力とやらを使ってみますか!)


 この場では何の覚悟なのかはおいておくとして、オレは本当に覚悟を決め、セリミナ様に教わった知識かくかくしかじか祝詞のりとをあげるのだった。


≪我は暁の女神の使徒『残照ざんしょう優斗ユウト』この名において与えられし力を今行使する≫


 粛々と祝詞を述べるとオレを中心として光の文様が展開される。


「えっ!?嘘でしょ!? 女神の使徒とか聞いてないわよ!?」

 狼狽えるドリスを無視し、オレは右手をゴブリンの大軍に向けると最後の言葉を口にする。


澄清ちょうせい光波こうは


 文様がひと際大きな光を放つと、右手から清き光の波が津波のようにゴブリンの大群を飲み込むのだった。

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