【第35話:闇の尖兵 その5】
~時は少し遡る~
オレはメイと別れた後、そのまま街を飛び出しパズの後を追うように街道を北に駆けていた。
その速度はパズにこそ劣るものの馬よりも早く、魔力を纏っていたとしてもとても普通の人間に出せる速度ではないだろう。
「パズはどうやら間に合ったみたいだな~」
遠隔意思疎通でパズが間に合った事、リリルが無事な事を知り少しホッとする。
そしてドリスが裏で糸を引いていたことも間違いない事を知り、まだ油断してはいけないと気を引き締めるのだった。
「さぁ、パズ。チワワの恐ろしさを思い知らせてやってくれ」
そう呟いた時に、ギルドでメイがくしゃみをしたとかしないとか…。
~
街から走り続け、ようやく森のそばまで来た時だった。
「ん?なんか背中が暖かい気が?」
そう思って少し速度を落とすと、背負っていたリュックの中から急に音が聞こえてくる。
リンリンリンリン…
オレは慌てて一旦立ち止まってリュックをおろし、その原因を確認しようとリュックの口をあける。
リンリンリンリン!!
すると大音量と共に凄い光が溢れ出す。
「うわーーー!?なになに!?」
いきなりオレのリュックから光があふれ出したかと思うと、その光が収束してそのまま天まで届く光の柱と化す。
何事かと警戒して少し距離を取ると、その光の柱の中を小さな何かが宙に浮かびあがってくる。
そしてその小さな何かには見覚えがあった。
「え?木彫りの人形!?」
そう。最初にセリミナ様からもらったリュックの中に入っていた人形だった。
すっかり忘れていたとかそんな事は無い。断じてない。絶対にない。
そして木彫りの人形の後ろに後光のように見覚えのある光の文様が現れる。
(あ。なんか出てきたぞ…)
≪ゆ~う~と~!「なんか出てきたぞ…」じゃないです!なんでお祈り捧げないかなぁ!優斗は私の使徒なんだから毎日その女神像にお祈りしないとダメでしょ!≫
と、いきなりご立腹のセリミナ様が降臨したのだった。
~
「え~…そんな無茶苦茶なぁ…説明なんも聞いてないのにそんなのわかんないですよぉ」
理不尽に怒られたので思わず女神様に言い返してしまうオレ。
(あ…女神様に思わず言い返しちゃった…ははは…まぁ言ってしまったものは仕方ないか~)
≪仕方ないか~じゃないです!女神様には筒抜けですよ!?≫
(おぉぉ。さすが女神様…って、ほんとすみません…)
と、焦ってあやまるオレ。
さすがに恩もある女神様に喧嘩売る気はない…。
「あ。それでどうされたのですか?」
いきなり現れたので理由を聞いてみたのだが、
≪どうされたかじゃないですよ。祈りもなしに顕現するの結構大変なんですからね!≫
まったくもう!とまだ怒っていた。
なんでも女神様側から祈りもなしに顕現するのは色々大変らしい。
どんな風に『色々大変』なのかは神のみぞ知る…。
≪まずこれからはこの木彫りの女神像に毎晩必ずお祈りする事!それと優斗はせっかく与えた力をあまり使いこなせてないでしょ?パズを見習いなさい。今も山ほど魔物を倒して更にどんどん強くなってますよ≫
パズが霧の魔物のゴブリン、長いので略して霧ゴブリンに絶賛無双中なのはオレも気付いていた。
(…そういえば魔物を倒すと魔力の一部を吸収して強くなるとか言ってた気が…)
≪忘れてましたね…だから筒抜けですよ…あと、闇の眷属は私と敵対しているから出会ったらサクッと倒しておいて下さい≫
「あぁ。やっぱり今回の件、闇の眷属絡みで間違ってなかったんですね」
と、女神様ならなんでもお見通しそうなので答え合わせしておく。
≪その【第三の目】は節穴ですか…?その力は私の目にも匹敵するんですよ…≫
「はは…は…。頭の処理がちょっと追い付かないので情報かなり絞り込んでいますので…」
オレはちょっとそのままだと制御しきれない…と言うか発狂しそうだったので、力を制限して使っていた。
それでも半径100mぐらいの情報は全て流れ込んでくるのだ。
そして溜息を付きながらも、女神様も一応納得してくれたようだった。
≪まぁいいです。とりあえず当面の優斗の使命は闇の眷属の企みを阻止すること。それともっと力を使いこなせるようになって強くなること。わかりました~?≫
「はい。せっかく与えてもらった新しい命なんです。この世界の役に立てるように頑張ります!」
異世界にきてそんなに立っていないが、これは本心から本当に思っていた。
オレは既に素朴なこの世界をかなり気に入っていた。
そしてこんなオレでも出来ることがあるなら、守れるものがあるなら守りたいと思うようになっていた。
≪それとあなたの気になるリリルちゃんは、私の眷属から加護を受けてるみたいだから協力を仰ぎなさい。後でサービスで私直々の加護も与えておいてあげるから≫
「サ、サービスって…それよりリリルは加護持ちだったんですね。あ。というか気になるってなんですか!?」
オレは
≪もう…優斗はもっと権能を使いこなせるようになりなさい。まぁ最後ちょっとだけ優斗にもサービスしてあげるね☆≫
「え?なんですか…。最後の『星』が凄く警戒心を呼ぶんですが…」
するとセリミナ様はフフフと笑うと、
≪我は暁の女神セリミナ。我が使徒『優斗』にふさわしき
と厳かな言葉が紡がれ、ひと際大きな光の文様があらわれた。
そしてその光の文様がオレの体を包み込むと、オレの魂に神に授けられし
≪さぁこれで優斗、いや残照の優斗よ!かくかくしかじか!≫
と言って、消え去っていったのだった。
(な、なんか中二病的なものを名付けて去っていったな…)
と、しばらくの間茫然としてしまったのは許してほしい…。
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