【第37話:闇の尖兵 その7】

 右手から溢れ出た光はまるで大きな波のようにゴブリンに迫っていく。


「ぅぇ!?何!?この光魔法は!?」


 変な声をあげて見た事のない無い規模の魔法に更に驚くドリス。

 しかし光の波はそれで待ってくれるわけもなく、ゴブリンを次々と飲み込んでいく。


「「ギャギャ!ギャ!」」


 光の波が目前に迫ってようやく逃げようとするゴブリンたちだったが、逃げ切る事など出来るはずもなく静かに飲み込まれていく。

 そして、数百匹のゴブリンを飲み込んだあたりで光の波は引いていくが、そこに霧の魔物たるゴブリンの姿は一匹もなかった。

 まるで最初からそこには何も存在していなかったのように。

 ~

 一瞬静寂に包まれる森の中で、オレは内心あまりの威力に冷や汗をかきながらも、


「闇の眷属の力はどうしたんですか?」


 と、少しドリスを煽っていた。

 ドリスに個人的な恨みはそこまで無いのだが、あの気のいい兄ちゃんパーティーなどは

 もう少しで死ぬところだったのだ。

 えっと…決してパーティー名を忘れたわけではない…。『コリテの絆』だ…ったかな。 ※違います…

 そして、今回の件を除いたとしてもきっとドリスは闇の眷属に類するものとして、今までにも多くの人々を苦しめてきたはずだ。

 そう思うと、少しいきどおり、腹が立ったのだ。


「く!?使徒とは予想外だけど、それなら全力で潰してあげるまでだわ!この世に神など一人で十分なのよ!」


 そう言うと、言葉に闇の力を乗せて全力でオレを排除するように命令を下す。


「お前たち!あの女神の使徒を全力で排除しなさい!」


 ゴブリンはもちろんキラーアントの変異種たちも含めた全軍が押し寄せてくるのだった。

 ~


(さぁて。聖なる力の凄さも少し理解できた事だし、本気だして行くとしますか)


 そう。オレはまだ聖なる力の片鱗を見せたに過ぎなかった。

 地響きを上げて押し寄せるゴブリンの群れ。

 しかし、先陣を切って現れたのはキラーアントの群れだった。

 その群れは全て変異種で、キラーアントが37匹、キラーアントソルジャーが7匹、キラーアントジェネラルが2匹から構成されていた。

 キラーアントの足が速く、思ったよりも早い切り込みに、オレは素早く借り受けた【神の力】を行使する。

 今度の祝詞は略式のものだ。


≪我は『残照ざんしょう優斗ユウト』の名において力を行使する≫


 短い祝詞を述べると先ほどと同じく光の文様が展開される。

 そして腰にさしている二本の名もなきスティックを抜いて両手に開いて構えて先ほどとは別の力を行使する。


余光よこう武威ぶい


 光の文様がオレに吸い込まれ、薄っすらと全身を発光させる。

 そしてその闇を照らす力を持った清き光は、二本のスティックにも纏わりつき光り輝く神聖な武器と化すのだった。


(良し!こっちもうまくいったぞ!)


 光を身に纏ったオレは最初に近づいてきたキラーアントソルジャー3匹に向かってスティックを一閃する。

 すると、光の軌跡が斬撃となって放たれて3匹纏めて上下に両断。


「ギギッ…!!」


 短く呻いたソルジャーは、単なる斬撃では終わらないその光によって浄化され、その命を一瞬で散らしたのだった。


 この≪余光よこう武威ぶい≫は最初の≪澄清ちょうせい光波こうは≫のように攻撃を放って終わりの力ではなく持続型の力だった。


「さぁ。授かりものの力ばかりだけど、ちょっと蹴散らさせてもらいますよ」


 そう言ってオレは両方のスティックを使って演武のように舞い始める。


 ダブルスティックシンブラタ。


 且つて父親に教わったその技は体に染みついており、流麗に次々と一撃を繰り出す。

 しかし、ただ綺麗なだけで終わるわけもなく、その光の軌跡は全てが光の斬撃となってキラーアントに襲い掛かるのだった。


 前方広範囲に乱れ飛ぶその光の軌跡が、瞬く間に最初の46匹のキラーアントの集団を葬り去る。

 あのキラーアントジェネラルの変異種すらその例にもれず、一瞬で命を散らす。

 時間にすれば十数秒の出来事だった。


「あ・ぁ・・う・そ・・・」


 ドリスが壊れたかのように呟いているのがわかったが、ここで手を緩めるわけにはいかなかった。


「はぁぁ!!」


 オレはその神聖なスティックを使って更に舞い続ける。

 次々放たれるその光の斬撃は、その後ろに控えていたゴブリンの群れも次々呑み込み、少し体を掠っただけでも浄化し霧散させていく。

 ゴブリンたちはその数を頼りに何とか一撃を加えようと突貫するのだが、次々放たれる斬撃は一撃で何匹も纏めて切り刻み、触れる事すら許されずに消え去っていった。

 そしてオレが数分で舞を終えると、ゴブリン達はその数を既に半分以下にまでに減らしていたのだった。

 ~

 気が付けば近くのゴブリンを全て倒しつくしていた。

 オレは≪余光よこう武威ぶい≫を纏ったまま、まだ奥に控えていた残りの魔物の群れに向かって歩き出す。

 すると、今まで隠れていたドリスが姿を現し話しかけてきた。

 もちろんオレは既にどこにいるかは正確に把握していたのだが、ドリスは【見極めし者】など知るはずもなく、今まで魔法で姿を消しているつもりだった。


「アハハッ!やってくれたわね!坊やのせいで何もかも無茶苦茶よ!……もう…手段を選んでいられなくなったぐらい…ね…」


 少し引き攣った笑みを口元に張り付かせて話すドリス。


「もうどの道ここまで与えられた部隊をダメにしたんですから、あのお方に許して貰えるわけがない…」


 そう呟く瞳には狂気の火が灯っているように見えた。

 そして次の瞬間、


「全軍!使徒やその仲間を無視してテリトンの街に進行しなさい!そして街を攻め滅ぼすのよ!それが無理なら一人でも多くの人間を殺せ!!女も子供も老人もみんな殺して殺して殺しまくってちょうだい!」


 と、恐ろしい言葉を口にしたのだった。

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