【第17話:辺境の街】
次の日、オレ達キャラバン一行は一路テリトンの街に向けて歩みを進めていた。
簡単な朝食を手早く済ませ、朝早くに出発したのだが、その道中にちょっとした問題が起きていた。
~
何気ない会話の中で、リリルが昨日の事を話しかけてくる。
「あ~ぁ。結局またユウトさんに助けられる形になっちゃったなぁ~」
と、少しふてくされ気味。
「そう言われてもなぁ。オレからしたらリリルの使ったあの炎の魔法の方がよっぽど凄かったけどなぁ」
これは本心から言ったのだが、まったく信じてもらえない。
そしてこの一言がまずかった…。
「えぇ~。どの口が言ってるんですか~?この口ですかぁ?」
(なんかジト目になってる気がする…)
「魔力の扱いを習ったその1時間後に実戦で即使ってみせ、あのアーマードベアの猛攻を涼しい顔で受け流し、なんだかよくわからない魔力撃まで使ってみせ、挙句に一撃で葬った人のこの口が言ってるんですか~?」
(だめだ…。やっぱりさっきの…。完全に目が座ってきてるぞ…)
「いやぁ…。そんな事もありましたね~。あはは…」
乾いた笑いでごまかそうとするが逃げきれなかった。。
「そんな事もじゃありません!昨日は私が恩返ししたかったにょにぃ~」
リリルに抱っこされているパズに視線を向けるが、そっと目を逸らされる。
(裏切者め…)
「まぁまぁ。リリル。もう一杯水でも飲まないか?」
と、オズバンさんが水のみを差しだし助け舟を出してくれる。
なぜこんな事になっているのかと言うと、今朝、起きた時にオレが
「おはようリリル。今朝は肌寒いね~」
と、挨拶したのが事の始まりだった。
リリルは気を利かせてくれて、少量のホットワインをいれてくれたのだが、
「これ美味しいね!ありがとう!リリルもどう?凄い体温まるよ」
と、勧めてしまったのが失敗だった…。
この世界では飲酒は法で規制されておらず、お酒は10歳から飲む習慣があると聞いていたので、まさかリリルがこれほどお酒に弱いとは思いもしなかった。
「パズくんは可愛いね~。よしよし」
パズが三白眼で勝ち誇ったような視線を送ってくる。
(うぅ。ずるい…!)
「ユウトさん!これから私がメンターで指導するんですからね!」
ちょっとカッコいいからって、、とかごにょごにょ言ってくる。
(あ。最後の方聞こえなかった。なに?何か嬉しい事言ってくれたような気が!)
などと、緩~い会話をしながら街道を行く。
酔いから回復したリリルに何度も謝られたのは、それから一時間後の事であった。
~
「ばうわう!」
パズが街だ!と教えてくれる。
それを聞いてオレも少しテンションがあがり、
「お!もしかしてもう少しでテリトンの街ですか?」
御者をしているバッカムさんに確認する。
するとバッカムさんは、少し驚きながら
「パズ君は凄いねぇ。まだ1時間はかかる距離だというのにもう気付いたんですね」
と、教えてくれた。
(異世界の街か~楽しみだなぁ♪)
~
それから40分ほど歩くとようやく街がはっきり見えてきた。
「お~これがテリトンの街ですか!」
一人テンションをあげて興奮していると、
「なんだユウト。テリトンなんて何の変哲もない普通の街だぞ?」
とオズバンさんが聞いてくる。
初めての異世界の街なんです!とも答えられず、
「いや~。大陸に着いてから街に入るの初めてなんですよ~」
と例によってありがたく東の国出身の設定を活用させてもらう。
「そうか。でも、東の国の街とそんな違わないだろ?」
どうだ?と聞かれるが、ボロが出ると不味いのでそんな事よりテリトンの街の事を聞かせてくださいと頼むのだった。
パタ王国最西端にある辺境の街「テリトン」。
人口は5000人ほどで、農業中心の街。
四方を高さ4m程の塀に囲まれており、街に隣接するように農地が広がっている。
辺境だけあって周りに魔物が生息しており、討伐依頼目当ての冒険者も比較的多く集まっているようだった。
「5000人かぁ。結構いるんですね~」
パタ王国の全体の人口がどれぐらいか知らないが、なんとなく多く感じた。
「多いか?辺境の街ならだいたいこんなもんだろ?」
と、さっそくボロが出そうだったので少し感想を述べる時は気を付けようと思うのだった…。
~
更に20分ほど歩くとようやく開かれた門の前まで到着する。
すると4人いる門番のうち2人が近寄ってきて、
「おーい。止まってくれ。キャラバンの登録証と各自身分証を見せてくれ」
と門番が言ってくる。
(え!?オレ身分証などないよ!?)
と一人焦っていると、オズバンさんがちゃんと話を通してくれた。
「その子はこれから冒険者登録するので、今はキャラバンの方で身元保証します。これは保証金です」
といって銀貨を差し出す。
なんでも街に入るには身分証を持った人の保証がいるらしく、バッカムさんがその手続きを代わりにやってくれた。
銀貨は街を出る時に身分証を見せれば返金してくれるらしい。
ちなみにパズは珍しがられはしたが、オレの従魔という事で納得してくれた。
最後に「まぁ小さくて弱そうだし問題ないか」とか聞こえた気がしたが、聞かなかった事にしよう…。
そして手続きがすべて終わると門番が道をあけて、
「よし!問題ない。通っていいぞ!」
と、許可がおりた。
なんとか無事に街の中に入れそうだ。
(これ、、一人で街に来てたら詰んでたな…。ほんとみんなと出会えたおかげだなぁ)
と、心の中で幼い少女姿の女神様に感謝しておく。
こうしてオレは異世界初めての街「テリトン」の門をくぐるのだった。
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