【第15話:詠唱魔術】
「オズバンさん!リリル!数体の魔物か何かの集団が凄い勢いで近づいてきています!」
オレはパズに教えてもらった内容を急いで二人に伝える。
「え?魔物除けの魔法はしっかりかけておいたはずなのに…」
自分がかけた魔法が何か失敗していたのかと心配になるリリル。
するとオズバンさんが、
「リリル。魔物除けの魔法はあくまでもオレ達人間の魔力を感じ取れなくするだけだ。ほとんどの魔物は魔力で人を見つけようとするが、コボルトとか一部の魔物は臭いで追ってくる。万能ではないと覚えておくんだ」
そして今はそんな事を気にしている時ではないとリリルをさとす。
「それでどっちから来るんだ?オレにはまだまったくわからないぞ?」
オズバンさんにはまだまったく気配を掴めていないようだったが、盗賊の一件でパズの事を信頼してくれたようで疑う様子はない。
「あっちの方から来ます。一直線にこちらに向かってきているんですが、なんだが様子がおかしい気がします」
オレは気配を感じる方を指差してそう説明するが、何か違和感を感じていた。
「様子がおかしいとはどういうことだ?」
「それが気配が少し減っていっているような気がするんです。あ!?今のは確実に減った!」
話し始めたときは違和感を少し感じる程度だったが、話している途中で複数の気配がごっそり減るのを感じる。
「いったいどういう事だ?」
オズバンさんに聞き返されるが、オレもそこまで詳細な気配を感じ取れないため、パズに聞いてみる。
「パズどう感じる?」
すると、暫く気配の方を向いて真剣な顔で集中すると、一声鳴いて教えてくれた。
「ばふぅん!ばふばぅ」
一瞬変な鳴き声だと思うがその内容に驚き、すぐに他のみんなにも説明する。
「魔物の集団はハウンド系の魔物みたいですが、何かひときわ大きな魔物に追われているようです!」
その言葉に緊張が走り、一斉にみんな動き出すのだった。
~
「陣形を組むぞ!俺とユウトは馬車を背に前衛として前に出る!リリルとパズは後ろで魔法で援護。バッカムさんは馬車の中に退避してください!」
オズバンさんの体調は馬車に乗ってゆっくり休んでいたおかげでとりあえずは動けそうだ。
オレはさっき習ったばかりの要領で、魔力を早速全身に纏う。
「ユウト!まだ早いぞ…って、お前魔力炉持ちだったな…」
普通は魔力を温存して戦闘直前に魔力を纏うのが一般的らしいので注意をしようとしたようっだったが、オレが魔力炉持ちなのを思い出して溜息をはくオズバンさん。
(ぅ…。オズバンさんの視線が痛い…)
なんだかジトッとした目で見られている気がする…。
しかし、ふざけてばかりもいられない。
なにせ異世界で初めての魔物との戦闘なのだ。
いくらハイスペックボディと言っても、一昨日まで普通の日本人だったオレには荷が重い。
なんだか手足が震えそうなほど緊張が高まってくる。
緊張でガチガチになりそうになっていると、パズが突然膝に飛びついてきた。後ろから…。
「何するねん!?」
思わず飛び出るエセ関西弁と膝カックンで崩れ落ちるオレ…。
するとパズは、
「ばぅぅ~~」
ユウト緊張しすぎ~みたいな緩い気持ちを伝えてくる。
「あぁぁ。悪かったな。いや、ありがとうな。パズ」
頭を撫でてやり、お礼を言う。
オレの手足の震えは完全に止まっていた。
~
気を取り直したオレはいつの間にか舞い上がっていて忘れていた権能を起動する。
【権能:見極めし者】
すると今までわからなかった気配の正体やその位置、数などすべての状況を理解する。
「追われている魔物はダイアウルフで数は6…いや5に減った!」
今薙ぎ払われるように一頭のダイアウルフの気配が消えた。
「そして追ってきている魔物は、、アーマードベアだ!!」
~
オレがその名を告げると全員に緊張が走る。
アーマードベアとは硬い皮脂を持った体長3m近くある大きな熊型の魔物で、この辺りでは一番気を付けないといけない魔物だった。
「くそ!まだ本調子で無いこんな時に!すまいないがユウトとパズに頼る事になるぞ!」
オズバンさんが苦々しげに叫ぶ。
「任せてください!怖くないと言えば嘘になりますが、まぁ何とかなりますよ」
(みんなを守るんだ。今のオレならできるはず!)
決意をあらたに、迎え撃つ為スティックを構えるのだった。
~
「来たわ!まずは私が先制で魔法を撃ち込みます!」
そういうとリリルの魔力があがっていく。
≪わが身は力。その
詠唱魔術。
通常、魔法を使う時は詠唱などしなくても発動できる。
詠唱を行い具体的なイメージを言葉により補う事で、より強力で多肢にわたる魔法の行使を可能にする。
しかし、詠唱魔術は練度が低いと言葉とイメージの乖離によって失敗しやすい。
だが…。リリルにその心配は無用だった。
リリルの得意な火系統で扱える最強魔法。
『
そう叫んで杖を横に薙ぎ払うと、そこには紅蓮の炎でできた巨大な刃が出現し、魔物の集団めがけて飛んでいく。
幅数メートルにも及ぶ紅蓮の炎は狙いたがわず魔物の集団を飲み込む。
ゴォォーーー!!
「!?」
響く轟音に頬が震えているようだ。
そして煙が晴れると、30m程までに迫っていた魔物の集団は跡形もなく焼失していた。
「す、すごい…」
リリルの魔法に度肝を抜かれ、思わず呟いていた。
しかし……、
「いや。一匹生き残っている…」
気配を感じ取ったオレは周りに注意を促すと歩み出す。
そう。アーマードベアは大きな火傷を負いながらも怒りの視線をこちらに向けていたのだった。
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