【第14話:魔力炉】

 朝早くに出発したオレ達は、御者にバッカムさん、その隣にまだ本調子でないオズバンさん、そして馬車をはさんで左右にオレとリリルという陣形で進んでいた。

 パズ?それはもちろんオレの隣、、、ではなく、お前らついてこいとばかりに先頭を気分良さそうに歩いていた。

 途中オズバンさんが「オレも歩く!」とごねたりしてひと悶着はあったが、リリルに怒られると素直に馬車に戻り、それ以降は順調な旅路だった。

 ~


「バッカムさん。テリトンまではどれぐらいかかるんですか?」

「テリトンまでは馬車で二日ほどの距離なので、申し訳ないですが今日は野宿になります」


 と、申し訳なさそうに教えてくれる。

 でも、旅が趣味だったオレはテントで寝るような旅も多くしており、思い出してちょっと嬉しくなる。


「お。野宿ですか!旅の醍醐味じゃないですか~」

「え?そうですかねぇ?まぁ嫌でないのでしたら良かったですよ」


 と、ちょっと不思議そうな顔をしていた。


「そうだ。バッカムさん。この貨幣って換金とかできるか見て頂けませんか?」


 報酬でもらったお金があるので当面はまったく問題なくなったのだが、セリミナ様から頂いたコインがいくつかあったのでリュックから取り出して見てもらう。

 すると、バッカムさんが驚いて


「!? これはどこで!?これは古代文明で使われていた貨幣ですよ!?」


 と聞いてくる。

 オレは咄嗟にうまい言い訳が思いつかなかったので、例のごとく鎖国を利用させて頂く。


「えっと、、東の国でも珍しい物なのでこちらでもお金になるのではと思って持ってきたのです」


 と、誤魔化した。


「さすがはユウトさん。上手いこと考えましたな。確かにこちらでも価値が高いので問題なく換金できますよ。恐らく東の国の貨幣を持ってくるより間違いないでしょう」


 バッカムさんが何か勝手に誤解してオレが頭の切れる人にされたが、そういう事にしておこう…。

 そして心の中で謝るのだった。

 ~

 お昼の休憩を終え、さらに街道を進む。

 この異世界「レムリアス」は本当に綺麗なところだった。

 澄み渡る青い空にどこまでも続く道。

 夏の北海道に行った時の事を思い出す。

 街道は意外と整備されており、馬車が通る分には問題ない程度には道もならされている。

 気温は日本の春か秋ぐらいだろうか?

 この世界にも四季があるらしいので、季節の移り変わりが今から楽しみだ。

 そんな風に景観を楽しみながら異世界の旅を満喫するのだった。

(パズがいてくれなかったら、もっと心細かったかもなぁ…)

 そう思っているとパズが近寄ってきたので、何となく頭にのせてそのまま歩くのだった。


「ばぅ?」


 ~

 その日は何事もなく進み、日も傾いてきたのでそろそろ野営の場所を探し始める。


「お兄ちゃん!あそこらへんはどう?」


 近くに小さな小川が流れ、馬車を止めて休むのにもちょうど良い広さがあった。


「そうだな。今夜はここで野営しよう。バッカムさんもここで良いですか?」


 と、キャラバンのリーダーであるバッカムさんに確認する。


「オズバン君がそこで良いのなら私も良いですよ」


 二人は結構長い付き合いらしく、バッカムさんはオズバンさんの事にこの辺りの事はすべて任せているようだった。

 リリルはそれを聞くとすぐにテキパキと動き出すが、オレは何したらいいのかわからず


「野営の準備って何をするんです?オレは何したらいいです?」


 と、オズバンさんに聞いてみた。


「ユウトは野営したことないのか?旅慣れてるように思ってたんだが?」

「えっと、パズとの旅は結構してるんですが、キャラバンでの野営って何をすればいいかは知らなくて」

「ばう!」


 パズが僕も教えてって吠える。

 するとリリルがパズに気付いて振り向き、笑いながら聞いてくる。


「フフフ。パズくんずっと頭の上に乗せてるんですね」


 そう。何となく頭に乗せたパズだったのだが、頭の上を気に入ったらしくまだ頭にしがみついていた。


「あははは…。何か頭の上から見る景色が気に入ったみたいで…」


 と乾いた笑いを浮かべながら答える。


「あ。それで何をしたらいいかな?」


 と、恥ずかしさを誤魔化すようにリリルに聞いてみる。


「えっと~。枯れ木を集めるのとスープを作る為の水を汲んでくるのと、あとは魔物除けの隠蔽いんぺい魔法をかけるぐらいかな?」


 魔物除けの隠蔽魔法はオレの知識かくかくしかじかの中にもあった。

 魔物は人の持つ魔力にひかれて寄ってくるので、その人間の魔力をわかりにくくする効果を持つ魔法だ。

 これを野営地の周りにある木や石にかけて囲むらしい。

 そしてオレはあるアイテムを持っているのを思い出し、


「わかった。水はオレがマジックアイテムで用意できるから枯れ木を集めてくるよ」

「え?あんな高価なマジックアイテム持ってるんですか!?羨ましいなぁ~」


 千年前はわからないが、今はかなり高価なものらしく、冒険者垂涎のアイテムらしい。

 あれがあればいつでも顔や手とか洗えて清潔にできるのにな~と女の子らしいこと言っていたので、いつでも使っていいよと言うと随分喜んでくれた。


(セリミナ様にほんと感謝しないとだなぁ)


 と、女神様に感謝するのだった。

 ~

 野営の準備を終えたオレは、オズバンさんに魔力の扱い方を教えてもらっていた。

 リリルのように魔法を使えない普通の冒険者が魔物と対等に戦えている理由わけ

 それは魔力を体に纏って能力を向上させ、武器の威力を魔力で何倍にも引き上げて戦っているからだ。

 この事はオレも知識かくかくしかじかで知っていたのだが使い方がわからなかった。


「いいか。おへその下辺りに魔力を集中させて、体の中に火を灯すようなイメージを作るんだ。まぁユウトはそのままでもかなり魔力が自然に扱えているようなんだがな」


 と半分あきれながら教えてくれる。


「お?丹田とかいうやつですね。父さんに習った事あるな」


 昔、武術バカの父さんに教えてもらったようにおへその下辺りを意識して気を集中してみる。

 まぁ魔力とかよくわからないので、気のイメージでまずはやってみる事にする。

 すると、これが案外間違っていなかったようで魔力が湧き出すように身体を駆け巡るのがわかった。


「お!こんな感じですか?」


 出来たんじゃないかと喜んで聞いたオズバンさんは顔が引きつっていた…。


「ユ、ユウト!お前魔力炉持ちか!?」


(あぁ…そういえば『見極めし者』を発動した時にオレもパズも魔力炉を持ってるのがわかったな)


「あはは…。魔力炉持ちだったみたいですね~」


 と、乾いた笑いで誤魔化してみたが通じなかった。


「くそー。羨ましいな!」


 千年前では魔力炉という仮初かりそめの器官をもっている人が結構いたらしいのだが、今のこの世界では数えるほどしかいないらしかった。

 魔力炉があればほとんど無尽蔵に魔力が使えるらしく、それだけで尋常じゃない強さを発揮できる。

 今度はオズバンさんに羨ましい羨ましいと何度も言われたのだが、水筒と違って魔力炉を貸す約束はできない…。

 オズバンさんをなんとか宥め、簡単な魔力の使い方を教えてもらい終わる頃にはすっかり日が暮れていた。

 そして、


(パズも魔力炉持ってる事は黙っておこう…)


 そうこっそり誓うのだった。

 ~

 日が暮れるとリリルが任せてとばかりに張り切ってスープを作ってくれた。

 キャラバン中の野営の食事なので、具のほとんどないスープだったけど本当に美味しかった。

 決して美少女に作ってもらったという補正なのではない…。

 スープと干し肉だけという質素だけど美味しい食事を終えてほっこりするオレ達。

 しかしその時、パズが何かを感じて起き上がる。


「ばぅぅぅぅ!」


 そして何か魔物の集団が近づいてきている事を伝えてくるのだった。

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