【第13話:守りの家】
オレ達はもう2時間ほど街道を歩いていた。
縛り上げた盗賊たちを数珠つなぎにして連行し、守りの家があるという東に向かって歩みを進めていた。
周りの警戒はパズが、盗賊たちの見張りはオレとリリル、馬車の御者はバッカムさんが務めており、オズバンさんは馬車の中に寝かせてあった。
まだ意識を取り戻してなくて心配だったが、『見極める者』で命に別条はない事がわかっていたので大丈夫であろう。
盗賊たちには騒げないように簡易な猿轡のようなものをつけており、更にはリリルに軽い幻惑系の魔法をかけてもらっていたので大人しかった。
リリルは全属性の魔法が使えるらしく、土、水、火、氷、風の基本5属性、光、闇の特殊属性を使えた。
全ての属性を完全に使いこなせるわけではないらしいが、それでも凄い。
盗賊たちにはこの中の闇属性魔法「
ちなみに、この他にもいくつかの希少属性があるらしいが、こちらはさすがに使えないようだった。
「ねぇ。ユウトさんの連れてるパズくんは魔法が使えるんだよね?」
魔法使いのリリルは、やはり魔法を使うパズに興味津々といった様子。
それにどうやら魔法を使える魔物というのは少ないらしく、中でも人型でない魔物で魔法が使えるものはかなり珍しいという事だった。
「そうだね。パズは希少種だから魔法の行使もできるし、本当に頼もしい相棒だよ」
本心からの言葉だったのだが、パズが振り向いてなんだかふてぶてしい視線を送ってきたので台無しだ…。
「あ~。あたしもパズ君みたいな相棒だったら欲しいなぁ」
なんでもリリルのご両親は魔物によって殺されたらしく、最初はこんなちっちゃなパズでも少し怖かったそうだ。
(しかしご両親は魔物に殺されたのか…。やっぱり凄い過酷な世界なんだな)
と、少し気を引き締めるのだった。
~
それから更に2時間。
これから向かう守りの家は宿も提供してくれていること。
盗賊を引き渡した後に向かう街の名前が「テリトン」であること。
この国「パタ王国」に限らず、この世界の国の王都には迷宮が必ずあること。
迷宮の存在は危険ではあるが、迷宮からは常に膨大な魔力があふれ出してくるので、それを利用して王都は栄えているらしい。
お金は、白金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨となっており、それぞれが10枚で上位の貨幣と等価ということ。
(物価が違うので一概に言えないが、鉄貨3枚でエール一杯や串焼きが1本食べれるぐらいのようで鉄貨1枚100円ぐらいで考えれば問題なさそうだ)
そしてオズバンさんは唯一の肉親で、ずっと親代わりに育ててもらってきて感謝していること。
バッカムさんは実は
そうして会話をしながら歩いていると、少し遠くに2m程の塀に囲まれた建物が見えてきたのだった。
~
「そこで止まれ!まぁ理由はなんとなくわかるが、守りの家になんのようだ?」
建物の正門の横に立っていた見張り役の守備隊員に質問される。
理由がわかるというのはオレ達が盗賊を縛り上げて引き連れているからだろう。
「すみません。私たちはバッカムさんの率いるキャラバンで、私はブロンズ冒険者のリリルと言います」
「なるほど。それでそいつらは何だ?盗賊か何かって所か?」
と、盗賊たちを指さす。
「はい。一人冒険者のギムという者が混ざっていますが、盗賊と通じていて裏切りにあいました。引き取りをお願いできますか」
リリルと話していた守備隊員にさらに2.3簡単な質問をされた後、引き取りの手続きを行うために中に通された。
~
「たった一人でさっきの奴ら9人を無力化したというのか!?若いのに凄いな!」
現在オレは街道守備隊の小隊長に質問攻めにあっていた。
盗賊を引き渡しに来る冒険者はたまにいるらしいのだが、その人数が9人もいて、しかもそれをたった一人で返り討ちにし、しかも殺さず全員無力化というと話は変わってくる。
「いえ。オレ一人ではなく相棒の従魔のパズと二人で捉えたんです。パズの方が無力化した人数は多いですよ」
と訂正するのだが、更に驚かす事になったようだ。
「な!そのちっこい魔物がか!?」
まぁオレだってチワワが荒くれ物の盗賊を5人も倒すとか何の冗談だって思うから仕方ない。
パズが何か偉そうに胸を張ってる気がするが全力でスルーする。
「はい。まぁパズは魔法が使えますので」
(今のパズなら魔法抜きでも盗賊ぐらい倒してしまいそうだけど)
と内心思いながら、補足しておく。
「それはまた凄い従魔を連れているな。しかし魔法ならありえるか」
それでも魔法とはなぁとぶつぶつ言っていたが、一応納得してくれたようだった。
~
引き渡しの手続きが無事に終わり、彼ら9人は犯罪奴隷となる事を伝えられる。
少し暗い気持ちになるが、そういう世界に来たのだと納得するしかないのだろう。
そして最後に何か小袋を渡される。
「報酬の金貨だ。盗賊を引き取る時は一人金貨1枚と決められている」
(一人10万円ぐらいってことか…)
報酬が出ることは、今普通に使えるお金を持っていなかったので凄くありがたかったのだが、命の価値の低さに少し気持ちが暗くなる。
「ありがとうございます」
そういうオレの顔は少し影がさしていただろう。
バンッ!
その時、突然背中を思い切り叩かれた。
「いぃっって~…。って!?オズバンさん!!もう起きて大丈夫なんですか!?」
振り向くとそこにはさっきまで意識の戻っていなかったオズバンさんがリリルと一緒に立っていた。
「おう!もう大丈夫だ!坊主…いやユウトには命を救われたな。本当にありがとうよ」
そういって頭をさげてくる。
「だいたいの話はバッカムさんに聞いた。オレだけじゃない。バッカムさんもリリルもみんなユウトに救われたんだ。そんな顔をするな」
と笑いながら励ましてくれた。
オズバンさんの心遣いに少しじーんとしていると、
「ばうわう!」
僕も忘れるな!とパズがオレの頭に飛び乗ってきた。
バフッ!
(う…。何気にすごいジャンプ力だな…)
そして頭にへばりつくパズのおかげで、その場は笑いに包まれるのだった。
~
その後、オレ達は併設の宿で簡単な食事を済ませて一晩明かす。
翌日、朝早くに準備を終えたキャラバン一行は、次の目的の街「テリトン」に向けて出発するのだった。
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