【第12話:旅は道連れ世は情け?】

 パズはいつものごとくスッポンのように噛みついて中々はなしてくれてない…。

 痛くはないのだが外すことも出来ない絶妙な力加減。

 長年にわたり培われた高いテクニックは異世界でも健在だった。

 その時、クスクスと笑い声が聞こえて一瞬気を取られると、意外と早く指を解放される。


「あ。はなした…。って、パ~ズ~~!!」


 捕まえて仕返しのくすぐりの刑をと画策するが、振り向いた時にはもういなかった…。

 パズがハイスペックボディを無駄に駆使して逃走を成功させていたのだ。


(くそぉ~。オレと違ってもうかなり新しい体を使いこなしてるなぁ~)


 遠くで勝ち誇った顔でこっちを見ているパズに恨めしい視線を送っていると、またクスクスと笑い声が聞こえる。


「ユウトさんとパズくんは本当に仲が良いんですね~」

「いやぁ。付き合い長いので」


 少し恥ずかしくなり苦笑いしながらそう答えるが、内心では、


(さっきまでのちょっと尊敬してる風の視線は何処へ…)


 と、少しがっかりしたのは内緒の話だった。

 ~


「でも困りましたね。オズバンさんはまだ安静が必要そうですし、これだけの数の盗賊をどう扱ったらいいのか…」


 この国では盗賊は死罪もしくは犯罪奴隷という事が決められていた。

 そして盗賊を捕まえて連行するのが難しい時は殺すのが認められている。

 しかし、だからと言ってこの国の慣習にならって盗賊を殺す事など、今のオレには出来ない相談だった。


「ここから街道を3時間ほど東に向かったところまで行ければ街道守備隊の『守りの家』があるのですが…」


 と、バッカムさんが言ったのだがオレにはその『守りの家』が何かがわからない。

 少なくとも大昔の知識かくかくしかじかにはなかった。


「守りの家?ってなんです?」


 と、素直に聞いてみると、


「あ~ユウトさんの国にはないのですね。この国『パタ王国』では街道に一定間隔で『守りの家』という街道守備隊の詰め所が設置されているんですよ」


 とリリルが割り込んで説明してくれた。


「へ~そういうものがあるんですね。まったく知りませんでした」

(この国『パタ王国』って言うのか…。オレほんとにまだ何もわかってないな)


 そう思うとちょっと不安な気持ちを感じ、少し寂しくなってくるものがあった。


「「あの!」」


 同時に話し始めてしまったオレとリリル。


「ごめん!リリルからどうぞ」

「い、いえ!ユウトさんからどうぞ」


 とお互い譲り合うが、何度も譲ってくるリリル。


「じゃぁ、、えっと、、リリル。バッカムさん。もし良かったらですが、こいつら連行するのを手伝うのでしばらくこのキャラバンに同行させて頂けませんか?」


 オレはまだこの世界のこと、この国のこと、今の一般常識などまだわからない事が多すぎる。

 ここで出会ったのも縁だと思い、できればしばらく同行させてもらって色々教えて欲しいと思ったのだ。


「オレはまだ大陸やこの国の事とか知らない事だらけなので、ご迷惑でなければ道すがら色々教えて頂きたいのです」


 すると、リリルの顔がパーッと明るくなる。

 バッカムさんも驚いた様子だったが、


「ユウトさん。それはこちらからお願いしたいぐらいです。いえ。実際に依頼として正式にお願いできないでしょうか?」


 と、言ってきた。


「ありがとうございます!でも、依頼とはどういうことですか?」

「あれ?ユウトさんってあんな強いのに冒険者じゃないんですか?それともユウトさんの国には冒険者ギルドはないんです?」


 と、リリルが逆に聞いてくるが、その質問でバッカムさんの言いたいことがわかった。


「あぁ~。依頼とは護衛依頼ということか。(たぶん…)冒険者ギルドならあるんだけど、オレはまだ冒険者ってわけではないのでピンとこなかったよ」


 そして冒険者の仕組みに詳しくないことを伝えると、リリルが任せてとばかりに一気に色々教えてくれた。

 ~

 冒険者になるには街などにある冒険者ギルドに行けば登録をしてもらえるのだが、最初は必ず見習いからはじめる事になるそうだ。

 まず、冒険者ギルドのランク制度についてはオズバンさんに軽く教えてもらっていたが、もう少し詳しく教えてくれた。


 『冒険者見習い』一人で依頼を受けることはできず、メンター制度によってベテラン冒険者の依頼に同行する形でのみ依頼を受けれる。

 『アイアンランク』一般的な冒険者。駆け出しから冒険者になって数年ぐらいの人が多い。

 『ブロンズランク』ベテラン冒険者。普通の冒険者はこのランク。生涯をブロンズランクで終える人が多い。

 『シルバーランク』一流の冒険者。冒険者全体の1割もおらず、一つの街に10人前後しかいない。

 『ゴールドランク』超一流の冒険者。街に2~3人ぐらいしかいないトップ冒険者。

 『プラチナランク』規格外の冒険者。人外の能力を有しているらしい。一つの国に1~3人ぐらいしかおらず、大きな国でも10人もいない。

(人外の冒険者ってどんな人なのか気になる!いつか会ってみたい!)


 数については国や街によって多少の違いはあるが概ねこんな感じらしい。

 ちなみにメンター制度とは、ブロンズランク以上の冒険者の有志に教育をしてもらう制度だ。


 依頼の種類は、各種護衛、素材収集、街道守備、魔物の討伐、各国の王都にある迷宮の探索など多肢にわたる。

 ほとんどの依頼には戦闘などの危険が絡む危険な職業であり、毎年かなりの数の人が亡くなっている。


 冒険者ギルドは本来は国を超えた機関であるのだが、実際には国ごとに独立して運営されており、他国のギルドとの交流は薄いらしいことなどを教えてもらった。


 そして今リリルとオズバンさんは、顔見知りのバッカムさんから長期の護衛依頼を受けている最中だそうだ。


「詳しい説明ありがとう。リリル。オレも頑張ったら冒険者になる事ってできるかな?」


 そのまま使えるかは別として、金貨などいくらかの手持ちはあるが働かざる者食うべからずである。


(それに…。護衛とかなんだか父さんの仕事みたいだ…)


 パズにも「どう思う?」と聞こうとするが、まだオレのくすぐりの刑を警戒しているのか、こっちを見て遠くで尻尾をふっていたのだった…。

 ~


「それでいかがですか?依頼を受けて頂けませんか?冒険者になるおつもりならこちらの二人はブロンズランクな上、メンターの資格も持っていますし、次の街に付いたらさっそく冒険者登録してみては?」


 と、改めて聞いてきてくれる。

 本当にいいのですか?と確認するが二人ともその方が助かると言ってくれたので、思い切ってお願いすることにする。


「じゃぁ、バッカムさん、リリル。お言葉に甘えさせて頂きます。これからしばらくの間よろしくお願いします!」

「「こちらこそお願いします(ね!)」」


 ~

 こうしてオレとパズは、異世界レムリアスでの本当の冒険の旅を始めるのだった。

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