【第11話:謝罪と感謝】
「くそ!くそー!お前らいったい何なんだ!?」
喚き散らすギムには、もうさっきまでの余裕は完全に消え失せていた。
しかし、一見もう残りは消化試合のような状況でオレは内心焦っていた。
(なんとか気づかれないようにしないと…)
~
少しずつゆっくりと近づいていくオレ。そして同じ距離だけ後ずさるギム。
(よし!このままそっちに移動させれれば!)
そう思った時だった。
ギムがあることを喚きだす。
「やっと!やっと気に食わないオズバンを殺してリリルも手に入れれる所だったのに!」
その叫び声に、涙を堪え、憤り、怒りをあらわにするリリル。
「ギムさん!あなただけは、あなただけは許さない!」
バッカムさんの腕を振りほどき、置いていた杖を拾って構える。
「ひぃ!」
と、のけ反るギムはもう終わったと思っただろう。
しかし、リリルの視界にオズバンさんが入ってしまった時、
「お兄ちゃん!?まだ息がある!」
と叫んでしまう。
そう。オズバンさんはまだ命をつなぎとめていたのだ。
(しまった!?ギムにばれた!!)
そう思ってあわてて走り出すが、ギムはまだオズバンさんのすぐそばにいたのだった。
~
「ククククッ!まだ俺様にも運があったようだ!」
ギムはオズバンさんの所にいち早く辿り着くと、オズバンさんの頭を踏みつけて、
「おら、スト~ップ!動くなよ~!武器や杖を捨てろ!変異種!おまえも動くな!」
と、脅してくる。
ヘタなことをされると状況が悪化するので、オレは大人しくスティックを捨てる。
しかし、焦っているリリルは近寄ろうとしてしまう。
「あぁ!お兄ちゃん!」
制止をきかずに近づこうとしたリリルだったが、ギムが今度はオズバンさんの刺された背中を踏みしめるとあわてて立ち止まって懇願する。
「やめて!お願い!」
そして兄の命のために思わずそう叫ぶ。
「何でもいう事きくから!」
すると、ギムはニヤニヤしながら勝ち誇ったようにリリルに命令するのだった。
「杖を捨てて両手を頭の上で組んでこっちにこい!!」
~
その間、オレはパズからの合図を待っていた。
実は、権能を起動している間はオレとパズは離れていても意思疎通ができるようになっていた。
最初オレ達が盗賊たちに向かって駆け出さず、ゆっくり歩いて向かったのはパズに治癒魔法を使ってもらっていたからだ。
オレは『見極める者』でオズバンさんにまだ息があるのに気付くと、すぐさま傷の状況を把握。
戦闘完了を待ってからじゃ手遅れになるのがわかった為、こっそりとパズに水属性治癒魔法をかけてもらっていた。
水属性の治癒魔法は聖属性の治癒魔法とは違い、自然治癒を活性化させたり、血液を補ったりするぐらいしか出来ないので結構治療に時間がかかる。 ※かくかくしかじかによる知識です
そのためパズの治癒魔法はずっとかけ続けてもらっており、それが完了する合図を待っていたのだ。
~
そして待ちに待った合図がようやくパズから届くと、オレは一気に距離を詰める。
「くそ!止まれ!こいつがどうなっても…なっ!?」
人質でオレを制止しようとしたギムだったが、急に地響きがしたかと思うと足元にはオズバンの姿は無かった。
パズの地殻変動の魔法で強引にギムを持ち上げて距離を取らせると、オズバンさんとの間に
「ガキがー!殺してやる!」
もう人質が取れないのがわかると、やけくそになったギムはオレに短剣で切りかかってきた。
素手だったオレは一瞬緊張するが、落ち着いて短剣の袈裟切りを半身で躱す。
続く突き出してきた短剣はその持ち手をパリィのように払い、同時に反対の拳でフックして前腕部を殴りつけた。
実践では初めてだったが、なんとかジークンドーのナイフトラッピングを成功させる。
痛みで短剣を落としたギムの右手を掴んだオレは、手前に引っ張りギムのバランスを崩す。
最後に、ふらついてさがった頭を掴むと顔面に綺麗に膝をヒットさせて意識を刈り取ったのだった。
~
「ふぅ~~」
と、オレがその場にへたり込むと、
「ばぅばぅ」
パズも疲れたねと気持ちを伝えてきた。
ただ、まだ終われないと気を引き締め、
「リリル!オズバンさんにはもう治癒魔法かけ終わってるけど、まだ安静にしないとだからね!」
と、治療が終わっている事を伝えて注意を促す。
「え!?そんな!いつの間に治療まで!?」
目を見開き驚いていたリリルだったが、
「ユウトさん、パズくん。ありがとう!!」
と頭をさげると、オズバンさんの元に駆けていった。
~
その後、オレとパズ、バッカムさんの3人で手分けして盗賊を全員縛り上げると、御者のおじさんを丁重に埋葬してあげる。
後でわかった事なのだが、おじさんはギムが報酬と引き換えに連れてきた奴隷だったらしい。
この世界に奴隷制度があることにショックを受ける。
そして奴隷だからと言って日本人だったオレには人ひとりの命に違いはなく、悲しい気持ちに包まれるのだった。
~
「ユウトさん。このたびは我々の受けた襲撃に巻き込んでしまい申し訳ございません。そしてあなたのおかげで命拾いさせて頂きました。本当にありがとうございます」
真剣な顔でバッカムさんが深く深く頭をさげる。
「確かに巻き込まれたのかも知れませんが、オレもパズも自分の意志でやった事ですので気にしないでください」
というと、パズも続けて「ばう!」と吠えた。
「パズも気にするなと言っていますよ?」
笑いながらそう伝えると、バッカムさんは今度は笑顔でもう一度頭をさげるのだった。
~
ようやくひと段落すると、オズバンさんの所にみんなで集まる。
「オズバンさんの具合はどう?」
心配そうにしていたリリルだったが、まだちゃんとお礼もしていなかった事に気付いて慌てて立ち上がる。
「ユウトさん!助けて頂いて本当にありがとうございます!」
と、地面に頭をぶつけるんじゃないかと心配になるほどの角度でお辞儀をしてお礼を伝えてきた。
「いいからいいから。それでオズバンさんの具合はどう?」
真っ直ぐな性格に好感を覚えながらもう一度聞いてみる。
「す、すみません!まだ意識は戻りませんが、傷口は完全に塞がっていますし、呼吸も安定しているので安静にしていれば大丈夫だと思います!」
本当に治癒魔法までかけてたんですねと驚きながら、また力いっぱいお辞儀をして答えるのだった。
しかし、リリルをこうやって近くで見るとやっぱり凄い美少女だ。
透き通るような白い肌に薄い赤の瞳。
落ち着いた色合いの赤髪を肩までの長さで切りそろえ、短めのツインテールをしている。
まだまだ幼さの残る顔立ちだが、きりっとあがった目じりは将来すごい美人になるのは間違いないだろう。
服装はオレと同じくローブ姿だが、モスグリーンの生地にはちょっとしたレースやフリルがついていて凄く女の子らしかった。
そんな女の子が
「ユウトさん魔法使いかと思ってたら物凄い体捌きで盗賊やっつけちゃうからびっくりしました!」
と、頬をほんのり赤く上気させ、身を乗り出して話しかけてくるのだ。
(ち、近いよ!?)
女の子に対する免疫の低いオレは思わずきょどってしまい、
「い、いや!は、はじめたの実践だったし、た、大したことないよ?!な、な!パズ!」
と、パズに同意を求めて頭を撫でてごまかす。
すると、パズはじーーーっと冷めた視線を送ったかと思うと、
「かぷ!」
と、指に噛みつくのだった。
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