【第10話:憧れと熱い何か】

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 小学生の頃、オレは人を守る仕事に就きたいと思っていた。

 SPセキュリティポリスの父さんは、いつだってオレの自慢で憧れの英雄ヒーローだった。

 武術バカの父さんとの練習は本当にきつくて大嫌いだったけど、いつかは父さんみたいに人を守る仕事に就きたくて必死に耐えていた。

 ある日、来日した某大統領のニュースが流れた時、偶然映りこんでいた父さんを見つけて喜んだな。

 後頭部だけだったのにね。

 そしてオレもいつか警察官になって同じ仕事に就くのだと当たり前のように思っていた。

 でも、、、当たり前だと思っていたその未来は永遠に訪れなかった。


 中学生になったある日、家から電話がかかってきて職員室に呼び出された。

 父さんが亡くなったという母さんからの電話だった。

 なんで!と泣きじゃくるオレに、交通事故で亡くなったのだと母さんは言った。

 だけど、、すぐに嘘だとわかった。


 『2階級特進』


 ただ、、、母さんが交通事故というのでそういう事にしておいた。


 その日、武術をやめた。

 その日、警察官になる夢も捨てた。

 その日を境に何かが、オレの中にあった熱い何かがどこかに行ってしまった。

 ~~~~~


 昔の記憶が、想いが、一瞬で駆け抜けていった。

 そして、あの時消えた熱い何かがまた戻ってきた気がした。

 実際には別のものなのはわかっているのだが、確かにそう感じたのだ。


「パズ。オレ、なんか今なら何でもできそうだ」

「ばう!」


 パズもらしいと苦笑い。

 お互いなんか少し照れくさくなって笑みをこぼす。

 そう。オレ達はこんな状態なのに酷く落ち着いていた。


 その姿を見て、ギムが気でも狂ったのかとからかってくる。


「坊主!頭でもおかしくなったんじゃないか?ククククッ」


 つられるように仲間の盗賊たちも一斉に笑い出す。


「グワァッハハハ。哀れだなぁ!それになんだ~?そのちっちぇ~のは?坊主のお友達か~?」


 そのうちの一人がパズを見てゲラゲラ笑いながら問いかけてくる。


「よくわかりましたね。オレの親友で相棒のパズって言うんですよ」


 オレは真面目に答えてやる。

 すると、癪に障ったのか


「くそ坊主!おちょくってるのかー!」

「ガキー!これから殺されるって立場がわかってるのか!」

「そのちっちぇーのから射殺してやる!」


 など、いきり立つ盗賊たち。その数はギムを入れて9人。

 普通に考えれば勝てるわけがない。

 ちっさなチワワが。平凡な日本人が。

 この過酷な世界で盗賊やってるようなやからに勝てるわけがないのだ。


 普通ならば。


 さっきから感じる熱い何かのおかげでわかるのだ。

 『パズなら大丈夫』と。

 『オレならこんな奴ら問題ない』とわかるのだ。

 そう。理屈ではなくわかるのだ。


【権能:見極める者】

『あらゆる物、人、力、事象、大局。全てを見極める力』


 こいつが『こんな奴ら問題ない』と言っている。

 そしてパズが大丈夫な理由を問いかける。


「おまえもセリミナ様のスキルスロット回したんだなぁ」


 と、思い出しながら苦笑いする。


【権能:永久凍土】

『水・氷・土系統の特定魔法を完全行使する力』


 パズもまた特別な力を手に入れていたのだった。

 ~


「魔物は退治しねーとなぁー!死ねやー!」


 盗賊の中の二人が弓を持っており、叫ぶと同時に矢を放ってくる。

 中々良い腕のようで狙いたがわずオレとパズに向かって飛んでくる。

 しかし、パズが小さく「ばぅ!」と一声発すると、地面から逆向きに生えた2本のツララに阻まれる。

 ガキン!

 そしてはじかれた矢が地面に落ちるよりも早く反撃にうつる。

 パズが首を左右に振ると2つの氷の塊が空中に出現し、弓を持った盗賊に向かって矢よりも早く飛んでいく。

 ドムッ!

 鈍い音を響かせ、その二人の盗賊は地面に倒れ伏したのだった。

 ~

 一瞬の出来事に、他の盗賊たちは何が起こったのかまだ理解出来ていなかった。

 あわてて振り向くと仲間二人が体を半分凍らせて倒れていたのだ。


「なんだこりゃ…」


 そう呟いた盗賊は、次の瞬間には自分も隣に倒れ伏すことになる。


「お裾分けです」


 オレは一瞬で盗賊たちまで駆け寄ると、セリミナ様にプレゼントしてもらったスティックで鳩尾に右突きをプレゼントする。

 そして右手を引く時に、クロスしていた左スティックを切りはらって顔面を殴打して一人目を殴り倒す。

 続いて横の盗賊に、切り替えして振り上げておいた右スティックを手首を中心に円運動させて左右同時に両こめかみに叩き込んで昏倒させた。

 一瞬で二人を倒したオレは、叩き込んだスティックが戻ってくる反動を使ってその場で屈みながら一回転。

 切りかかってきた盗賊のシミターをしゃがんで躱す。

 そして余らして握っている右スティックの柄の部分で、踵を掬い上げ、左スティックの柄で胸を殴って転倒させる。

 胸と後頭部をの痛みで悶絶している盗賊に、とどめの右スティックを叩き込んでやった。

 わずか数秒の出来事だった。

 ~


「能力抜きでやってみたけど、思いのほかちゃんと動けたな」


 オレがそう呟くと、あっけにとられていた残りの4人の盗賊たちが一斉に距離をとる。


「な、なんなんだおまえはー!」


 と、騒ぐ盗賊たち。

 ようやく反撃するべく行動を起こすが、、、それは悪手だ。

 オレに注意を向けた瞬間、3人の背中に氷の塊が叩き込まれて戦闘不能に陥るのだった。


「パズ! GJぐっじょぶ!」


 パズを軽く褒めてやると、最後の一人になった盗賊に話しかける。


「仲間にはみんなご退場してもらった。あとはギム。お前だけだよ」


 青ざめた顔のギムに向かってそう告げたのだった。

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