【第9話:理不尽な死】

 強面お兄さんの質問に硬直する一人と一匹。

 ※パズはなんとなくやばそうな雰囲気にのまれて…


(うあぁ!鎖国とかありかよ!)


 と、理不尽な展開に泣きそうになりながらも必死に考える。


(考えろ~!考えろ~!早く~!良し!これでいこう!)


 そして冷や汗を隠しながらも平静を装ってこうこたえた。


「そう!交易が途絶えているので正規の手段で大陸に渡ることができず、密漁船に乗せてもらったのです!」

(あ!密漁船とかこの世界にあるのか!?)


 と、内心絶叫するが、


「ほう。密漁船に乗ってでも大陸に来たかったのか」

(密漁船あった!今だけは密漁師さんGJ)


 どうやらこの世界にも密漁船があるようだった。


「はい。大陸を旅するのが夢だったので密漁船に頼み込んで乗せてもらい、何もない沿岸部でおろしてもらいました」


 こうしてなんとか最初の窮地を切り抜けたのだった。

 ~

 その後、なんとか誤解は解けたのだが、今度は強面お兄さんの興味を引いたようでキャラバンの昼休憩に誘われていた。


「では何か、ユウトは世界を知りたいという理由だけで一人大陸にやってきて、危険な旅をしていると。その小さな従魔一匹だけを連れて?」


 などと、質問攻めにあっていた。

 オレに興味津々のこの強面お兄さんは、名を「オズバン」という。

 180cmちょっとはありそうな身長に、短髪で筋骨隆々のいかにも冒険者っぽい風貌をしている。

 冒険者ランクはブロンズで、この世界では一般的なベテラン冒険者をさすランクらしい。

 このランク制度とは、冒険者の実力を定量的に示す為に冒険者ギルドが設けている制度で、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアン、見習いの6段階がもうけられていた。

 千年前の知識でも似たような制度はあったのだが、名称も違い、ランクも10段階だったので、時代と共に変化したのだろう。


「この従魔はパズって言います。出会ってもう10年以上になるんですよ」


 するとオズバンさんの妹で魔法使いの「リリル」が驚き質問してくる。


「え!?その従魔もう10歳以上になるの!?まだ子供なのかと思いました!」


 この世界にも犬はいるが小さいのでもシベリアンハスキーぐらいの大きさで、チワワみたいな小さい犬種は存在しない。

 犬がいるなら犬の固有種で通した方が疑われないのだろうが、パズもどうやらハイスペックボディらしいので最初から魔物という事にしておいた。


「パズはこれ以上大きくならないよ。島の固有種の中でもかなりの希少種だから、大陸の人はまず知らないと思う」


 と、鎖国状態を有効利用させていただく。

 ちなみにリリルはオレと同じくローブを着ており、かなり将来有望の魔法使いらしい。

 腰には1mほどの杖のようなものをつけていて、16歳になったばかりなのに兄と同じブロンズランクの冒険者だ。

 なんで知っているかというと、オズバンさんが年の離れた優秀な妹のことを自慢げにいっぱい話してくれたので…。

 リリルの方はまた始まったと終始困り顔だったが、かなりの美少女なのでオレも結構興味津々に聞いていたのは内緒だ。

 今のオレからしたら同じぐらいの年の女の子という事になるので、ドキドキするのも仕方ないのです。はい。

 ちなみに魔法使いは、杖か指輪などのアクセサリを媒体にして体内の魔力を使って魔法を行使するらしく、オレも魔法使いと思われている。


「しかし、それで成体だとすると旅に連れ歩くのは危険ではないですか?」


 と、今度はこのキャラバンの主である「バッカム」さんが話しかけてくる。

 バッカムさんは50代ぐらいの恰幅の良い商人さんだ。

 結構手広く商売をされていて、今いるこの国だけでなく隣りの国にも商品を仕入れに行っているらしい。


「いえいえ。感覚が鋭いですし、こう見えて結構助けられているんですよ」


 さっき凄い遠くにいるこのキャラバンを発見したのでこれは事実だろう。

 するとパズが見るからに自慢げに、そしてふてぶてしく吠えてくる。


「ばうぅうぅ。…ばう!」


 警戒だけでなく戦闘も任せておけと伝えてきたので笑って流そうとすると、直後に警戒しろと訴えてきたのだった。

 ~


「なに?だれかが森に潜んで近づいてきているから警戒しろ?」


 パズに教えてもらってなければオレも気づかなかっただろう。

 気配を殺して徐々に近づいてきている者が何人かいる。

 しかし、オズバンさんやキャラバンの他の人たちにはわからないらしく、あったばかりのオレの言う事を中々信じてくれない。


「本当です!あの森の茂みあたり。そうです!そこにあやしい人たちが潜んでこちらの様子を窺っているんですよ!」


 必死に説明するのだが、200mほど離れた所に潜んでいる人の気配はわかってもらえなかった。


「そう言われてもなぁ。オイ!ギム!ちょっと念のために様子を見てきてくれ!」


 と、冒険者の中で短剣と弓を使う斥候担当の仲間に指示をだしてしまう。

 オレは何とか引き留めようと


「ダメです!ギムさん一人では危険です!」


 と、説得を試みる。

 しかし、警告を聞かずに歩き出したギムさんは、


「仕方ねぇなぁ。坊主のせいで余計な仕事が出来ちまったじゃねぇか」


 と言って短剣をオズバンさんの背中に突き刺した。


「え?」


 ギムさんに話しかけていたオレは何が起こったのか理解できなかった。


「心配かけて悪かったな~坊主~」


 と、下卑た笑いをしだしたギムさんが


「クククククッ。お前ら出てこい!!」


 と叫ぶと、茂みから盗賊と思われる集団が飛び出してくる。

 そしてナイフをひねってから引き抜いたギムさんの後ろには、血まみれのオズバンさんが倒れていた。

 ~

 兄の身に起こった事が理解できずに、リリルが「うそ…」とつぶやいている。

 あまりの出来事にバッカムさんは恐怖で動けなくなっており、まだ名前も聞いていなかった御者のおじさんは、、、既に盗賊から放たれた弓矢で亡くなっていた。

 そしてオレも、、、いや。オレはすぐに目の前の理不尽な死を受け止めていた。

 きっとつい数時間前に自分とパズが理不尽に殺されるという経験をしたばかりだったからだろう。

 すぐに思考停止から意識を取り戻すと、


「裏切りだ!みんなギムさんから離れるんだ!」


 と、叫んで警戒をうながしたのだった。

 ~

 バッカムさんが何とか正気を取り戻し、リリルを連れて逃げようとしたのだが、リリルは状況が飲み込めた事で逆に正気を失ったように叫びだす。


「うぁーーー!お兄ちゃん!!」


 ギムさん、、いや、ギムが近くにいるのも目に入らず、倒れたオズバンさんの元に駆け寄ろうとする。


(もう完全に敵の罠にはまってしまっている…くそ!もう逃げることもできそうにないぞ!)


 どうすればいい!?と焦るばかりでうまく考えが纏まらない。


 その時だった。


 どこかで見た光景。

 小さな影がオレの前に滑り込んでくる。


「ばう!ばうわう!」


 パズの鳴き声と共に、今度こそユウトは僕が守る!という強い決意、思いが伝わってくる。

 その強い思いを受け取った時、オレの中の何かが変わった。

 そしてさっきまで焦っていた気持ちが嘘のように静まり、それでいて熱い何かが湧き上がってくる。


「パズ…それはオレの仕事だ。理不尽な死なんて無くさなきゃダメなんだ!」


 二本のスティックを引き抜き、叫び、決意する。

 そして一人と一匹は、盗賊達の元に歩みだしたのだった。

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