【第8話:邂逅】

 鞘からナイフを取り出してみたものの、見た目は刃渡り25cmぐらいの普通のナイフだった。

 太陽に透かしてみたり、色々観察してみるがおかしなところは見当たらない。

 それならばと落ちてた木の枝を試しに削ってみるが、これもまた普通の切れ味。

 その後もしばらく色々やってみるが何も変わったところは発見できなかった。


「う~ん。セリミナ様が持たせてくれた物すべてがマジックアイテムというわけでもないのかな?」


 そう思って諦めて鞘に戻し、ナイフをリュックに入れようとした時に気付いた。

 そして思わずツッコミをいれてしまう。


「って、鞘の方かよ!」


 そう。マジックアイテムは鞘の方だったのだ。

 ~

 眩しいほどの陽光のもとで確認していたので今まで気付かなかったが、鞘に描かれた模様がほんのり光っているのだ。

 自分の体と鞄で日差しをふせいでみるとそこそこ光っているのがよくわかる。


「ライト代わりに使えるしこれも旅では便利そうだ。」

「あ。鞘に紐を通せるようになってるし、ランタンみたいに吊るすこともできるな」


 三つめのマジックアイテムの登場にウキウキしていると、何か横から熱い視線を感じる。

 パズがもの欲しそうにじーーーーと見ている。

 あわててオレは、


「これはおもちゃじゃないからな!絶対これ咥えて遊んじゃダメだから!」


 と、念入りに注意しておくのだった。

 ~

 とりあえずナイフの事は調べ終わったので、次は木彫りの人形をと思った時だった。


「うぅ~!ばうわう!!」


 と、パズが突然吠えた。

 何かがこちらに向かってくることを警告してくれたみたいだ。

 よく見るとオレ達が向かっている街道の先から何かが来るようなのだが、豆粒みたいでまだ何かまではわからない。

 転生前のオレだったら、恐らくこの距離は豆粒どころか点も見えなかっただろう。

 自分の視力が物凄く良くなっているのにちょっと驚くが、そんな距離にいたのに気付いたパズにさらに驚いたのだった。

 ~

 休憩中で元々街道脇の木陰にいたので、そのまま気づかれないように一旦身を隠す。


(魔物ではなさそうだ。あの形は荷馬車かな?商人でも乗っていそうだな)


 例の「かくかくしかじか」で得た知識の中から馬車の種類を特定する。


「さぁ、第一異世界人だいいちいせかいびと発見ってやつだ!」


 と、某番組を思い出しながら呟いてから気づいた。


(あ。女神さまと普通に話せてたから忘れていたけど、オレ言葉通じるんだろうか…)


 一応得た知識の中では文字も読めたし、普通に言葉も理解できてたのだが、何せもらった知識は千年前のものだ。

 かといって人と交流しないと生きていけないのは明らかなので、覚悟を決めて話しかけることに決めるのだった。

 そして話しかけることに決めたなら、まずは作戦を練らないといけない。

 でないと「あなたは何者ですか?」って聞かれただけでしどろもどろになって怪しい奴認定間違いなしだ。

 そしてハタと気づいて、じーーーっとパズを見つめる。


「ばぅ?」

「パズをなんて説明すればいいのかまったく思いつかないんだが…」


 ~

 とりあえず色々悩みつつも接触まであまり時間もないので次のように決めてみた。

 まず、オレの設定はレムリアス大陸の東にある島国の出身で、先日船で大陸に来たばかりという事にする。

 そして苗字持ちの扱いがわからないのでこの世界では「ユウト」とだけ名乗ることにした。

 あとは問題のパズの設定は、グレーハウンドの亜種の島国固有種で、飼いならしている従魔という事にした。

 「グレーハウンド」とは、頂いた知識の中にあった1.5mほどの狼の魔物の事だ。

 そして「従魔」とは、人に従えられている魔物の総称だ。

 昔の凄い人はドラゴンを従えていた人もいたようだが、普通はグレーハウンドのような狼系の魔物が多いらしい。

 千年前の知識だけどね…。

 まぁどうせ言葉が通じるかもわからない賭けのような状態だし、なるようになれと開き直る。

 そしてここで待ってて待ち伏せしている盗賊かと勘違いされても困るので、休憩を終えて気づかれる前に歩き出すのだった。

 ~

 10分ほど歩くと馬車の姿がハッキリと見えてくる。

 2頭引きの馬車には、御者をしている者と隣に座っている者とあわせて2名。

 そして更に、馬車の周りには護衛をしていると思われる冒険者風の人影が3名見える。


「いいかパズ。たぶん大丈夫だと思うが、もし危なくなったら全力で森の方に逃げるぞ」


 わかったと短く返事するパズと更に5分ほど歩くと、とうとう馬車の目の前にまでやってきた。


「こんにちはー!少しお話を伺いたいのですがよろしいですか~?」


 と、思い切って話しかける。

 すると、護衛していた中のリーダー風の強面お兄さんが、


「なんだ!あやしい魔物をつれて何者だ!」


 と、腰の剣に手をかけながら誰何してくる。

 いきなりの喧嘩腰に少しビビりながらも、言葉が通じたー!と内心ちょっと小躍りする。

 そして心を落ち着かせてから


「あやしいものではありません。私は大陸の東にある島国から先日船でやってきた『ユウト』というものです」


 とこたえ、さらにパズを指さして、


「この小さな魔物は私の従魔で、グレーハウンドの亜種で島の固有種です」


 と、用意していた設定を出来るだけ自然にこたえた。

 内心完璧だ!と思っていたのだが、次の質問にいきなり設定が破綻はたんする。


「東の島国とは珍しいな。どこの港町からきたんだ?もう30年ほど前から交易も途絶えていたかと思うのだが?」

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