【第2話:神秘の祠】

 パズも何か感じ取ったのか祠が気になるようで真剣な目つきで見つめている。


「これ、何だろうな?」


 少し近づいてみると崩れかけているようにみえた祠は、周りに草木がまとわりついているだけで傷一つ無かった。


「凄いな。すごく古そうなのに傷一つないみたいだ」


 見た目は1m四方で高さが2mぐらいの小さな祠。

 しかし、何かわからないが厳かな雰囲気を纏っているように感じる。


「あれ?こんな所にくさびみたいなものが打ち込まれてる」


 観音開きの扉の隙間に、こじ開けようとするように楔のようなものが打ち込まれていた。

 何がささっているのかと近づいて観察しようとすると、


 ≪それをひきぬいてくれませんか?≫


「え!?だ、だれ!?」


 あわてて振り向いてみるが誰もいない。

 周りを見渡してみても誰も見当たらず、聞き間違いだろうと自分を納得させる。


「な、なんか少し怖いな…」


 ちょっと怖くなってきて、そのまま立ち去ろうとした時だった。

 パズが抱っこしていた腕をかいくぐって楔に向かってダイブする。


 パクッ!


「うわ!何するねん!」


 思わず出たエセ関西弁はおいておいいて、パズが楔に噛みついた。


「ぶ~~~ばぶぶぶ」


 変な鳴き声をしながら放すものかと必死で噛みついている。


「パズ!ちょっ!何してんだ!バチでも当たったらどうするんだよ!」


 しかし、こんな時もスッポンのごとく放さないパズ。

 いつもの仲の良いケンカが始まりかけたその時、


 スポン!!


 っと楔が引き抜けた。


「「うわ!(ばう!)」」


 あっさり引き抜けたことに驚いて、パズは咥えていた楔を放してしまう。

 すると、楔はその存在が幻だったかのように黒いもやとなって消え去ったのだった。

 何が起こったのかわからず呆然としていると、


≪たびのおかた、ありがとうございました≫


 再び聞こえる不思議な声。


「いえいえ。どういたしまし…」


 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。


「「でたーーーー!(ばふーー!)」」


 そのままその場を走り去るのだった。

 ~


「な、何だったんだ!」

「ばうばう!」


 ようやく林道まで戻ってきたオレ(とパズ)は、そこで一息つけて呼吸を整えていた。


(さっきの何だったんだろうな…)


 このあと第三の秘湯に行くか一瞬考えるが、結局うすら寒くなって宿まで戻ることにしたのだった。

 ~

 その後は変わったことは特に何もなく、無事に宿まで戻ってくる。


「あ~。なんかちょっと怖かったけどドキドキして楽しかったな~」

「ばう!」


 同意を求めるとパズも楽しかったようで一吠え返事をしてくれる。

 パズと目で会話したあと、ふと見上げるともう夕焼けができていた。


「山はやっぱり日が暮れるの早いなぁ。三つ目の秘湯は残念だったけど、あそこで引き返してちょうどよかったかもなぁ」


 時間などは予定通りに進んでいたのだがもう日が落ちそうになっており、その日はそのまま宿に戻ってゆっくり過ごす。

 いろいろあった一日だったけど、結果楽しかったなぁと思い返しつつその日は眠りについたのだった。

 ~

 翌朝、普段通りにオレとパズは朝早くに目を覚ます。

 今日で旅行は終わりなので、せっかくだからと宿の周りをパズと一緒に散歩をする。

 30cmほどのでっかいウシガエルに出会うというちょっとした事件はあったが、特に何事もなくそのまま帰途につくのだった。

 ~


「やっと帰ってこれた~。無駄に遠かったけど、やっぱり旅は楽しいしやめられないなぁ~」


 今度は約6時間かけて一人暮らしの家に帰ってきていた。

 途中30分ほどパズのお散歩休憩をはさんだりしたので、実質5時間半ぐらいかな?

 頭の中でかかった時間を計算していると、パズがキャリーバッグの中で暴れだす。


「ばうわう!ばうわう!」


 ガリガリガリ!とキャリーバッグをひっかきだす。


「あぁ!ごめんって!すぐ出すからガリガリするなー!」


 気に入らないとすぐキャリーバッグをガリガリするので、このバッグですでに6個目になる。

 パズが飛び出た後、バッグのネット部分が破れていないのを確認してほっと一安心。


「もうネット破れても新しいの買わないからな!」

「ばう!」


 わかってるのかわかってないのか一吠えするとふてぶてしく歩いて定位置のソファの上に鎮座するパズ。


「そこホントはオレの席なんだけどな…」


 と、あきらめのため息をつくのだった。

 ~

 ふと気づくと寝てしまっていたようで、もう部屋の中は真っ暗になっていた。


「ふぁぁ。いつの間にか寝てしまっていたな。今何時だろう?」


 部屋の明かりをつけつつ壁にかかっている仕掛け時計に目をやる。

 ちなみにこの仕掛け時計は、とあるペットショップで売ってたハトのかわりに犬(ブルドッグ)が飛び出る犬時計?だ。


「もう夜中の1時じゃん…。下のコンビニに飯でも買いに行くか」


 ~

 マンションの1階に入っているコンビニで弁当と酎ハイを買って帰ってくる。

 するとようやく起きたうちのお犬様が出迎えてくれた。


「ばぅ」


 そして寝た…。

 まぁ「おかえり」って出迎えてくれただけでも良しとしておこう…。

 ~

 弁当を食べ終わり、酎ハイをちびちびしながら旅の途中で撮った写真を眺めて小さな幸せを噛みしめる。

 おっさんぽいとかいう意見は却下だ。

 こういう旅を振り返ってちびちびする時間が幸せなんだよな~と、ほっこりする。

 その時、部屋の片隅から何か違和感のようなものを感じた気がした。


「ん?なんだろうな?」


 怪しいお土産コレクションのコーナーから、何か気配のようなものを感じたので近寄ってみてみるが特に何も見つけられない。


「あ。そういえば宿で買った変な人形があったな」


 思い出して宿の無人販売コーナーで買った変な人形と似てるのがないか探してみる。


「お。これだこれだ。やっぱり雰囲気似てる~」


 コーナーの右隅で見つけたその人形は、先日宿で買った人形と似た形をしていた。

 しかしその形より何より、人形の醸し出す雰囲気が似ている気がする。


「これどこで買ったんだったかなぁ?とりあえず並べて比べてみるか」


 まだ荷ほどきしていなかった旅行鞄から目的の人形を取り出す。

 無人販売コーナーで買ったので包装も何もされていない人形を取り出すと、さっそくとばかりに並べて比べてみる。


「あれ?並べると全然似てないな?」


 そうつぶやいた時だった。

 並べた人形が反発するようにはじけ飛んだのだった。

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