【旧版】パーティーメンバーは『チワワ』です☆ミ

こげ丸

第一章 旅立ち

【第1話:闇を纏いし二つの存在】

「え!?生贄って何!?ぇ!?」


 目の前で起こっていることについていけずに、オレはパニックをおこしていた。


 ≪光栄に思え。その身をわれの贄にしてやると言っているのだ≫


 ≪ぬかせ!お主に贄など不要だ!そいつはわしが喰らってやる!≫


 突然現れた得体の知れない二つの存在。

 見えているのにしっかり認識できない。


「なんだ?なんなんだこれは!?」


 闇を纏った二つの存在がゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。

 とにかく逃げようとさっきから体を動かそうとするが足が竦んで動かない。

 いや、金縛りにあったようにまったく動かなくなっていた。


(やばいやばいやばい!なんだこれなんだこれ!)


 これはダメな奴だ!と頭の中で大音量で警笛がなっている。

 すると小さな影がその得体の知れない存在との間に割り込んでくる。


「ばうわう!ばうわう!」


 愛犬のパズ(チワワ)だった。


「パズ!逃げろ!おまえだけでも!」


 懇願するように言い聞かせるように何度も何度も叫ぶが、パズはその場所を譲ろうとしない。


「ばうわう!」


 必死に吠えて守ってくれようとしていたパズだったが、一睨みされるとオレと同じく金縛りにあったようで動けなくなる。


「くぅ~ん」

(あぁぁ。パズまで!もう、もうダメなのか…)


 二つの闇を纏った存在の間で何かが激しくぶつかりあいせめぎあう。

 しかし、その存在はもう目の前にまで迫っていた。


(いったい何なんだ。なんでこんな事になったんだ…)


 ~時は少し遡って4日前~


優斗ユウト~ パズ連れてって本当に大丈夫なの~?」


 実家で明日から行く旅行の準備をしていると心配そうに母さんが話しかけてくる。

 オレの名前は紺野優斗コンノユウト

 24歳のサラリーマン。エンジニアでIT関連の仕事をしている。

 この春から一人暮らしをはじめていたんだが、今日から夏季休暇で実家に帰ってきていた。


「大丈夫だって!二人(一人と一匹)で何度もいってるんだから」


 今回の旅行は会社の夏季休暇を利用した温泉めぐり。

 もう9月も終わるのでかなり遅い夏期休暇だが温泉にはちょうどいい。

 旅が趣味なので休暇を取っては愛犬のパズ(チワワ)を連れていろんな所を訪れていた。

 予算の関係上、主に国内旅行専門だけど。。。

 まぁ海外旅行だとパズを連れていけないので国内旅行で問題ない。

 え?友達?彼女?なにそれおいしいの?


「でも、パズもいい歳になってきたんだし気を付けて行ってきてよ~」


 パズは先日11歳になったオスのチワワだ。

 家に来たのはオレが中学1年の時で、パズが生まれてまだ3か月の時。

 それからずっと一緒だ。

 今は一人暮らしをしているが、ペットOKのマンションを探して借りたので今も一緒に暮らしている。

 ただ、夏季休暇前に出張が入って実家で預かってもらっていたので、迎えに戻ってきていたのだ。

 ちなみにチョコタンのスムースだと耳がピンと立っている子が多いのだがパズは耳が垂れててかわいい。※犬バカ

 ちょっと目つきが悪くて三白眼で態度がふてぶてしいが、それもまたかわいい。※かなり犬バカ

 名前呼んでもたまに「ふん!」って無視されたり「オレにだけ」すぐ噛みついてくるけど、それもまたかわいいんだ。※重度の犬バカ

 話がそれたな…。


「それこそ大丈夫だって。パズは健康優良児だし食欲旺盛だしオレより長生きするよ!」


 小型犬はちょっとした事で体調を崩しやすいと聞くが、パズは一度も病気もケガもしたことがない。


「そうだけどぉ。今回はいっぱい歩くって言ってたでしょ?」


 今回は徒歩何時間もかかるような山の中の秘湯を巡る予定だ。

 温泉めぐりは別に趣味ってわけではないが嫌いでもない。

 たまたま見た怪しい旅ブログで紹介されていて、面白そうだからという理由なのは内緒だ。

 その後、久しぶりの家族の会話を楽しみつつ、その日は出発に備えて早めに床に就いたのだった。

 ~

 翌日の朝、始発に乗るため朝早くに起床する。

 昨日のうちに準備は終えており、軽い朝食も終えてあとはパズの準備だけとなっていた。


「パズ~!そろそろ出発するから中入って~」


 そう言ってリュック型のキャリーバッグの口を開けるとパズが飛び込んでくる。

 キャリーバッグを出すと一緒に出掛けるのがわかるのでいつも大興奮だ。

 しかし、すぐに入ってはくれるのだが興奮しているので中々しめさせてくれない。

 遊びだと思っているのかバッグのファスナーを閉めるのを全力で妨害してくる。


「ばふばふ!ばふばふ!」


 あいかわらず変な鳴き方するよな…。と思っていたら、

 キャリーバッグのファスナーを握っていた指にかみついてきた。


「かぷ!」


 そしてあいかわらず感が鋭い…。


「パズく~ん。悪かったからとりあえず指離してくれるかな~」

「・・・カジカジカジカジ・・・」


 指をカジカジしながら じーーーーっとこちらを見つめるパズ。


「・・・カジカジカジカジ・・・」


 そしてこれもあいかわらずだが咥えた指は中々はなしてくれない。


「こらスッポン!は~な~せ~っ!」


 いつものように仲良くケンカがはじまり、出発出来たのはその30分後だった。

 ~

 電車とバスを乗り継ぎ乗り換え 揺られること約4時間半。

 ようやく旅ブログに載っていた宿に到着する頃にはお昼になっていた。


「やっと着いたー!パズもお疲れ!」


 パズをキャリーバッグからだしてやるとブルブルっと頭をふって大きく伸びをした。

 しかし、写真以上に怪しい宿だ。

 築100年以上たってそうな佇まい。

 入口横には謎の無人販売お土産コーナーが設置されていて、変な人形のキーホルダーとかが並んでいる。


「こんなの誰が買うんだよ」


 とか言いながらニヤニヤしてしまう。

 そりゃぁ、もちろん買うでしょ。オレが。

 横からあきれた視線を送ってくる犬がいるような気がするが気にしない。

 オレの一番の趣味は旅行なのだが、旅先であやしいお土産を見つけてはコレクションするという趣味も持っている。

 自分の部屋の一角には展示コーナーを作って飾っているぐらいだ。


「あれ?この人形どっかで見た気がするなぁ?家に似たようなのなかったかな?」


 手に取ってみてみるとやっぱりなんだか見覚えがある気がする。


 こうして古い木を削って作られた人形はコレクションに加えるべく購入されることになった。


「似てるのあったら二つ並べて飾ってみよう。そうしよう♪」


 犬のジトッとした視線はやっぱり無視である。

 ~

 その後宿の手続きを終えると、宿の小さなお風呂(ちゃんと温泉らしい)に入り、その日はパズと一緒に散歩などしてゆっくり過ごした。

 ~

 翌朝、宿の主人に秘湯の場所を確認して朝早くに出発する。

 怪しい旅ブログによると秘湯は3か所あるらしい。

 オレは結構体力もあり旅慣れてもいるので、特に迷うこともなく2時間ほどで一つ目の秘湯に到着。

 残暑で少し滲んだ汗も綺麗さっぱりと洗い流してパズと一緒に温泉を堪能するのだった。

 ※パズは持参した桶にお湯をくんだミニ温泉です☆

 ~

 一つ目の秘湯を後にし、二つ目の秘湯も堪能。

 三つ目の秘湯に向かっている途中にちょっとした事件が起きた。

 三つ目の秘湯まで半分ぐらい来たところでパズが林道をはずれて走り出したのだ。


「おい!パズ!危ないからストップ!」


 食べ物の匂いにつられて走り出すことはよくあるが、こんな山奥で?

 そんな風に考えながら追いかけているとすぐにその答えが見つかった。


「って、やっぱり食べ物かよ!」


 パズがお座りしている前の木には、あけびの実がなっていたのだ。


「でも、あけびとか犬が食べていいかわからないからダメだぞ!」


 駄々をこねそうな雰囲気を察知したオレは、すばやくパズを抱っこして捕まえる。

 あばれるパズをなんとか抱きかかえながら元の林道に戻ろうと踵を返した。

 そしてその時、自分の目の前にくずれかけたほこらがあるのに気付くのだった。

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