御隠居

 あの激しかった戦さも去って

 太平の世の何とのんきな事か

 諸国に緊張残りしが

 戦さの起こらぬ日々の何と長閑な事よ


 かつては拙者も闇に乗じて

 この手を幾度汚した事か

 全ては太平の世を作る為

 戦さのない今へと導く為であったのに


 今はどうじゃ 世は乱れるばかり

 男供は金に狂い力に狂い

 女供は物に狂い色に狂い

 都は亡者供の巣窟じゃ


 田舎百姓は年貢に苦しみ

 寺では怪しげな御札が流行る

 これが我の目指した世の姿じゃと?


 嗚呼嘆かわしや嘆かわしや

 何故人は正直のみに生きられぬ

 犬猫とてまだまともに生きて居る


 あの富士に恥じぬ生き方をせよ

 御天道様に胸を張れる生き方を

 御地蔵様に心を向けられる優しさを


 太平の世の行き着く先はやはり混迷の戦さの日々か

 何も変わらぬ大昔からの謀

 この茶番 幕を引くはいつになりしや

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