第11話 小さな音楽家の話 1

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ。」


「そうね、アイスコーヒーをミルク入りで。」


「かしこまりました。」


僕が結婚を二人に申し込んでから1年。


3人でちゃんと経営してます。


でも、宿じゃないです。


宿は姫騎士様が一回泊まった後、やめてレストランとバーに専念することにしました。


理由は……。


ローズがせっかく夫婦になったのに宿だから夜もお客さんいるんだよね〜ってふてくされたのがきっかけです。


あとは……ね?


まあそんなこんなでやってます。


朝7時から喫茶兼レストランを営業。


バーは夜7時から2時間だけの営業です。


最近では常連さんもできたし、日本みたいに勉強していく学生さんも増えた。


みんなが思い思いに過ごせるお店にすることができたかなって思ってるんだ。


んで、いまは午後3時すぎたくらい。


近くの王立学院の生徒が帰り出す時間。


王立学園は年齢で見ると日本でいう中学校から大学までまとめたみたいなもの。初等部、中等部、高等部があってそれぞれ中学、高校、大学にあたる。でも義務教育じゃないんだよね。


毎年3月末に入試があって4月に入学する人を決めてる。その中で優秀な成績の人は特待生で授業料がタダだけど他の人は結構なお金がかかる。だから貴族や有力商人の子供が多いらしい。


いまは2月だからちょっと学生さんはピリピリしてるね。


この時間はその学院の生徒がくる稼ぎどきだ。


宿をやめて飲食店にしてからよく来るようになった。


貴族や有力商人の子供だけじゃなくそうじゃない平民の子供も来るようになった。


まあ材料は自分で調達してるものもあるから値段が安いので気軽に来れるんだと思う。


あ、でもその平民の子供が来てるのを見てきゃんきゃん吠えた貴族の勘違いしてるガキ野郎は出禁にしたっけな。


それ以来、学院の生徒間でここで過ごしたいのならば身分関係なくいなければならないっていう不文律ができたって聞いた。


ちょっとびっくり。まあ原因は他にもあるけど。まあそれはまたいつかね。


カランコロン。

ドアのベルが鳴る。


お客さんが来たみたいだ。


「リョウ!勉強教えて!」


彼女はマリア。年は僕の三つ下の15歳。学院の三年生だ。学院に通う数少ない平民のうちの一人。成績優秀で学費がタダで通ってる。


「いらっしゃい、マリア。今日は学院で部活があるんじゃなかったっけ?」


「それがさ………。



ーーーー


なんということか。彼女が成績優秀なのは皆が知っているが、彼女の所属する初等部音楽部の同級生にはもっと成績がいい貴族の人物がいる。


いや、いたというべきだろう。


学院には毎月頭に行われる定期テストがあり毎回、マリアは彼女に勝てなかった。


しかし今回は違った。最近はマリアがここに来るたびに僕が勉強を教えていた。僕が日本で習ったことだけでこちらでは高等部まで通用する。その結果、マリアの方が良かったのだ。


それが問題を引き起こした。マリアと彼女との間には何も問題なかったのだが、部活の顧問が貴族出身で平民を見下している人間であったのだ。


これまでも何かと理由をつけては平民の部員を退部させてきたのではないか、担任している平民の成績を改竄し退学させたことがある、などと黒い噂が絶えない人物らしい。


そして今回、マリアが標的にされた。


だったらとことん成績をよくしてやるとのこと。



ーーーー


……っわけ。だからお願い‼︎」


「うーん、いいけどちゃんと注文もお願いね。」


「ちぇっ。……はーい。」


あれ?舌打ちされた?


まあ、いっか。


ーーーー


夜7時。


お店でお酒がではじめる時間だ。


「マリア、お疲れ様、今日はここまでにしよう。」


「えっ?私閉店まで入られるよ?」


「たまにいるもんね。知ってる。だけどね、ちょっと奥来てくれる?」


ーーーー奥の部屋


「マリアって担当楽器はたしかフルーノだったよね?」


フルーノはこっちの世界の楽器だ。パイプオルガンと同じような仕組みの楽器と思へばいい。違うのは足元が自転車のペダルみたいになっててそれをこぐと空気が送られる。早くこぐと大きな音が、ゆっくりこぐと小さな音が鳴るってことと、サイズがアップライトピアノくらいだってこと。


「ええ、そうよ。」


「ならこれ弾けるかな?」


マリアは僕が渡した楽譜をスラスラと見ていく。そしてーーーー


「うん。できる。」


ーーーーそう答えた。



じゃ、やってみよっか!


そう言って僕は彼女の手を引き、店のステージへ上がった。


ステージからベラに目配せをしてベラもステージへ。


さあ、レッツショータイム‼︎


ーーーーステージ終了後 奥の部屋


「もう!リョウ!突然ステージなんて聞いてないよ!」


「はは、ごめんごめん。じゃあマリア、はいこれ。」



「え、なにこれ。」


マリアはそういって僕の渡した小包をあけ、


「ち、ちょちょっとなによこれ。大銀貨じゃない‼︎ど、どういうことよ‼︎」


慌てたようにそういってきた。


なにって今日のメインミュージシャンへの報酬だよ?あ、授業料は差し引いてあるから。こうすればいつでも勉強聞きにこれるでしょ?


そういうとマリアは顔を真っ赤にしてポカポカ叩いてくる。



けど僕はそれをいなしながら仕事に戻るから、もう帰れよ?といって部屋から出る。


荷物も部屋にあるし大丈夫だろう。



さてもう一仕事。頑張りますか!

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