第4話 姫騎士 1

「私の剣を修理してくれないか。」


ある日、夜レストランスペースが酒場として営業している時間にやってきた、ローブをかぶり素顔を見せないようにしているお客様は僕の目の前のカウンターに座り、注文を聞くとそう言った。


一応、ここは今酒場だ。聞き間違えかもしれないのでもう一度聞く。


「ご注文は?」


「ならばこの店でしか飲めないというカクテルとやらをいただこう。そのあとで私の話を聞いてはもらえないだろうか」

僕は話を聞くだけならと、ため息をついた後尋ねた。


「カクテルと言ってもいろいろありますがどうしますか?


ーーーーーーーー


カクテルが一種類じゃないことを知ったお客様は少し恥ずかしそうにしながら「オススメを。」といったのでバレンシアというカクテルを作ってお出しした。


お客様はバレンシアの味に驚いたようだった。この世界のお酒はキツイだけのものが多いからなぁ。ここで提供しているお酒は僕の職人スキルを駆使して作ったものだ。元の世界のお酒よりも美味しいと思う。すごいでしょ。えっへん。



しばらくしてバレンシアを飲み干したお客様が話し出した。

「この店は不思議なものばかりだな。酒場といえば騒がしいものなのに、それなりに話し声がするとはいえ、とても落ち着いた雰囲気だ。この酒一つをみてもそうだ。他で飲む酒とも違う。とても飲みやすい。」


お客様は感心したようにいう。僕も嬉しくなり笑いが溢れる。静かなバーにしようと頑張った甲斐がある。


それは良かった。そのカクテルは女性の方にも飲みやすいものですからね。

そう言うと、お客様はとても驚いた顔をした。「私が女だと気がついていたのか?」とでも言いたそうな顔だ。


「そりゃ気がつきますよ。アーガイル公爵御令嬢。いや姫騎士アメーリア様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか。」


彼女だけに聞こえるようにそういうと、彼女は興味深そうに質問してきた。


「ほう?そこまで気がついていてなぜ最初断るようなことをしたのか?」


わざわざ聞かなくてもわかることを聞いてくるとはね…。まず、アーガイル公爵家はとても有名だ。その令嬢もしかり。そんな人物が変装して店にいたら警戒くらいはする。

そして依頼だときた。貴族、それも公爵令嬢相手に失敗でもすればどうなるかわかったものでもない。その上、姫騎士となれば顧客にしたい鍛冶師なんていくらでもいる。資金に関しても問題ないだろう。にもかかわらず、僕のところへ持ってきた。まあなにかあると思うに決まっている。


そう答えるとアメーリア様は「なるほど。」笑って、「それに関しては安心してくれ。そうだな、宿の部屋を今から一晩借りよう。その中で説明と条件を話したいのだがいいかな?」


あいにく部屋は満室です。


僕は笑顔でそう答えた。


「なっ!?…仕方あるまい。また明日来よう。」予想通りの反応である。笑ってしまいそうだ。


なので


まあまあお待ちください。商談用の部屋でお話ししましょう。


そう言うと悔しそうな顔をした後苦笑を浮かべて、「ああ、お願いする。」

そう言い終わった彼女の顔は安心したのか年齢通りの少女の笑顔だった。

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