10:宇宙人の陰謀

 宇宙人のとある種族が、地球人を一人残らず、奴隷、あるいは家畜に変えようと狙っているのだという。

 そのために、まずは地上を大混乱に陥れようということらしい。

 君主を殺害すれば、日本は怒り狂い、戦争の道に突入する。それをきっかけに、世界大戦を発生させる――という、戦略らしかった。

「――ま、俗に言う、『地球侵略』狙いの宇宙人というやつだなぁ」

「し、侵略」

 スケールの大きさに、光は息を呑む。

 ひょっとして、自分は、とんでもないことに巻き込まれてしまったのではないか――と。

「冗談……だよね?」

「冗談なものか。お前の目は節穴かぁ?」

 ナーシャは、小ばかにしたような調子で言った。

 幼女特有のロリボイスなため、言葉の中身ほど深刻に聞こえないのが問題だったが……。

 確かに光は、白昼堂々、銃撃戦がされるのを見た。

 MIBの遺体が、掻き消える所も。

 ナーシャが、瞬間移動テレポート治癒ヒーリングを行う所も。

「じゃあ……ナーシャ、キミは、いったい何なんだって言うんだ?」

 ――妙な芸当をなし、MIBを巧みに撃ち殺してしまった、年端もいかない幼女。そんなもの、聞いたこともなかった。

 光は、疑問を率直にぶつける。 

「私は、戦士だ」

 ニヤリ、とナーシャは笑った。

「見れば分かるだろう?」

 けん銃をクルクルと指先で高速回転させ、正確な位置にキャッチしてみせる。その銃を、肩の上に掲げていた。

(……おもちゃの銃で、遊んでる幼女にしか見えないな)

 光は、ちょっとだけほんわかした。

「……お前、死にたいのかぁ?」

「うっ!? ご、ごめんごめん、謝るよ……!」

 ナーシャに銃口を向けられ、光は腕をわさわささせる。

「な、なんだか、信じられなくってね」

「勘違いするなよ」

 ナーシャは、銃口を下ろさなかった。

 むしろ、もっと低い声音(と言っても光の声より高い)で脅す。

「私は、地球を守る使命がある。だが、お前の友人ではない」

「ナーシャ……?」

「私は暇ではないのだ。選べ。決心するか……それとも、この場で死ぬかをなぁ!」

「そ、そんな……!」

 光は、思わず「降参」するように両腕を上げた。しかし、ナーシャの丸い瞳は、光をにらみつけて止まない。

 幼い顔立ちでも、その裏の意思は光よりはるかに固い――そう、光は考えざるを得なかった。

 光のストライクゾーン、ど真ん中とはいえ。

 この怪しげな幼女と、殺伐とした世界に、これから入っていかなければいけないのか。

 あるいは、即座の死か……。

 光は、こぶしをぎゅっと握り締める。

「ふん、口も利けないのかぁ? どうやら、見込み違いだったようだなぁ……腑抜けはいらんぞ?」

 ナーシャが、引き金に手をかける。光は、思わず頭を手で隠した。

 だが、銃弾が放たれることはなく、ナーシャは不意に空を見上げる。

「チッ……! 次から次へと邪魔が入る! ゆっくり調教もできん」

 いまいましげに舌打ちをし、けん銃をしまいこんでしまう。

「……どうかしたのかい?」

「お前には関係ない」

 しかし、ナーシャは一瞬考え込んで、

「……いや、待てよ。お前にも関係あるぞ」

「え?」

「お前は、決心がつかないのだなぁ? なら考える材料をくれてやろう。職場見学といこうじゃないか」

 ナーシャはイヤな笑みを浮かべて、光の手を握った。

「職場見学……?」

「うむ。これから、私の仕事ぶりを見せてやろう」

「……はぁ」

 また、MIBを撃ち殺しに行くのか……と考えてしまい、光はぞっとした。人間ではないらしい、とはいえ、銃撃戦を見て気分が良くなるはずもない。

「で、どこに行くんだい?」

「上だよ」

 ナーシャは、空を指差した。

 その瞬間、ナーシャと光の体が、宮殿の庭から掻き消える。

 一瞬後、全く別の場所に出現した。

「……! うわぁっ?!」

 見渡す限り雲ひとつない空が、一面に――二人の足元を含めて、広がっている。

 上も下も、青い空だけだ。

 二人は、地表から遠く、はるか上空に瞬間移動テレポートしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る