05:なぞの金髪ゴスロリ幼女

「あっ、先輩!?」

 妹が――灯が。

 その辺をうろついているはずはない。

 分かっていても、光は必死に走った。後輩たちを置き去りにして、学校を出る。

(なんだ、あの可愛い子!? ぜひ、お近づきにならないと……!)

 自分の直感を信じて、都会の道を駆け抜ける。

 灯そっくりの女の子は、このすぐ近くにいるはずだ――光は、そう直感する。

 勘に導かれてたどり着いた先は、宮殿だった。

 芝生地帯をしばらくうろうろして、ふと、ある樹の上に光は目を奪われる。

 光のイメージに現れたとおりの美幼女が、そこにいた。

 歳は、10代前半くらい。

 小さい背丈を丸めて、太い枝の上に腰掛けている。

「……!」

 光はその幼女を見つけ、息を呑んだ。走ったせいで、乱れていたはずの呼吸も忘れてしまう。

 その幼女は、あまりにも灯に似ていた。

 遠くを見つめる瞳は、宝石のように大きく輝いている。

 幼いわりに、背中まである長い髪も、当時の妹と瓜二つ。

 ただ、妹と違うのは、髪が金色で、瞳はヘーゼル色だということ。

 目の前のこの幼女は「日本人離れ」してるのではなくて、本当に「日本人ではない」らしい。

(灯ちゃん本人……? って、そんなわけはないか。でも)

 光は、唾を呑み込んだ。

 幼女は、漆黒のドレスを着ている。

 黒い生地の上に、ひらひらしたレースやリボンが、ふんだんにあしらわれていた。舞踏会で着るドレスというよりは、お人形に着せるほうが似合いそうなドレス――いわゆる、ゴスロリドレスだった。

 東京の、都会のど真ん中で見かけるには、あまりに不釣合いな衣装。

 真っ黒な、文字通り一片の隙間なく黒いドレスから、今にも折れそうな白い手足が覗く。

 金髪は、水がめを傾けたかのように、頭からまっすぐ下へ注いでいた。

 一本一本の細い毛は、とくにそのぴっちりとそろった先端が、陽光を受けて微細な輝きを放っている。

 抱きしめたら、簡単に壊せてしまえそう――そんな繊細な妖気を、幼女は小さな全身から発していた。

(『金髪ゴスロリ幼女』……! まさか、実在していたなんて……!)

 思わず、光は合掌した。

 仏様にエンカウントしたみたいに、勘当の涙目で祈りを捧げてしまう。

 がっつり、ストライクゾーンど真ん中だったのだ。

 光は、ナチュラルにその幼女に声をかける。

「……ねぇキミ。そんな所で何をしてるんだい? 落ちたら危ないよ」

「!」

 瞬間、幼女は光と目を合わせた。

 すでにじゅうぶん丸い瞳を、もっとまんまるに開いて、 

「……お前。なぜ私が見える?」

 と、キンキン響く甲高い声。

(あれ? 思ってた反応と違うな……)

「『見える』って……? そりゃ、見えるに決まっているじゃないか。お嬢ちゃん、面白い子だね」

 光は、ニコッと笑った。

「降りてきたらどう? お姉ちゃんが、一緒に遊んであげようか」

 光は、十人が品評すれば十人が褒め称えるほどの容姿を誇る、花の女子高生だ。

 学園の女子たちにだって、好かれまくっている。

 この幼女にだって、まさか、拒絶されるはずもない――光は、そう確信していた。

「……なんだぁ? お前、女子高生のクセに、私に欲情しているのか」

「……えっ?」

 光の確信は、一瞬で暗雲に覆われる。

 見抜かれていた。

 美幼女は、ゴミを見るような目で、樹下の光を睥睨する。

「私が視(ミ)えたことは、褒めてやろう。だがなぁ、ロリコン女子高生、私は今忙しい。ロリコンごっこは自分の学校でだけにして、すぐに立ち去れ。警察に通報されないうちになぁ」  

「え、えっ……?!」

 初対面の幼女に。

 完膚なきまでに、見抜かれた……。

「ちょ、ちょっと待って!? なんでキミが、僕のことをそんなに知ってるんだい?!」

 光は、不思議に思い、樹を上ってしまう。金髪幼女の、華奢な肩を掴んで揺さぶった。

「あっ、お前!? このっ、か、帰れと言っているのに、ばかぁっ――あ、あわわわっ、揺するなぁ!」

「ど、どういうこと!? ちょっと、詳しく話を――」

 光の「秘密」が漏れてしまった。

 その焦りで、つい金髪幼女を大声で追及する光。

 しかし、彼女の声は、唐突な銃声でかき消された。

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