閑話:新京の食

 街には人の群れという名の活気に満ちた午前十時。

 休日という事で、白いのと黒いのはクレープを片手に、多く賑やかな街中を歩いていた。


「んー……」

「どした?」


 妙な声を出している白いのへ、黒いのが尋ねる。


「そこの店の広告。食べ物の方ね」

「新メニューか。何か引っかかる事でも?」


 黒いのは言葉に従いAR――拡張現実で流されている広告に目を通し、続きを促す。


「天然だの何だの謳ってるけど……ホントかねってね」

「値段と比較して納得出来る味ならそれで良いんじゃない」

「随分とあっさりとした反応だね。天然モノは嫌いだったっけ?」

「別に。単なる贅沢、嗜好品の類だと思ってるだけ」


 問いに対し黒いのは肩を竦め、更に続ける。


「そもそも俺達みたいな一般市民の口に入る物なんて、栽培用のビルで高速栽培された奴を、加工施設で調理した出来合いが基本でしょ」

「そりゃそうだけどさ、そこはもうちょっと夢のある意見じゃないの?」


 白いのは唇を尖らせ、不満な様子を見せる。

 それでも否定まで至らないのは、事実である事を認めているからだろう。

 そこまで判っている上で黒いのは答える。


「一般感覚で答えろってんならそうするけど、そっちが欲しかった訳でもないだろ」

「……それはそうだけどさ」


 ため息交じりの相槌を打つ白いの。

 噛み潰した苦虫の味を紛らわす様にクレープを齧る。

 トッピングされたフルーツと生クリームの甘さが口の中に広がる。

 これも当然、高速生産品だった。


「それに天然ものって高いけど、味だけの評価だと正直そこまで払う価値無いし」

「ホントに?」

「個人的にはね。質だけより量も求めるタイプなもんで」


 黒いのは小さく頷く。


「今は技術の向上で、味が良くなり個体差も減ったって評価が多いのもポイントだね」

「へぇ、情報は鵜呑みにしちゃーいけないよ?」


 白いのは悪戯っぽい表情で黒いのの言葉に食いつく。

 単純な指摘でもあるが、やり返してやろうという意思が原動力の反応だった。


「なら天然ものとそうじゃないの、区別出来る自信はある?」


 しかし、今回上手なのは黒いのの方であった。


「…………んん~……」


 白いのは言葉に従って今までの記憶を思い返し、


「……無理」


 観念して首を落とした。


「まあ意味は無いとは言わないよ。天然ものだから食べたいって人もいるんだし」


 見事に玉砕した様子に喉の奥に笑いを押し込めつつ、黒いのはフォローを入れる。


「だからって自分が食べる事は望んでいない、か」

「ま、そういう事だね」


 頷いた黒いのはクレープの最後の一欠片を口に放り込んだ。




ーーーーーーーーーー

あとがき

 服飾事情に続き、食料事情についてでした。

 SFでよくある大豆ベースなどの合成食品はこの作品世界においては流行っていない、という事にしておきます。特に日本では災害備蓄用や、炊き出しなどでしか使われないでしょう。

 理由は味です。コストに大きな差が出ないなら、日本人は味が良い方を選ぶと判断した結果です。


 なお、新京の住居事情ですが……ネタが思いつかないので当分ありません。

 あしからず。


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