谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』

 これもまた、僕と同世代か上世代の闇よりの陰属性を抱えた日陰者のニチャっぽいキモオタにとっては一種の必修科目とも呼べる作品。


 余りにインスタントで根幹を成すべき理由なんかは別段必要としないチート無双が厚顔無恥にして蹂躙闊歩する昨今はともかくとして。


 恐らく、当時のゼロ年代中盤以降を生きた誰もがきっと、『長門は俺の嫁』か或いは『かがみは俺の嫁』と匿名掲示板上で鼻息荒くキモい表情と共にキーボードを無駄にスタイリッシュな感じで乱雑に指先を叩いたことだろう。多分関西近郊に聖地巡礼したりしたことだろう。うん、間違いない。造形大学の階段できららジャアーーンップゥッ!


 そんなゼロ年代中盤におけるサブカルチャーの中のメインストリームとも呼べるコンテンツの一つが、涼宮ハルヒの憂鬱であると思う。


 後に僕を含めた一部の老害の中で言われる深夜アニメ全盛期。

 そんな陰陽が入り混じった当時を過ごした懐古厨(執筆当時)は大体――大概の場合、空気を読まずに「2006〜2010年頃のアニメは良かった」と臭い口を酸っぱくする程意見して、各所で老害乙と若者キッズから辛口のレスポンスを貰って死にたくなる今日此の頃。


 そんな時代に僕はと言えば、浅いアニメオタクだったのであり、今へと続く泥沼めいた深夜アニメ業界に視聴者として片脚を突っ込んだ紛れもない小僧キッズであった。


 そもそもとして大体の場合、深夜はすでに寝てる時間で、アニメはジャンプ原作しか基本的に視聴しなかった。


 アニメと言えば子供向けのもの。


 そういった旧態依然のステレオタイプな思想をそこまで明確に意識していた訳では無いけれど、幼少期より深層心理に深く刻まれた浅い固定観念をぶっ壊したのがこの作品だよ。なんだこれ! 深夜アニメって面白えと素直に思ったね。


 そんなハルヒのあらすじを簡単に説明するのは難しい。

 

 それは僕の低い頭脳や対外的な言葉ベタだけが原因じゃない。何度も言ってる気がするけど、それだけじゃない! マジで!!


 というのも、ハルヒの大枠をザックリ言ってしまえば『セカイ系』って事になるんだろうと思う。

 所謂ポストエヴァ以降にありがちな――未成年の主人公とヒロインの採択した青臭い選択や慮浅き行動で、周りとか世界全部の命運とか運命とやらが決まる系の物語。

 悲劇や喜劇、努力や修行が必要以上に忌避される、インスタントでイージーな「なろう系」が市場を席巻する(執筆当時)現在となってはあまり見られない、今は昔のトレンド。あーなんかまじで年取ったなあクソが猛烈に死にたい。なんやかんやで昔の新海誠最高や!


 と言うのが、僕の根源の全てな気がするけれど、個人的なレゾナンスをさて置いてもう少し掘り下げてみようと思う。


 前述の通り、ハルヒに出会う前の僕の思考としてはニュートラルかつ――どちらかと言えば、陽キャ寄りの思考で、一般的でナチュラルな嗜好だったと思う。マジで。学生時代は概ね運動部だったしね!! しね!!


 だけど、ずっと「何か」が違うなって思ってた。


 ジャンプも小説も好きだけど、アニメとか別に見ねぇなぁ…余暇の時間はそれ以外に消費してて普通に忙しいし、疲れてる日々の中で敢えて見ようとは思わねぇなぁ……。


 そんな領域に存在する奴にこそ、そんな奴にこそ響いたのがハルヒなんじゃないかなと、僕は今になって思うんだよね。


 だって、凄く面白ぇんだわ。


 完全無欠でスケジュール帳の予定が常に一杯で飲み会続きでも疲れ知らずな陽キャは知らないよ?

 そんでもって、台風の日はサーフィン日和でキャンプ日和だと認知するようなイカれた奴とか、少年院に入った歴や万引きでパクった金額を競うような低脳ヤンキーは勿論対象外として。


 或いは中学校の頃に年上やんちゃな高校生の恋人がいた奴とか、高校生の頃に付き合ってる大学生な恋人の影響でタバコを吸い出した奴とか。

 

 そんな採算度外視なハジケリストの奴らを度外してさ。

 大多数の多数派に属する凡人は普通に学校に通って、普通に生きてた奴らには刺さると思うんだよなあ…。

 陰キャ以上陽キャ未満。普通以下の能力で平均以上の自尊心やそれなりの偏差値を持ったやつは大体共感すると思う。体育の時間の球技は別にそこまで苦じゃなかった奴にこそ響くと思う。だいたい全部僕のことだが、僕以外の誰かも大抵そんなもんだろ?


 平凡を自称し、波の立たない平和な毎日を愛すると豪語する主人公のキョン。

 彼は勉強が出来ない割に凄く難しい熟語や賢そうな逸話をモノローグ中に平気でぶっこんでくる――やけに良い声の万事屋ちっくなモミアゲマンなんだけどさ、まあちょっと年相応に冷めてる。世の中をそれなりに斜めに見て悦に浸っている。


 身の回りの世界には色々諸々不思議なことはあるかも知れないけど、それは全然超常現象とかではないし。

 幽霊とかサンタとかネッシーとか。そういうのがいればそれなりに面白いけれど、実際はいるわけないし、いないとするのが常識で世間一般には吉だよ。


 かつて持っていたはずの不思議や不可思議への純粋な熱意は加齢と共に静かに失っていって。挙げ句、なんとも思わなくなって行く…どころか嫌悪や忌避が重くなっていくばかり。


 うん、分かる。当たり前だ。生きていればそれが当然で通過儀礼だ。

 でも、極稀にそう言った固定観念が崩れる瞬間がある。そういう瞬間を求める気持ちがある。


 それがキョンの持つ最大の魅力である。

 それ故に消失はマジのガチでグッとくる。言葉にならないくらいにシビれるわ。


 冷めていたはずの彼が足のついた現実よりも足元不確かな不思議を選んで、改札を跨ぐシーンは心の底からアツくなった。キョン君は『消失』以前と以降で完全にキャラ変したとさえ思える名シーンだよ。


 個人的な感傷は大体の場合、「うわぁ…」って感想を呼び起こすので掘り下げずに。

 ここでまた語り部たるキョンに微妙にフォーカスするけれど。


 実際さあ。

 宇宙人だか未来人だか超能力者に恋い焦がれて憧れない男子とかいんのか?


 僕はトップアイドルな女子高校生じゃないからこそ言えるけど、普通はさ。

 目に見えない『気』とか『霊圧』に憧れて真似するもんだろ?


 そんでもって、そういう趣味を持った男子は科学的な認識では捉えきれない特別な「何か」を何処かで欲してるもんじゃないかな?


 そして更に、そういう幼稚な欲求や願望はオトナになるにつれて、つまんないくらいに落ち着いて。

 やがて、管を巻きながら「昔はオレもさぁ…!」なんて厄介極まりない、妄想と願望をミックスした戯言を吐き出す老害になるのが規定のルートである。


 さてはて。

 いつもどおり、訳わかんない感じになったから。ニュートラルに意味不明な感じで締めようと思う。


 所謂「やれやれ系」のキャラってラノベ界隈を限らず一杯いるけどさ。

 てか脱線極まりない余談だけど結局。承太郎はそのカテゴリに収まるのかな?


 彼は帽子を被り直しながら「やれやれ」と呟きつつオラオラするタイプのワイルドな男性だからな。オラオラ系に分類されんのかな?


 オラオララッシュを繰り返すハーフだかクォーターだかは雲の上の蜘蛛の上なので過去やら思い出の中で静かに置いておいて。


 臭い息と共にやれやれ言う僕をグイグイ引っ張ってくれる美少女とかいたら、絶対楽しいよね。確実に好きになる事請け合いだよね? 誰が請け合うんだろう?


 そんでもってエキセントリックかつイカれた印象を受ける同年代の女性が持つ普遍的な弱さを知るのが自分だけだって気付いた時、貴方はどう思うよ?


 めっちゃ愛しくない?

 たまらなく可愛くない?


 てなかんじで、キャラ萌えとストーリージャンキーを上手く融合させたのが『ハルヒ』だと思う。


 ジュブナイルでそれっぽい物語と懐古なキャラが欲しい奴は読むと良い。

 当時は長門が好きで、佐々木が大好きで。


 今となってはハルヒの良さも分かる。可愛さが深い。

 そういうウィスキーやワインみたいな熟成させる楽しみも恐らくあると思うよ?


 こんな散文的なクソ文書に求心力なんかゼロに近しいか、或いはそれ以下である可能性が大であるけれど…。


 ハルヒはいいぞ…!


 僕はゼロ年代を過ごした老害として、暫くはこう吠えるだろうね。

 未来人や宇宙人や超能力者、もしくは異世界転生をした前髪がV字のいけ好かない野郎を見るまではきっと――多分そう思う。


 時代やトレンドの大河に立ち竦む一本の枯れ木の様な姿で、そう思っていたいものだね。

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