漫画編
浅野いにお『ソラニン』
随分前に次は「スパイラル」か「プラネテス」とか言ったな…、あれは嘘だ。僕はチコクしない割に約束を守らない気がある。
嘘だ、約束は守らないし、会社に遅刻することはしょっちゅうである。何なら死ぬほど疲れてるので、就業時間中は起こさないで欲しい、
それに追従する様な余談だが、僕はコマンドーやターミネーターが大好きだし、ランボーとロッキーも好きでエクスペンダブルズが死ぬ程好きだ。つまりはそういうことなのよね。
ということで、随分とお久しぶりでございます。
長らく更新していないのにたまーに覗いてくださる方がおられるようで、前回の記事を投稿したときよりPV数が10倍くらいになってて普通に頭とか首とかを傾げております。何がそんなに刺さるのか?
てなわけで、意味不明な導入もそこそこに、今回はそんな感じで愚かで愚鈍かつ鈍足な僕を含めた意識が高く自意識が低い割に自尊心が高い系のサブカルクソ野郎や、イオン内のやけに明るい照明が眩しいヴィレヴァンに入り浸って『マイヘア神、椎木卍マジイケメン』とかドヤ顔で豪語するサブカルクソ女の家の本棚に高確率である漫画家。
それは僕達世代のサブカル系クソビッチ人種における――ある種のカリスマ的存在のフォエバー漫画家――知る人は知っているし、知らない人はこれっぽっちも知らない浅野いにお氏の『ソラニン』をフィーチャーしようと思う。あ、好きな漫画が『キングダム』な人には合わないこと請け合いなので、ブラバを推奨するよ。
またまた余談だが…僕の人生における浅い経験則や体験談によれば、彼の単行本が収まっているカラーボックスの上には多分、無印か地元のホームセンターで買える程度の間接照明とガネーシュのお香があるし。なんか無意味にステッカーとかベタベタで汚らわしい。
ついでに言って、安っぽい電球色が淡く照らすヤニに染まった汚い壁には、過去に行ったライヴのフライヤーやショップ別注モデルのニューエラのキャップなんかが独自のセンスを元にしたレイアウトで乱雑に掛かっている。ああいや、マジで余談だし、何なら自己紹介だな。これ。
ってなわけで。
恥ずかしげもなく話を戻すと『ソラニン』というのは上下の二巻構成で、それぞれで狂言回したる語り部が変わる。
相対的にざっくり言った物語のジャンルとしてはバンド漫画と言えるのかも知れないけれど、金字塔たるBECKとは違う系統にある。
この作品が描く根幹にあるテーマはバンドマンの彼氏とその恋人。
そして、彼達を取り巻く関係者各位の人々の胸を焦がすモラトリアム的な青春モノ、それに付随する狭い世界のどうしようもない人間ドラマが主軸であると思う。
より具体的に掘れば、趣味でバンドをやっている大卒フリーターの青年『種田』と、彼と同棲している大卒OLの『芽衣子』が主人公の上下巻の短編ってことになるのかな?
そんな感じのW主人公。それはカミナとシモンみたいな兄貴子分じゃないけれど、何処か傷を嘗め合うような共依存を持った関係性の二人の男女が主軸と中核となる物語。
現代社会の日本において、極々当たり前に存在する世の中の普遍的な「普通」に対して―――そんな様々な事象について、驀然しながらも折り合いの付けられない閉塞感を間違いなく抱えて生きている二人の
そして、そんな僕と浅野いにおとの出会いは例の如くヴィレヴァンのポップ…では無く、高校の時に購読していた男性向けファッション雑誌に載っていたからだ。確かなんかイチオシのニューカマーみたいな感じで紹介されていた。
そんな感じで、顔は愚か名前すら記憶にないライターの文言に流されるがままに地元の本屋に行き購入した。
その原因として、僕が衝動的で行きあたりばったりな人間であるのと同じくらい――全二冊で千円前後という価格設定がキッズのお財布にも優しくてハードルを下げたのもあると思う。
そんなこんなで帰宅してとりあえず読む。ビックリして驚いた。
「
マジでそう思った。
嘘偽りなく漫画の中に自分がいる気がした。紙面で苦悩してみっともなく足掻く男は俺自身みたいに感じた。
息の出来ない現実を享受してる癖に諦め悪く藻掻いて、そんな安寧たるゴミ溜めから抜け出そうとする姿は俺そのものだった。
それはまあ何故かと言えば、高校生の時分の僕が色々なものや様々な出来事に感情移入してしまう多感でセンシティブな面倒キッズであったことがその一因だと思うけど、多分そうじゃない。それだけじゃない。
例えば何かに熱中し、敢え無く挫折した事のある人間や――そういった挫折こそ無いものの、自分の才能や能力が持つ幻想に限界を感じた事のある人間であれば誰でも――本当にマジで、普遍的に、ガチで誰にでも刺さる話だと思う。
自分には才能があると思ったジャンルで躓いて、上には上がいるという当たり前を知っている人には深く共感できる普遍性があると思う。
更に、そんな過去を経て尚、次の一歩やそれによって生じる確定的な結果を出すのを恐れて
僕はと言えば、嘘偽り無くそんな種類の人間なので激ハマりした。何度も何度も繰り返し読んだ。
部活が休みになって、ふと一人になるテスト休みや予定のない長期休暇、或いは自前の不器用さにヘコんだり傷付く度に読んで、その後も何か人生の壁に行き会う度に読んだ。
友人と喧嘩した日、他人に失恋した日、自分に失望した日。
消えないネガティブな気持ちをチューニングする様に読んだ。
どうしても折り合えない世の中や、どうにも受け入れられない自分をどうにかしたくて―――読めばどうにかなる様な気がしたから。
あり得る全てを含んだ、どうしようもない何かに立ち向かう、祈りのような思いでページを捲ったのだ。
まあ結果として、そういう詮無き祈りが現実として上手く機能したかは別問題だけど、思春期真っ盛りの僕には少なからずの"慰め"みたいなものになったのは事実だ。
何て――気付けば今回は独白的なポエムが殆どを占めてしまい、全然作品の良さを解説出来ていない。
いつも通りと言えばぐうの音も出ないが、流石に本エッセイのレゾンデートルに関わるので、ここでこの作品で僕が一番好きなシーンに軽く触れたいと思う。
挙げるのは下巻の一番最初のエピソード。本編よりも少し過去の出来事。
大学生活の終わりを目の前にした『種田』達は所属する軽音サークルの追い出しライヴに臨もうとしていた。そんな折、彼は咀嚼できない心の小波を抱えていたのだ。
溜め込んだそれに加えて、周りの同級生――反社会的なロックを歌っていた癖に、髪を黒く染めて内定をしっかり獲って――そんな当たり前みたいに、くだらない社会に馴染みつつある歳相応な
そしてトドメとばかりに向けて放ったやけに悟った言葉も合わさって、メンタルがなかなかどうして不安定になっていたのだ。身の置き所が無い宙ぶらりん故の不安定感だ。
「ふーん、まあ、それもいいんじゃない? 青春先延ばしって感じで」
そりゃあフリーターでいることを『先延ばし』と評されれば頭にくるだろうし、何よりもその許容に聞こえる言葉の裏には明確な見下しの精神が滲んでいる。お前とは違うという極めて人間的な高次で低レベルな拒絶の精神が矛盾とともに隠されている。
はてさて、その的確なdisりと煽りを受けてからステージに立った彼は泥臭く、生々しい本音を叫ぶ。マイクを通して、エフェクターで加工して、アンプで膨らまして。
彼は叫んだ。
「たとえゆるい幸せがだらっと続いたとしても、それで満たされたふうな格好だけの大人になんかならねぇ」
青臭いですよね。なにも知らねぇガキが息巻いて粋がってんじゃねぇよ。
そう思われましたか? 僕は思いません。
ところで、どうでしょうか?
皆様は立派な
恐らく多くの方は一人の大人として色々なものを背負いながら、責任や生活を引き摺りながら人生と社会を生きていることだとは思いますが、それは貴方が本当に望んだ将来で、かつて描いた未来のカタチに沿った美しい絵でしょうか?
もしそうであるならば、僕としてはどうしようもなく羨ましいので、家の鍵とかスマホとかを何処かで失くせばいいと思いますし、もしそうではなく。
僕や「種田」に近しい感情や考えを持っているのならば、鍵や携帯電話をカバンに入れたまま、帰宅の折に本屋によって今作を手にとって見るのも良いかと思います。
その果てにデトックス効果があるとはお約束できませんが、最低でも暇潰しくらいにはなると思いますし、仮にそうならなくとも出費としても千円ちょっとです。怒りに打ち震える程ではないでしょう?
さて、次はどうしようかな?
そろそろ有言実行しとくべきかな?
まあ。諸々未定のまま、筆を置いて煙草でもフカそうかな。
「もう少し時間をください。何か答えが見つかるまでは。
たとえそれが険しい道で、世界の果ての果てまで続いていても…僕は僕の道をゆくんだ」
―――種田成男
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