さくらももこ
中学一年の間に新潮文庫から出ているホームズシリーズは全部読んだ。
普通ならばそこから他のミステリーの有名所とかに行くんだろうけど、クリスティとか横溝正史は読まなかった。
斜め読みの聞き齧りのにわか知識的な浅慮な理由にはなるけど、何か良く分かんないまま人がいっぱい死ぬし、何か暗くて怖いし好みじゃなかった。
まあ偏った横溝感なんかは扠置いて、だがまあしかし、取り敢えずホームズを読み切ったことで朝の読書に臨む残弾が尽きた。やばい。このままでは同じことの繰り返しである。
そんな折に小学時代からの友人からこれおもろいぞと手渡されたのは、何か独特の色彩とタッチで描かれたサカナが表紙の本。
白地のハードカバーに書かれていた気持ち悪い絵とタイトルらしき文字の羅列。
たいのおかしら。
当時の僕は思った。は? 意味がわからん。
今現在でさえ壊滅的なまでに浅く狭いの人間の、更に中学生時代と来たもんだ。
マジで深刻なまでに知性とか知識とかが足りない少年の感想としては及第点であると現在の僕は過去の自分を美化してみたり、しなかったりする。
しかしまあ、折角友人に薦められた本だからと渋々嫌々暇潰しがてらに気持ち悪い表紙のエッセイを読み始めた。
結果、ハマった。滅茶苦茶面白かった。
今から僕の話すエピソードが『たいのおかしら』に収録されているかは微妙なところだ。その後に読んだ同作者の別タイトルに含まれていたものかも知れない。
そんな曖昧な記憶のまま、一番記憶に残っている話にスポットを当てようと思う。
ズバリそれは『飲尿』である。
それは彼女にとっての幼い頃の話では無く、妙齢の女性と成長したももこ氏の実体験に基づいた話であったように思う。
何か詳しくは良く分からんし、詳細は忘却の彼方に消え失せたが、自身の日頃の生活習慣とか体調とかのメディカルな不安とかを感じた作者は健康に気を遣う様になった。
その結果、コストのかからない自身の排泄物を再び取り込みリサイクルすることになった。
意味わかんないでしょう?
健康に不安を覚える。わかる。
色々薬品とか民間療法を試してみる。わかる。
排泄物が健康にいい。そうなのか?
小便を飲もう! マジか?
貴兄達が私と近い感性ならば、大体こう思うだろう。
それはさくら氏も同様で最初は躊躇っていた。当初は自身の下部から排泄された生暖かい液体を口に入れる勇気を持てないでいた。
しかし、彼女は気付いたのだ。尿を飲むということはコストがかかっていないと。
自分の身体で勝手に作られたものであるならば、失敗しても損では無いと。むしろ他の健康食品を購入するよりお得だと。
そうして彼女は――――…
大体こんな感じのエピソードだったと思う。
マジでたいのおかしらに収録されているかは曖昧だけど、彼女の数あるエッセイの内のどれかには間違いなくあったと思う。
後は水虫を雑草で治す話とかお年玉を種に姉と賭け花札する話とか凄く好きだった。中国で茶葉を買い付ける話とかもあった気がする。或いはスリランカだかで宝石を探す奴とか載ってた気がする。
しかし、何と言ってもさくら氏が過ごす微妙に珍妙な日常が愉快に感じた。エキセントリック過ぎて決して真似をしたりはしなかったけど、暇つぶしの書籍としては上質であったし、何よりも読み物として秀逸であった。
挙句ちびまる子ちゃんの作者はこんなに意味分からん人間だったのかと謎の感動を覚えた。
それ以降エッセイにハマり、色々な人物のものを読んだ気がするが正直余り記憶に無い。覚えているのは東野圭吾がブルース・リーにハマった話位だ。
当時の僕にとっては国民的少女漫画の作者の馬鹿馬鹿しい日常を超えるものは無かったのだろう。やがて僕はエッセイというジャンルに一区切りをつけて、国内の娯楽小説に舞台を移すことになる。
所で話は少し変わりますが、皆さんはご存知でしょうか?
かつて週刊少年サンデーでカルト的人気を誇った二人の兄弟の物語を。
それは戦国時代を舞台にした半妖が出て来る奴じゃないよ?
その物語の名は『魔王 JUVENILE REMIX』。
原作小説の作者の作品を複数ミックスさせて構成した衝撃の問題作。
「めくれたクラレッタのスカートを直してやりたい。それは無理でも彼女のスカートを直してやりたいと思える人間になりたい」
本文とは少し異なるが、それは今後の僕の指針となる言葉であり、信条となる言葉でもある。
原文とは少し異なるが、それは青い頃に憧れ、くすんだ現在でも心を打ち魂に響く名文。
それでは今回はこの辺で。
次回から高校生編。伊坂幸太郎に続きます。
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