一般文芸編

シャーロック・ホームズ

 そんなこんなで「シャーロックホームズの冒険」を手に取った幼き無垢な僕。

 それはとてつもなく浅薄で、余りにも軽薄で、マジでくだらない動機ゆえの邂逅であった。


 読書=漫画であった僕がそれを購入したのは何故か?

 答えは明瞭。なぜなら身体は子供、頭脳は大人で真実はいつも一つでお馴染みの某少年探偵がホームズに言及してたから。


 コナン君と新一君も絶賛していたし、ならまあ試しに読んでみようかと、体も頭も子供そのものである迂闊な性格の中学一年生は知性など欠片も無くそう思い、行動したって訳だ。我ながら安直で工夫が無い。


 が、その選択は正解であったと断言出来る。

 今までの人生、思い起こせばだいたい間違いばかりを選んで来たことに定評と実績がある僕だけど、その点だけは自信を持って肯定出来る数少ないものだ。


 だってそうだろ? 


 そこで読んでいなければ、今後の生活において読書という行為に触れることは無かった……というのは些か――と言うか、かなり誇大で誇張した物言いになるけれど、少なくとも僕の読書体験は大きく遅れることになったはずである。


 逸れた話をホームズに戻せば、その初体験は衝撃の一言であった。


 なんだこれ超面白ェ!!!

 それが率直かつ簡潔な感想だ。


 自分の中に抱いていた色んな固定概念というか、幼いながらも凝り固まった認識やらをぶっ壊された感覚だった。

 なんせ当時の僕の考える推理モノやミステリーというジャンルはこういうイメージだった。


 人死ぬ→探偵がトリック暴く→犯人死ぬ。


 若干大雑把で雑多な上に大層頭の悪い感じが滲み出たカテゴライズにはなるし、そんな自分を自己弁護をするつもりも無いけれど、概ねコナンと金田一少年しか読んだことの無い小僧の認識としては大概こんなもんだと思う。


 だけどホームズはその辺りの固定観念を容易くぶっ壊した。ベイカー街は米花町とは違うぞと僕に訴えてきた。言うほどそんなに爆発しないよねと教えてくれた。


『思ったより殺人事件とか起きないのなホームズって』


 というもの、作品が持つ基本の構図としては、ワトスン博士と共に下宿するホームズの元に依頼人が事件とも呼べないような不思議を持ち込む所から始まるのだが、その依頼人ってのは様々だ。労働者であったり、あるいは貴族的な上流階級であったりするが、それでもって、持ち込む依頼内容が一層様々なんだよね。

 

 僕が手に取った『冒険』に限って言えば、何かよく分からんがすげえ金が貰える組合に加入してるんだが話が美味すぎないかなとか、国王の過去のスキャンダルの証拠をどうにかして欲しいとかいう依頼だった。

 その依頼の数々は殺人事件が絡むことはあるけれど、殺人犯を探すことに主題を置くことは殆ど無いはずだ(長編だとまた別なんだけど)。

 彼達が取り組む『事件』というのはもっと日常的というか、日々の生活の中で遭遇した現実的な意味不明を解明していくのがホームズシリーズの基本形であると思う。

 今でいうなら謎部活系のラノベ的なんだろうか? 案外人間って大して進歩してないなと切に感じる。


 しかしまあ、その一種の革命的なパラダイムシフトに取り憑かれた僕は、それこそ狂ったようにホームズを読み漁った。

 意味不明な依頼内容とエキセントリックな依頼人―――そして現在隆盛を誇っている俺TUEEEEも真っ青なホームズの魅力の虜になった。


 だってホームズってあれだぜ? 文武両道なのは主人公的にまあ許せるけどさ。彼は道に落ちてる灰から煙草の種類の特定とかしたりするんだよ? 『昔、論文書いたから詳しいんだわ』って。なにその謎特技。意味分かんないなく無いですか?


 ってな感じで。そんなこんなで。

 僕の読書体験が始まったわけで、次回『さくらももこ』に続きます。

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