第6話遺跡調査の始まり

 ぶちっぶちっ


 わたしたちは青空のもとで草むしりをしていました。


 流れる風に沢山の草が靡きます。

 一体いつ終わるのでしょうか。途方もない作業です。


 「魔女さん、そろそろ休憩にしませんか~?」


 「もう少しだけやりましょう!いい天気ですよ~」


 そう言った魔女さんは照りつける太陽光を手で仰ぎます。

 すっかり外が気に入ったのか、ずっとこんな調子でした。

 人はきっかけがあれば変わるものですね…少々変わりすぎですけどね。


 ぶちっぶちっぶちっ…。


 まだまだ草を引き抜いていきます。

 何本生えてるのでしょうか、草って健気ですよね。

 そんなどうでもいいことを考えながら無心に草を引き抜きます。

 まさに、脳死プレイ。ひたすら腕だけを動かしていました。


 そんなことを続けていたときです。


 「おーーい!魔女さんたちいるかーい!」


 丘の下からおじ様がかけ上がってきてそう言いました。

 「どうしたんですか?おじ様」


 「どうしました?」


 はぁ…はぁ…と息を切らしています。

 余程大事な、緊急の用事なのでしょうか。

 息を整え終えたおじ様は、口を開きます。


 「…実は、新しい遺跡のようなものが見つかったのだ」


 「おお!それはおめでたいですね。調査隊は送ったんですか?」


 「新しい遺跡ってなんだか素敵ですね…」


 「そこで、魔女さんたちに同行していただきたくて来た次第だ」


 「わたしたちがですか?」


 「うーん…」


 「お願いだ!礼は弾むから、どうか頼む!」


 そう言ったおじ様は、普段の陽気な態度とは一変していました。

 精一杯の気持ちを込めて、誠意を込めて頭を下げています。


 「どうしますか、魔女さん」


 「いきましょうよ!遺跡なんてめったにいけないですよ!」


 「なら…」


 「承りました。わたしたちが行きます」


 「ありがとう…では早速遺跡の前のベースキャンプに行くとしよう」


 そうして、わたしと魔女さんの遺跡調査が幕を上げたのです。


 ーーガタンガタンとあれ道を無造作に走る馬車。


 荷台にはわたしと魔女さん、小人さんの三人が乗っております。

 何かを乗り越えたりするたびに揺れる馬車。

 荷台にはよりいっそうの衝撃と揺れが来ているわけでして…


 「うー…」


 わたしは酔ってしまいました。


 「酔った?酔った?」


 「……ええ、酔いました。気持ち悪い…」


 「大丈夫ですか?お茶でも口に入れますか?」


 「ありがとうございます…。でも大丈夫じゃないです。死にます。」 


 魔女さんと小人さんは優しく声をかけてくださいました。


 それに比べこの横にいるおじいさんたちは何でしょうか。

 眉一つ動かさずに腕を組んで目をつむっています。

 何でも今回の調査の同行者だとか。有名な学者さんたちばかりなようです。


 「もうだめ、降りる…わたしいくのやめる…」


 耐えきれなくなったわたしは荷台から降りようとします。

 ですが、野望むなしく魔女さん達に止められてしまいました。


 「酔うのは分かりましたけど、大人しくしててくださいね」


 「大人しく!大人しく!」


 「……すいませんでした。」


 馬車はどんどんと道を進んでいきました。


 「ーーやっと着いた…」 


 馬車の荷台から飛び降りたわたしは、深呼吸をします。

 長いこと揺られていたせいで、平衡感覚は皆無でした。


 「疲れたかね。無理もない、出発は3時間後だ。それまでテントがあるからそれで休みたまえ」


 「ありがとうございます。そうさせていただきます」


 わたしと魔女さんたちは目の前に広がるいくつもの大型テントに向かいます。


 「大きいですね~」


 「ですね~どうしますか?3時間あるみたいですけど」


 「何する?何する?」


 「わたしは疲れたので少し眠ることにしますね」


 「分かりました。小人さん、わたしたちも眠りましょうか」


 「眠る!眠る!」


 わたしたちは広げられた布団に体を委ねます。

 揺れないというのは大変良いものですね、落ち着きます。

 そしてゆっくりと、わたしは眠りに落ちましたーー


 「起きたまえ、準備を進めるぞ」


 何者かの声でわたしたちは目覚めます。

 寝ていたのは2時間と10分程でしょうか、おじ様が目の前に立っていました。


 「すみません、すっかり眠ってしまいました。」


 「いやいいのだ、これが君たちの荷物だ。足りないものはそこの冷蔵庫などから持っていくといい」


 「ありがとうございます、そうさせていただきますね」


 「ああ、あとそこの二人も起こしてくれたまえ。用意が終わったらわたしのもとへ来るように」


 「了解です」


 そう言うとおじ様はテントをあとにしました。

 寝起きで口がねばねばします。お茶を入れることにしました。


 「魔女さん、小人さん、起きてください」


 「んん…よく寝た」


 「眠い、眠い…」


 「持っていくお荷物纏めますよ、もうそろそろですから」


 「分かりました」


 さて、冷蔵庫の中身は… 

 開け放った冷蔵庫のなかには、沢山のお酒とおつまみが詰まっていました。

 それはもはや宴会のような、とんでもない量でした。


 「呆れた…まるで宴会ですね」


 わたしは持ってきたお茶を注ぎ入れます。


 ちょろろろと、3人分のカップに注ぎます。

 備えあれば憂いなし。こんな冷蔵庫は最初からなかったということにします。


 「魔女さんたち、お茶にしましょう」


 「いいですね!いただきます」


 「いただく!いただく!」


 そうしてわたしたちは、ゆっくりと時間をかけてティータイムを楽しみました。


 「さて、それではおじ様の元へ向かいましょう。みなさん準備は大丈夫ですか?」


 わたしたちはとても大きなリュックサックを背負います。

 そのなかには4日分はあるであろう食料や、全部で10リットルはある水。

 懐中電灯やガスコンロ…ナイフや着替えをいれていました。


 「それでは、おじ様のところへいきましょうか」


 「いきましょう!」


 「ごー!ごー!」


 わたしたちは、お世話になったテントをあとにします。


 「出てきたかね、こっちだよこっち」


 テントをでたわたしたちを、おじ様は手招きしました。

 急いでおじ様のいる軽い丘をかけ上がります。 

 おじ様のいた小高い丘からは、今回の調査対象である遺跡が一望できました。


 「どうだい、スゴいだろう」


  どこままでも広がる沢山の石像や彫刻、建造物。

 苔や蔦が絡み付いて風化したそれは、みるからに遺跡の様相をなしています。


 「この全部、見て回るんですか?」


 「全部?何をいっているのだ、あれをみたまえ」


 そうしておじ様が指差したのは、大きな石門。

 その石門の裏には大きな建物もなく、置物だろうと見流していました。


 「今回の調査は、あの門から入ることのできるこの遺跡の地下だ」


 「へ…?地下ですか」


 「そうだとも、ここの地下だ」


 「どれくらい、深いんですかね…」


 「わたしたちの間では50階層近くはあると考えている。」


 「ちなみに、今回の調査ではどこら辺まで…?」


 「とりあえず半分の25階層までは調査を終わらせたいと思っている」


 「ひ、そうですか…」


 「深い!深い!」


 「調査隊もいるんだ、安心したまえ」


 「……」


 「なかなか怖くなってきました…」


 ーーおじ様、そろそろ出発の時間です!

 そう言った声に促され、おじ様はわたしたちを連れていきます。


 「ほら、いくぞ。大丈夫だ、”調査隊とはぐれなければ”な、はっはっは」


 「変なフラグたてないでください!」


 「帰れる?帰れる?」


 「いいからいくわよ」


 「いーやあああーー」


 叫ぶわたしの声は無念にも届かず、おじ様と魔女さんに引きずられていきますーー。


 運ばれた先は遺跡の手前。

 すでに沢山の方々が集まっていました。


 「これが調査隊に同行してくださる魔女さんたちだ」


 「おおー」「魔女さんが一緒とは」「歓迎しますよ」「がんばりましょう!」

 言われるがままにお辞儀をします。


 「…ぜ、ぜひ、よろしくお願いします」


 「よろしくおねがいします!」


 「よろしく!よろしく!」 


 晴天の昼下がり、涼しい風がわたしたちを包みます。


 これから荒廃した遺跡の…それも地下深くにいくことになります。

 しばらくこんな新鮮な空気を吸い込むことは無いでしょう。

 大きく深呼吸をして、声高らかに宣言します


 「よし、やるからにはやってやる!」


 そうして、わたしたちの遺跡調査が始まりました。






 





 


 


 

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引きこもり魔女さんの介護生活、始めました。 らぴんらん @Yuurechan

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