第四話 仲間との出会い

「瞳が大きい子だなあ」

 その時、俺はぼんやりとそんなことを考えた。

 慣れてみれば、普通の人よりは確かに大き目の瞳ではあるものの、驚くほど大きい訳ではない。

 ただ、表情豊かで存在感のある目をしている。

 宮島は全体的に小柄で、背丈も学年標準より低い。

 その身体が実にきびきびとよく動いた。

 その上、肩上の黒髪を後ろでポニーテールに纏めていたから、余計に溌剌とした印象を周囲に与えていた。

 そのせいか、殆どの者は宮島を活発な性格だと思っているようだが、実は腹が座っていて物おじしないところもある。

 機敏さと大胆さが同居しており、最初の時からそうだった。

 俺が言葉を出しかねている間に、

「これ、提出しますから受理を宜しくお願いします」

 と言いながら、宮島はさっさと自作の入部届を俺の手に押し付けて、文芸部員であることを認めさせてしまった。


 宮島の次にやってきたのは、桜山である。

 穏やかな顔をした小柄な少年で、宮島と同じぐらいの背丈しかない。

 しかし、立ち振る舞いが実に落ちついていて、動作も礼法を習ったことがあるのではないかと思うほど、危なげなかった。

 そして、宮島とは小学校が違うはずなのに最初から気が合ったようで、学校内でも二人だけで楽しそうに話をしているところをよく見かけた。

 ただの同級生にしては密接すぎるほどである。

 先程も、宮島が飛び出した後を即座に桜山が追いかけていった。

 つまり、二人はそのような関係なのだろうと、俺は考えていた。


 最後にやってきた小宮山は、背が高かった。

 同学年の中では一番高く、同じく同学年の中では一番高かった俺と並んでいると、実によく目立つ。

 天然パーマの髪を短めに切り揃えており、それが動きにあわせて軽やかに揺れた。

 その様子が大きめの猫を連想させるため、性格も猫のように移り気だと思われるらしい。

 しかし、長く付き合っているとよく分かる。

 実はかなりの慎重派で、普段はあまりそれを表に出さないようにしているように、俺には思われた。

 そのギャップが実に面白く、思慮深い割にはあっさりと物に拘らない性格ということもあり、俺とは馬が合った。

 小宮山と一緒に居ると実に楽であったし、彼女を副部長に任命したのもそれが理由である。

 従って、周囲の者も俺達がそのような関係にあると考えていたし、俺も特に否定はしなかった。

 ただ、自分が小宮山を愛しているかというと、自分でもよく分からなかった。


 さて、宮島の後、さほど間を置かずにやってきた桜山と小宮山も、宮島と同様に俺に入部届を押し付けてきたため、文芸部は一学期のはじめから部員四名で活動を開始することになってしまった。

 俺にとっては大誤算である。

 しかも、他の三人が実際に文芸部として活動を始めてしまったものだから、勇気ある撤退をする余裕すら与えられずに、俺は部長としての責任を果たさなくてはいけなくなってしまった。

 これも俺にとっては大誤算だったが、そう悪くはなかった。

 何故なら、自分が思ったよりも集団をまとめて何かを成し遂げるという役割に向いていることが分かったからである。

 例えば、形ばかりの顧問であった国語の先生をひっぱり出して、学校から文集発行の特別予算を引き出したことがある。

 例えば、生徒会を引きずり込んで校内ビブリオバトル大会の企画を実現したこともある。

 いずれも、最初は宮島に引きずられてのことだったが、途中で面白くなって、最後には自分が最前線で指揮をしていた。職員会議での大演説は、後々まで語り草になったほどだ。

 しかし、そんな「自分でも想定外の充実した日々」を送った中学生活も、明日の卒業式で終わることになる。

 今にして思えば、彼女達との二年間は何だか短かったような気がした。

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