第三話 新たな物語の始まり
「――って、何だよこれは?」
俺はプリントアウトされた原稿の束から顔を上げて、目の前にいた後輩の
「いろいろ設定が雑だよ」
俺が原稿を読んでいる間中、何かを期待するように大きな瞳を輝かせていた彼女は、顔色を変えた。
「どこが雑なんですか? まるで実際にあったことを正確に模写したかのように、実にリアルな物語じゃないですか!」
「そうかあ?」
「そうですよ! 想像してみて下さい、先輩! 自分がこんな世界に転生したら一体どうするだろうか、とか」
「でもさぁ、最終奥義の名前が『スーパー・デラックス・ギャラクシー・マグナム』だよ。これ、自分で書いてて恥ずかしくなかった? しかも、マグナームって叫びながら発動。何だよ、ナームって?」
「それはこっちが言いたい台詞です!」
「え、なんで?」
「あ、いや、その……」
「それに、魔法使いがほぼ全裸に近いコスチュームって、戦場だからそんなの不自然じゃないの? しかも、付け足しみたいな設定で無理に合理化して。一体誰得だよ? アニメ化する前提でのサービスか?」
「……違います」
「これ、ネットの『小説家でいこう』にそのまま投稿してみたら? 相当叩かれると思うんだけど。説明過多な台詞に無理な条件付け。主人公が思い出さないと再転生できない点の必然性が俺には分からない」
「……」
「それに、仲間から説明されると余計に思い出せなくなる、とか。大魔王にしては条件がせこくないか? 他に何かやりようはなかったの? そもそも、主人公は疲れているんだから、その場で蹂躙すれば?」
「……」
「どうせ、最後は『ミルンへの愛によって、オルフェは無事に記憶を取り戻しました』というところに落ち着くんだろ? 伏線が見え見えだって。どうやって実現するつもりなのか、全然分からないけどさぁ」
「もういいです!!」
宮島は俺の手元から原稿を引っ手繰ると、それを胸に抱いて部室から出て行った。
「香苗ちゃん、待ってよ」
宮島と同級生の
遠ざかる二人の足音を聞きながら、俺は溜息をついた。
「佐々木先輩、いくらなんでも今のは言い過ぎですよ」
俺の後ろに黙って立っていた、宮島と同級生の
「……すまん、小宮山。自分でも分かっている」
俺はまた大きな溜息をついた。
そう、自分でもよく分かっている。
俺は宮島に厳しすぎるし、その理由が自分でもよく分からない。
*
俺が初めて宮島に会ったのは中学二年の四月だが、その少し前に話は遡る。
まず、俺が文芸部の部員になったのは、中学一年の二月のことだった。
小説には全く興味のない俺が文芸部に入部したのは、「三年生が二人しかおらず廃部寸前だった部を救うため」というのが、表向きの話である。
裏の理由は簡単だ。
歴史の古い文芸部は昔から部室が割り当てられており、三年生がいなくなればそれが俺の個室と言ってよい状態になる。それが狙いだった。
また、普通の部であれば部員が少なくなった時点で廃部対象となるが、有名作家を輩出した歴史を持つ文芸部は容易に廃部にできないし、既得権も簡単には剥奪されないはずである。
俺の読み通り、部員一名のままでも文芸部は部室付きで存続を許された。
これで一国一城の主だ――と俺が安堵したその直後に、彼女が現れた。
当然、俺は新入部員の勧誘なんか全然やっていなかったため、宮島は入学式が終わった直後に自分からこの『文芸部』の部室にやってきたのである。
「入部希望の宮島香苗です」
部室にずかずかと入ってくるなり、宮島はそう大きな声で言い切り、そのまま俺の顔をじっと見つめた。
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