1話 「偶然の再会」

 「久しぶりだな、元気だった?」要が通る声で話し始めた。

要はコンビニの制服を脱ぎ、旭と一緒に近くのファミリーレストランに来ていた。二人共タバコは吸うので喫煙席に座っている。旭は要が仕事が終わるまで待ち一緒にお茶でもと誘ったのだった。理由は2つ。旭にとって要は初恋の人であること。そして結婚の有無を聞きたかった。

 「ああ、元気だよ…」

旭は目の前に座る少年の様な顔を見つめながら答えた。確かに昔から名前とともに男の様な雰囲気を漂わせる奴だったが、首から下は女性だ。中学生の頃よりも当然の如く成長している。

 「相変わらず男口調なんだな」呆れて旭は笑った。

 「別にいいだろ?」本人は意に返さず、タバコの煙を深く吸い込んだ。口調も、タバコも旭の影響だし彼女を襲った悲劇のせいでもある。 

 小学校の頃、あんな事があったにもかかわらず要は中学3年のあの日、また被害者になった。小学校の時より不可解な事は全くない。彼女は誘拐されたのだ。


 「今、旭は何やってるんだ?」

一番聞かれたくない話題だったが、こいつの前なら気兼ねはいらない。

「ニート」

「ふーん」それだけだ。

 

 山中要という女はそういう人間だ。勉強は数学がずば抜けていて後は平均。後は何より他人についてあまり深く追求しない。この性格は高校にはいると余計磨きがかかった気がする。


 そして【小学校のあの日】は二人の間ではタブーだった。今となっては知る人は少ないが、地元では有名な事件だと旭は認識していた。


 頼んだ料理が来たので食事しながら会話ははずんだ。旭は、海鮮パスタで要はエビドリアだった。スプーンを使う彼女の指には指輪が光っている。さっきコンビニで見て気になっていたからその話しを旭は始めようとした。

 「結婚…したのか?」少し声が上ずっている。

 「うん」要は目で微笑んだ。

事件以来の男性恐怖症は克服したらしい。要にとって中学生の誘拐事件は重荷の筈だが。


 「あの時の刑事さんだよ」

 「はあっ!?」

話しを聞くと誘拐されていち早く彼女の元に駆けつけた、あの山中刑事(最も、確か交番の新人巡査だったが)らしい。そもそも救出されてから要のうわついた話しは聞いたことがない。

 「つっ…付き合ってたのか?」むせ返る旭にたいして要はしれっと「高校を卒業して直ぐに結婚した」そう答えた。男性恐怖症どころか、自分のあずかり知らぬところでそんな話になっていとは。山中刑事の顔が浮かんで旭は嫉妬をおぼえた。


 「旭は、雪乃を覚えてる?」

信じられなかった。あの日の話はタブーではなかったか。


 雪村雪乃

この名前を忘れるはずがない。

小学生の時、旭と雪乃を含めた五人におこった【神隠し】を。


そして雪乃は、【神隠し】の後戻ってこなかった。

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