三人目 「オフィス」

 マンションを出ると、風の強さに思わず顔をしかめた。もう3月後半なのに外気温は冬並みに低い。昨日は都心の方なんて雪が降っていたらしく彼女は都心で働く同期を気遣ったのを覚えている。

 腕時計を見ると8時20分をさしていたので彼女は足取りをはやめた。今日は10時から重要な会議があるため、誰よりもはやく出勤したかった。ただでさえ男尊女卑の世の中で、出世した彼女は疎まれることが多くちょっとした事で小言を言われる。


 「おはようございます、弘瀬さん」

オフィスのドアを開けると、部下である小柄な男性社員が早速駆け寄ってくる。渡された書類に印鑑を押し席に座る。パソコンをたちあげメールの確認。飲み会の誘いと夫からもう一件気になるメッセージが入っていた。

 「あの小学校、取り壊されるらしいぞ Katsu」

メールの本文にローマ字で名前をいれるのは、付き合い始めてからのなんとなく決めたルールだった。

母校のことだろうか。もう何年も前になる。


 リプライ送る。

 「田舎だもんねー廃校になってからあまりたってないけど…懐かしいなあ、活に話ししたっけ? Rui」


彼女の名前は、弘瀬瑠衣。

結婚5年目の夫は弘瀬活。


 このやり取りがあったのは祐一が小学校に行こうと思い立つ1週間前の事である。


主な登場人物

木島祐一(きじま ゆういち)

菅原旭 (すがわら あさひ)

山中要 (やまなか かなめ)

弘瀬瑠衣(ひろせ るい)

祐一のメールの送り主   ?

 

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