二人目 「アパート」

 「またかよ」

今年に入って受け取った不採用の通知の数を思い出しながら、菅原旭は前と変わらない、通知の書類を破り捨てた。

 名のある大学を卒業して内定を受けた会社をやめて以来彼はどこの会社にも拾われていない。いわゆるニートになってしまっていた。タバコを口にくわえて火をつける。いよいよ後が無い。旭は今年30歳になる。このままでは、将来絶望的だ。


 内定を受けた会社はブラックだった。残業は当たり前だし、しかも毎月提出している労働時間が書き換えられている事に気付いたときは、本当にうんざりした。それでも3年は死にものぐるいで働いたが相応の給料が支払われないため彼は転職を考え始めた。しかし転職はかなわず、会社をやめて今はバイトで食いつないでいる状態である。

 大学で習ったことはなんの役にも立たず、上司の顔色ばかり伺う毎日に嫌気がさして逃げた結果がこれだ。


 バイトは楽だが不安定すぎる。何よりも30過ぎてバイトでは彼女もできない。何よりそれが不満だった。旭はすいさしのタバコを灰皿に押し付けアパートを出る。腹が減っていた。

 歩きタバコが罰金となる地区なので、旭はレジに並ぶ頃にはイライラしていた。この時間のコンビニに何をそんなに買うものがあるのだろうか。彼は貧乏ゆすりをしながら前をむくとあやうく素っ頓狂な声をあげるところだった。

 小中高と一緒だった友達がレジをうっていたからだ。数学にしか興味が無いようなひねくれた奴だったがかなり仲は良かった事を思い出す。


 「あれ?旭か?」

声をかけるか迷っていた矢先に向こうから声をかけられた。隣のレジが空き、少し人がはけたとき、懐かしい友人の胸につけた名札が見えた。

 【山中】突然の再会で少なからず動揺する旭にたいして友人は20年前と変わらない笑顔を見せる。

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