4 しかくの夢(下)

午後8時半。

仕事場である研究所から彼が帰ってくる時間だ。


だけど、私が例の夢を見るようになった頃から、少し帰りが遅くなった。


寂しい。

寂しいし、不安。


こんなんだから、親友に相談しなきゃいけなくなったんだ。


この寂しさから、私はあの夢を創造してしまったのか。

思い出したくもない親友の顔が浮かんでくる。

今一番見たいのは、彼の顔だけなのに。


今日はなんだかイライラしているな、なんて思いながら、頭の映像を振り払うように目を閉じた。


微かに頭痛がする。





「...んっ」


寝てた。


「帰ってたんだ。おかえり......なに、これ」


ようやくピントが合ってきた薄く開けた目に写ったのは、待ちわびた彼の姿。


と。


首の後ろに突き刺された管。その先に繋がる注射器。


「なーんだ。起きちゃったか」


何?

いつもと何か違う。


「開発してみたんだ。夢の中でプロポーズするって薬。面白いだろ」


彼が笑う。

いつもの笑顔。なのに、気持ちが悪い。


怖い。怖い。怖い。


この夢は、私が創り出したものじゃない。


彼に見せられていたんだ。


「仕事の合間に色々試してさ。実験で君に投与してたんだ」


「なんで、そんなこと」


「丁度いいかなって!どう?嬉しい?」


やだ。


気持ち悪い。


「ごめんなさい」


「まぁ、でもまだ開発途中だし。夢の中で映像を見せるとこまでは成功してるんだけどな。そうだろ?今日友達と会って話してたもんな!全部聞いてたよ!」


「ごめんなさい...!」


もう誰も、信用出来ない。



私は、部屋を飛び出した。


毎日彼を待ち続けた、マンションを。





「...マウスでは副作用出たけど」



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