3 しかくの夢(上)

夢の中のストーリーは、実は自分自身で創り出しているものらしい。


そう私に言ったのは、高校からの親友だった。


「だからあんたのその変な夢も、自分の勝手な妄想なんだよ」


「妄想とはちょっと違うんじゃないの?」


最近、夢占いに凝っていると言っていたから相談したのに、軽くあしらわれて、私は少し腹が立った。

そんなことは気にしていない様子の向かいに座る親友。

彼女は、忙しなく雑誌で紹介されていたパンケーキを口に運んでいる。


「本当に不気味なのよ」


「何が?箱を持った人が立ってた、それだけでしょ?」


ぷっくり膨れた口から漏れる言葉が、余計に腹立たしい。


「それだけじゃないってば!その人が近づいてくるの」


近頃私は、奇妙な夢に悩まされていた。

内容はいつも同じで、箱を持った人がゆっくりと歩み寄ってくるのだ。

箱とは言っても、何か四角い固形物だということしか覚えておらず、その色も質感も、サイズでさえも目覚めた時には記憶に無い。

さらに、それを持っている人物についても、男か女かすら分からない。


「そういえば!彼とどうなの?」


「もー」


「いいじゃない!こういうのは気にしない方がいいの。そんな夢そのうち無くなるって」


いつもこうだ。

いつだって彼女のペース。


だが今回は、彼女の言うとおり考えすぎない方がいいのかもしれない。


「研究所にいるんだって?しかも、ちょっとイケメンらしいじゃん!!」


「そうでもないよ。普通、普通。まぁ、頭はだいぶいいけどね」


付き合っている彼氏のことを、親友に話したのはごくごく最近だ。

実は既に、彼とは結婚を意識し合う関係になっていたにも関わらず。


私は、親友の事が信用出来ない。


何故親友だと思えるのかもわからない。


いつも一緒にいたから。

お昼休みは一緒にお弁当を食べて、放課後は一緒にショッピングに繰り出す。


だけど大人になるにつれて、人の粗ばかりが見えてくるようになってしまった。



それでもまだ彼女を親友と言えるのは、かつての自分への眩しさか、それともただ単にどうでもいい存在に感じているのか。



そう考えながらも、私の視線は向かいの席のパンケーキを切るナイフをぼんやり追いかけ、頭の中は愛おしい彼で一杯なのだ。

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