歌を忘れたカナリア

歌を忘れたカナリア①

 大木おおき絵美えみが介護福祉士を目指したきっかけは、曾祖母の介護に苦しむ祖母の姿を目の当たりにしたことだった。

 祖母は、祖父の後妻だった。ふたりの間には子ができなかった。大木の父も大木も、祖父の前妻の血を受け継いでいる。

 祖母はいつも周囲の目を気にしていた。優しいが、いつも自信がないようにびくびくしていた。嫁である大木の母の方が、家では幅をきかせていたかもしれない。

 祖母は、体の動かない曾祖母の介護を強いられていた。

 ひとりで全て介護をこなし、尚且つ、家事も全てやり遂げることを祖父から厳命されていた。昔堅気の祖父にとっては、当然の考え方だった。それは愛する妻に対しても変わらない。

 大木は、祖母を救いたかった。自分も曾祖母の介護を手伝いたかった。しかし、祖母を嫌う母によっていつも邪魔立てされてしまった。

 祖母は曾祖母の介護を10年以上続け、62歳という若さでこの世を去った。死因は大木には知らされなかった。しかし、介護と家事による過労死であったことは充分に理解できた。

 当時、曾祖母は95歳。祖母の死後、曾祖母はすぐに介護施設に入所し、102歳で大往生した。

 大木は祖母を救うことができなかった。



 祖母のように苦労している人はたくさんいるはずだ。

 介護の資格を取って、世の中の人のために働きたい。

 大木はそう考えるようになっていた。



 母の反対を押し切って、実家から離れた福祉系の大学に入学した。

 介護福祉士の資格を取得し、大学の近くの特養に、介護職員として入職した。

 一度実家に戻され公務員の真似事をしたが、やはり介護の仕事がやりたくて、また実家を出た。

 大木の考えは変わらない。

 介護で世の中のために働きたい。



 これだけは真っ向から否定する。

 頭上からジン・トニックを浴びせられるために介護職をしているのではない。

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