第42話 良いお医者-「私は患者を診るため医師になった」
「私は患者を診るため医師になった」
この言葉は、30にして自ら骨肉腫を患い世を去った、一青年医の残した言葉です。
彼はこの病の故に、右下肢切断を余儀なくされました。
手術を受けて退院した後、義足をつけた彼は、ステッキ片手にまた日常診療に臨んだのです。
しかし悲運にも、数カ月後には肺へ転移していることがわかり、ついに咳や血痰を見るまでに進行してしまったのです。
院長がその凄惨な姿を見かねて静養を勧めましたが、彼は「私は患者を診るため医師になった。死ぬまでできるだけ多くの患者を診たい」といって、頑として受け入れようとはしませんでした。
それも長くは続きませんでした。ついに玄関先で倒れてしまい、「もはやこれまで」と意を決した彼は、朝礼の挨拶に立ち、こう述べたのです。
「私には医師として悲しいことが三つあります。
一つは治らないとわかっている患者に何もしてあげられない悲しさ。
二つ目は金の無い患者から金を取って診なければならないことの悲しさ。
三つ目は自分は患者の心をわかっているつもりでいたが病気で苦しんでいる人の気持ちはやはり誰にもわからないということです」
みんな泣いていました。ほんとうの医療とはこれなんだと、その時職員達は肝に銘じたのです。
私もこの言葉を読みながら涙を禁じ得ませんでした。
自ら血痰を吐きながら患者を診続けた医師。
それに引換え、夕方ともなると「疲れた」といっては患者に無愛想になる浅はかな自分。医療は患者のためにあることを、この青年医師に教えられたのでした。
〈つづく〉
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