第27話 医療訴訟 その3
昨今、救急患者のたらい回しがにわかに注目されていますが、その原因はといえば、この医療訴訟にあるのです。
医療訴訟が多い分野である小児科・産科・外科のなり手がどんどん減っていることなどは、これを物語っています(アメリカでも1970年代初頭、医療訴訟の急増により、訴訟リスクの高い産科・救急外科などの医師が廃業する事例が続出しました)。
「重症者はお断り、放っておいても治るような患者だけ診ましょう」
医療訴訟が増えてくると、こんな奇妙な現象が起きてしまいます。たらい回しはこの典型例なのです。
医療は不可解なものです。それは人間の個性が千差万別だからです。同じ1本の注射が、ある患者に著効を示しても、他の患者にはショック死を招来するかも知れません。アレルギー治療薬にアレルギーの出る人がいるとなると、何が何だか分からなくなってしまいます。医療では算数のように1プラス1が常に2になるとは限らないのです。
そういう未だもって不可解な医療を、万能のものだと誤解してはいけません。
臓器移植、遺伝子治療など、医療技術は日進月歩の勢いで進歩しています。進歩し過ぎのきらいもあると私は見ています。進歩が急過ぎると、それに伴うリスクも急激に増大します。
そして医療費はどんどん増加します。医療保険の収入源は限られていますから、一方を増やして他方を減らすというソロバン勘定で、かろうじて今の保険制度は成り立っているのです。
さらには社会全般と同じように、医療界でも倫理が技術に追いついていません。医者も人間ですから、現代社会で指摘されるモラル低下うんぬんは医者も同じで、医者にだけ高い倫理を求めるのは無理な気が私はします。
日本の医療は、こういった不安定要素を丸抱えしながら、危ない橋を渡っているのです。
1980年頃イギリスには医師や市民代表、弁護士からなる苦情処理委員会というのがあり、不満があった場合そこに訴えるようになっていました(現在では変更されているようです)。結果が悪ければすぐ裁判沙汰というより、まずお互いに顔を突き合わせて話し合うという方が好ましいと私は思います。
2008年から日本でも、医療事故の再発防止を目的として、厚労省や日本医師会、法曹などを中心として、医療事故調査委員会(医療事故調)設置に向けた議論が進行していますが、残念ながらなかなか合意するにはいたっていません。早急に設置されることを期待しています。
追記:この文章の執筆中に、休日の当直医が置いていったマンガを見ました。(余談ですが、アルバイト医師の病院当直室には、彼らが持ち込んだマンガとエロ本が散乱しているのには驚きです。不思議なことですね)
そのマンガは「やばい〇〇」というタイトルで、現役ナースによる病院実態の暴露本です。救急車を断る救急センターの医師たちを告発するその内容を見て、度肝を抜かれました。
マンガにご登場の病院では、カップラーメンがのびてしまう、麻雀中で誰も手が離せない、携帯ゲームの遊び中で忙しいという理由で、救急車の搬送を断っているというのです。
私はこんなひどい病院には、お目にかかったことがありません。いくらマンガといっても大うそをつくとは思えませんから、信じたくはありませんが、中には糾弾に値するこんな病院もあるのでしょう。
この告発マンガを読んだら、私の論調がとたんにトーンダウンしてしまいました。とほほ・・・。
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